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王国戦国物語  作者: 遠野時松
とある王国のエピソード
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雲の行き先 49 見守る先

 イルミルズとドロフが離れたことにより、次の組みが通される。その数、二十名足らず。見ていた限り、この場に訪れた人数では一番多い。いずれも体の線が分かる仕立ての良い服に身包み、顔を赤らめて談笑しながら歩いてくる。

 ウィーリーは、人の流れの邪魔にならないように上手くリュゼーを導きながら、ロシリオの傍へと向かう。

「ロシリオ様、再びお話できて光栄です」

「堅苦しい話はいらん。やってる姿を見るなりして、ウィーリーに付いて勉強していくが良い」

 やはりロシリオは、話すことを望んでいたいたわけではない。

「感謝します。一つお聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか?」

「残念だけど、そんな時間はないよ」

 ウィーリーにより話は遮られてしまう。色々と聞きたいことがあったが。諦めるしかない。

 リュゼーは促されるまま、参列者へと意識を向ける。見ると、先頭を歩く胸に紋章をつけた中老を過ぎた男が、ラギリに話しかけているところであった。

「あなたは確か……」

「ボウエーンで商いをしております、ラギリと申します」

 ラギリは恭しく手を差し出す。

「おお、そうでした、そうでした。最近は人の名前を思い出せなくなり、困ったものです」

 互いに距離を保ちつつ、挨拶程度の握手をしてから直ぐに手を離す。口調は柔らかいが、体つきは商人のそれではない。

「チェンザード様とお話しできて光栄です。トンポンより流れ着いた野党の集団を寡兵にて撃退したお話を聞いた際には、胸がすく思いでした」

「随分と昔の話を覚えているようですな」

 チェンザードは笑って応えるが、堂々とした立ち振る舞いから佞言には興味がないことが窺える。歳を重ねているとはいえ、身のこなしや体つきは相当のものがある。後ろに付き従う者たちからも、武の香りが漏れ出ている。

「私もこの場に同席させていただいてもよろしいですか?」

「こちらとしては問題ないがな」

 チェンザードはウィーリーに視線を投げ掛ける。ウィーリーが肯き返すと、ラギリは「おじゃま致します」と、その場にとどまる。

「父上、整いました」

 傍らにいる、最も武の香りが強い者が声をかける。先ほどまで談笑していた者たちから笑顔は消え、隊列を組みようにチェンザードの後へと並ぶ。

「そうか」

 チェンザードは後ろに整然と並ぶ者たちのことを一度も見ずに、ロシリオへと体を向ける。

「領主、ご挨拶に伺いましたぞ」

 会場内の話し声や雑音に負けない、腹に力の入ったよく通る良い声をしている。海風の中においても同様だが、この声は戦場などで重宝するだろう。

「チェンザードよ、よく来てくれた」

「なに、心配性の父君の代わりに若の顔を見に来ただけです。単なる老兵の暇つぶしとお考え下さい」

 チェンザードの軽口に傍らに侍る男のみが笑みを浮かべ、その他の者たちは顔色ひとつ変えずに毅然とした態度で領主であるロシリオへと目を向け続ける。

「チェンザード様」

「ウィーリーよ、呼び方ひとつでそうやって怒るな。短気は損気だぞ。物言いは父親にそっくりなのに、気性は正反対だな」

 チェンザードは笑う。

「わしにとって若は、いつまで経っても若のままだ。どれだけ偉くなろうと、おしめを変える時に小便を引っ掛けてきよった可愛らしい若のままなのだ」

「分かっております。しかしこの様な場ではお控え下さい」

「控えるも何も、リチレーヌでも有数の領主となった若のことを、侮る者などこの国にはおらん。のう、リサード?」

「父上の仰る通り、武においてもこのリチレーヌでは、ロシリオ様は飛び抜けております」

「確かにな。打ち合いにおいてお前が負ける姿は、相手が若以外に久しく見ておらん」

「そんな俺を赤子扱いするやつに、そんなことを言われたくないな」

 ロシリオは片眉を上げ、チェンザードを見返す。

「小手先だけの子ども騙しで勝ちを拾っても、何も嬉しくはない。若とて、真剣では負ける気はしないであろう?」

 チェンザードも同じくし、笑い返す。

「その言葉に、金の帯を巻いて返してやる」

 そう言うと、ロシリオは手を振る。それを合図にして、使用人により酒の入った杯が全員に配られる。

 ロシリオがペターから酒を注がれ終えたのを確認すると、チェンザードが杯を掲げる。チェンザードの後ろに並ぶ者たちも、一斉に杯を掲げる。

「この国の女神たる、女王のために」

 その言葉を受けてロシリオは杯を差し出し、チェンザードと同じ時、同じ動作で杯を飲み干す。後ろの者たちは、二人が杯に口を付けたのを確認してから杯に口を付け、チェンザードと時を同じくして杯を口から離す。

 屈強な男たちが一糸乱れず行う一連の出来事は、この様な場では異様でもあるが、見惚れてしまうほどに美しいものでもあり、自然と会場全体に圧を与える。

 その圧を受け取った者は、不思議な感覚に襲われる。美しいものと脳は判断しているのに、体の奥底では生命の危機すら感じる。威嚇をされているわけではないのに、この者たちと争うことを体が拒否するのだ。

 それを見たロシリオは、満足気に腕を横に伸ばす。ペターは差し出された杯に酒を注ぎ、ウィーリーの横まで下がる。

 後ろ手で腰の辺りで手を組み、様子を見守っていたウィーリーの目が鋭く動き、何かを確認する。

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