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王国戦国物語  作者: 遠野時松
とある王国のエピソード
79/113

雲の行き先 52 実り 下

体調を崩してしまい更新ができませんでした。

すみません。

未だ寒暖差が激しいので皆様も体調に気をつけて下さい。

 ウィーリーの鋭く狂気を纏った目は、ロシリオの上げた手により冷静を取り戻す。

 先ほど発せられた言葉はテーブルを越えた者たちにも届き、チェンザードとイローネは会話の内容を全て把握しているわけではないが、何かを察して好奇の目を向ける。

「お前たちは気にせず酒を飲んでいればいい」

 ロシリオは上げた手を二人に向け、こちらに興味を示すな、と手首を振る。

「若、酒の肴は多い方がいいのでな、何の話をしていたのです?」

「そうですぞ領主、独り占めは宜しくない。将来有望な若者がウィーリーに厳しく叱責される姿は、領主の父親であられる先代のカバレロ様に鍛え上げられた時を思い出すのです」

 周りにいる者も思い当たる節がある様で、頷きながらロシリオの方を向く。

「他国の使者に対して、お前らと同じ事をするはずがない。大人しく酒でも飲んでいろ」

 目の前の煙たい何かを払うかの様にロシリオが再び手首を振ると、その横に立つウィーリーが静かにゆっくりと笑みを作る。

「おっと、怒らせると面倒なやつが何も言わずに笑っておる。これはそろそろやめ時だな」

 チェンザードは、諦めきれずといった顔を浮かべながら肩を竦める。それを見たロシリオが笑いながら「俺もそう思うぞ」と返すと、ウィーリーは握った手で口元を隠しながらくすりと笑う。

「君のせいで領主に笑われちゃったじゃないか、やめてよね」

 ウィーリーの口調がいつもの優しいもの戻る。

「申し訳ありません」

「謝る必要はないよ。俯いてないで皆の顔を見てみなよ、笑ってるだろ?」

「そうだ、気にすることはない。しかし皆、よく笑っておるな」

「そうですよね、領主。この様な場で表情が硬いのは何かあるのでしょうね。例えば君みたいにね」

「申し訳ございません」

「こんなにも楽しい会なのに、お前は直ぐに眉根に皺を寄せるんだな。少しは笑ったらどうだ?」

 リュゼーはその言葉に頷き、無理矢理と笑顔を作る。

「下手くそな笑顔だ」

 ロシリオは片眉を上げ、横目でリュゼーの顔を見つつ明け透けなくそう言う。

「領主、笑顔の意味を知らぬ若者にそれは言いっこなしですよ」

 笑い合う二人につられて、リュゼーの笑みから違和感が無くなる。

「本当にありがとうございます。ですが、なぜここまでしていただけるのですか?」

 配下となる者ならば、鍛えようとするのは分かる。皆の様子からそうする文化があることも窺える。しかし出会ったばかりだ、ここまでしてもらう理由が分からない。

「何でだと思う?」

「初めは気紛れかと思いましたが、それにしては手厚いので思い当たる節がありません」

 先ほどから言葉の端々に手がかりを散りばめてくれるが、ここは駆け引きなしに素直に尋ねた方が良い気がする。

「そっかぁ、なぜだろうね。君の言う通りに、領主のただ単に気紛れなんじゃないかな。僕はそれに従っているだけだよ」

 ウィーリーは人懐っこく笑う。

「——それよりも、さっきの会話で何を感じた?」

 再び声の質が変わり、笑顔とはかけ離れた鋭く問い掛ける声が、リュゼーの耳にだけ届けられる。

「——見張っていろと言われた者だけ、笑顔に違和感がありました」

 リュゼーは間を置かず、皆に聞こえぬ声で答える。

 なぜ、面倒を見てもらえることについては分からないが、笑顔についてこれほどまで言及されたら否が応でも気が付く。

「——そう、正解。君は本当に勘が鋭いね。それなら僕たちは、何をみていたと思う?」

 リュゼーは暫し考える。

 そんなリュゼー達をさておき、ロシリオはチェンザードから向けられた杯に応える様に自分の杯を顔の前まで持ち上げてから、お互い目を見合わせてから酒を口にする。

「——ラギリ様ですか?」

 横に控えるウィーリーに倣って、笑顔のままリュゼーは答える。

 これも先ほど教えたかったことだろう。表情は相手に情報を与えることになる。この様な場では、自然な笑顔は武器になる。

「——なぜ?」

 ウィーリーはロシリオに酌をしながら、リュゼーと会話を続ける。

「——私が皆様と話をしている時に、ふらふらとその者に近付いていました。その時にあの者の顔がこわばりました」

「——何だ、見ていたじゃないか。怒って損をしたよ」

「——いえ。会話をしている様子がなかったので、特に気にする必要が無いと判断しました」

 ロシリオは、皆が楽しそうにしている様子を眺めながら笑みを浮かべる。その横でウィーリーも、その様子を微笑みながら眺める。

「——近寄られたやつは迷惑そうだったでしょ?」

「——はい。少々おかしいなと思いました」

「——それなら、こう表現したらどうかな。あそこにいる人たちは、誰一人としてラギリが怪しいと知らなかったら?」

 リュゼーはその男に目を向けるのを必死になって堪えると、それに気が付いたロシリオはリュゼーに顔を向ける。二人の目が合うと、「そういうことだ」とだけ、ロシリオは告げる。

 その瞳の奥にある狂気を垣間見たリュゼーの背中は冷たく強張り、思わず唾を飲み込んでしまう。

「そんな風に見えないかもしれないけれど、領主も色々と大変なんだよ」

 ロシリオは、余計なお世話だと鼻で笑いながらウィーリーの言葉を受け流し、再びチェンザード達と馬鹿話に花を咲かせる。

 心に邪なものがなければ、ロシリオとチェンザードとの遣り取りを見る他の方々みたいな顔になるはずだ。あの男はそれができなかった時点で、自らが不穏分子であると暗に認めたことになる。

「本当、笑えないよね」

 ウィーリーは笑いながらそう言う。

 それを聞いたリュゼーは、口の中が乾いていくのを感じる。

「——あの男はこれからどうなるのですか?」

「——ほっとくよ」

 恐る恐ると聞いてはみたが、思いも寄らない返事がくる。

「えっ?」

 ウィーリーは、思わず言葉を漏らしたリュゼーを困った顔で見る。

「——今はまだその時じゃないからね。色々と利用させてもらうつもりだよ」

 最悪の場合として処されるのかとおもったが、その時との表現から今は、敵対勢力の炙り出しにでも利用するのだろう。

「——あの男を見ていろと言われました。あの場で行われた情報交換で判明したわけではなく、始めから分かっていたことなのですね」

 恥を晒したくない、と師との話し合いでウィーリーは言っていたが、その際にあの男が怪しいと分かったわけではなく、前々から知っていたと考えるのが妥当だろう。

「——それはどうかなぁ」

 ウィーリーはとぼけた口調で答える。

 その顔は笑顔のままだが、その口元からはこちらを試しているのが読み取れる。

「——始めから知っていればもう少しお役に立てたのに、申し訳ありません」

 あの時の話が聞けていたら、もう少しだけでも上手く行動できていた。それがもどかしい。

「——それって、こっちの指示不足ってこと?」

「——いえ、そんなことはありません。表現方法が間違っていました」

 ウィーリーの言い様にリュゼーは顔が引き攣るのを必死になって堪える。

「——それなら、何もかも、全てを知っていればこちらの望み通りの働きができるのかな?」

「——そこまでは言いませんが、何かしらの動きはできたのかもしれません」

 先ほどのこちらを試す態度や挑発的な物言いに、ついつい感情が言葉に出てしまう。

「それは楽しみだ」

「そうですね、領主。お願いされたことはここまででしたが、こちらの願いも聞いてもらいましょうか」

「そうだな、自ら望んだことだ」

「はい、どれだけの働きができるか試させてもらいましょう」

 ウィーリーは、楽しそうにロシリオに酒を注が終わるとリュゼーに顔を向ける。

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