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王国戦国物語  作者: 遠野時松
とある王国のエピソード
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雲の行き先 48 任せる策を立てたのは、とある人物

 何をすれば良い、今すべきことは何だ、何を任されている。それを直ぐにでも把握しろ、先ずは考えるんだ。

 この段階で二人がこの場から離れるということは、ロシリオとの情報交換が主な目的だったのだろう。ヘヒュニとのやり取りは、ボウエーンで行われた会か、晩餐会と呼ばれる会食で済んでいると考えるのが妥当だと思われる。

 ヘヒュニとロシリオ、両方からこの場へ誘われるという異常事態は、エルメウス家の者を呼び付けるのに適した人物だったに過ぎないだけだ。愚者を演じろとはよく言ったものだ。

 リュゼーはドロフに目配せをするが、相手からの返答はない。

 この任務をあんなにも嫌がっていたのは、これが理由だったのだ。師は面倒くさがりだから、気が進まなかったのだろう。だが、自分だけ残される理由が分からない。

 この状況では、これからどうすればいいか確認するのは不可能だろう。馬車での訓練や、部屋を移動しながら話せたことが懐かしい。教えを受けることのありがたみと、己自身で考えて動くことの難しさを思い知った。指示された通りに動くことで満足していた自分が可愛くもあり、馬鹿らしくも思える。この役に選ばれて当然だ。力の差があまりにも違いすぎる。悔しい。

 そんなリュゼーの姿を見たイルミルズは笑みを浮かべ、周りに気付かれないようにドロフの腰の辺りを小突く。わざとリュゼーと視線を合わせないようにしていたドロフだが、小さく顎を振り、『気付いている』とイルミルズに合図を送る。

 そんな遣り取りさえ気付かないほどに考え込むリュゼーは、平静を装って顔を作っているが眉根に僅かに皺を寄せる。

「どうしたの?」

 ウィーリーはリュゼーに優しく語りかける。

「そんなに怖い顔しなくても、誰も君を傷付けたりしないよ」ウィーリーはラギリの方を向く。「そうですよね?」

「そ、そうですとも」

 先ほどから自分に向けられているウィーリーを含めた皆の態度に違和感を感じていたのか、ラギリは慌てて答える。

「特別な格を持たなければこの場に立つことができません。当然ながらそのような輩はここには居ませんぞ」

「ラギリ様もこう仰っているんだし、肩の力を抜けばいいんじゃないかな。それの方が領主としても嬉しいはずだよ」

 ウィーリーの言う通りだ。

「ありがとうございます」

 リュゼーは頭を下げる。

 当初から予定されていたことなのかどうかは別として、この場に選ばれたということを光栄に思うべきだ。一丁前を気取っていた世間知らずに、こうして新たな役割を与えてくれたのだ。その期待には応えるためにも、エルメウス家から求められている仕事を単独で読み取り、それを満足する基準でこなさればならない。それをこなせてこそ、エルメウス家に相応しい人物だと認められる。肝に銘じろ。

 イルミルズは、再び思い耽っているリュゼーのことを横目で確認すると、片眉を上げて小さく顎をしゃくる。だが、ドロフは何も言わずに宙を見つめる。イルミルズはくすりと笑うと、表情を変える。

「そうですかな?」

 イルミルズが口を開く。

「どう言う意味ですか?」

 ウィーリーが問い返す。

「先ほど順番を待っていた際に、ラギリ殿はロシリオ様とリュゼーとの関係に興味がおありのご様子でした」

 ラギリは目だけを素早く動かし、動揺を瞳の奥に隠しつつドロフに向ける。

「多分ですが、お二人の関係を羨ましく考えておられるのではないですか? 男の嫉妬ほど怖いものはありません」

「イルミルズ様、酒の席とはいえ、それについてはいかがなものでしょうか?」

「そうですぞ、イルミルズ殿。そのようなことが、あるはずはありません」

 不躾な言葉にラギリは謙るも、語気は強い。

「そうですか、それは失礼した」

 言葉ではそう言うが反省している態度が見えないイルミルズの肩を、ドロフは手を置くように叩く。

「リュゼーにもそうでしたが、そうやって酒を飲まない相手に対して難癖を付けるのは、些かならず感心しませんな」

 明らかに冗談だと分かる物言いであったがイルミルズの表情は険しくなり、険悪な雰囲気が二人から広がっていく。

 ここでロシリオが手を二度ほど叩く。

 それを受けてウィーリーは杯に酒を注ぐと、二人に手渡す。イルミルズとドロフは杯を合わせてから、一気に飲み干す。

「これで手打ちだな」

 ロシリオは領主の威厳を示しつつ笑う。

「イルミルズ様」

 ウィーリーが先ほど注いだ酒が入った瓶を手に持ちながら、慮って話し掛ける。

「こちらをお持ち下さい」

「これほどの品をよろしのですか?」

 険しい雰囲気は一変し、イルミルズに笑顔が戻る。

「喜んでいただいて光栄です。これは、いただいた挨拶のお返しです」

 ウィーリーは和かに笑うと、ロシリオへと視線を送る。

「酒好きのチャントール翁へのお返しとなれば、これが一番であろう?」

「ロシリオ様の言う通り、これが一番に喜ばれるでしょう」

「途中で飲んでしまわないように気を付けなければいけませんな」

 ドロフが先ほど同様に話しかけても、イルミルズは笑顔を絶やさない。

「ドロフ殿、お互い様ですぞ。こちらとしては、あなたが飲んでしまわないか心配ですぞ」

「それはないので安心して下さい」

「おいおい、しっかりこちらの挨拶と共に届けてくれよ」

「心得ています」

 三人は声を出して笑い合う。

「それでは、失礼します」

 ドロフは皆に挨拶をする。

「この品が飲めないとは、残念ですね。代わりに私どもが飲み尽くしてしまいますね」

 イルミルズはラギリに向かって不敵な笑みを浮かべる。ラギリは少し引き攣った笑顔で応える。

「イルミルズ様、少々、酔いが回っておいでですか?」

 ウィーリーの問い掛けに、イルミルズは「おっと」と、体を少し仰け反る。

「口を滑らせてウィーリー様に叱られる前に、この場を離れますかな」

 イルミルズは、その場から離れる間際にリュゼーの肩に手を置く。

「酒が飲めない者同士ならその気持ちが分かるのではないか。せいぜい友好を深めるんだな」

 ラギリからはその顔が見えない角度でイルミルズはリュゼーに笑いかけ、ドロフに視線を移す。ドロフは明らかに不服そうな顔をして応えると、リュゼーからの言葉を待たずにイルミルズに肩を抱かれたままその場を離れる。

 リュゼーは二人の後ろ姿を見送りながら考える。

 せいぜいという言葉は皮肉として使われることがあるが、あの笑顔からするとそうではない。ラギリに意味を履き違えさせるためにわざと使ったものだ。ということは、お前一人でラギリをどうにかしろ、と言われたのではないか。皆の実力を勘案すれば、話の流れでラギリから情報を抜くことなど容易いだろう。そうなると、得られるものが無いということなのか。それを踏まえると、ラギリという人物はそれほど危険視されていないのではないか。

 いや、待てよ。急遽、二人が離れる必要ができたと考えたらどうだ。ロシリオは、イルミルズにチャントールへ挨拶を届けてくれと言っていた。隠された会話の中に、早急に伝えなければいけないことがあったというのだろうか。

 ラギリに関してというか、敵情の報知が少なすぎるため分析が上手くできない。手にした情報が少なく、これ以上は考えても分からない。改めてその重要性というものが分かる。

「そんなに怖い顔をしないでよ」

 リュゼーはウィーリーの言葉により、自分の顔がどうなっているか気付かされる。

「この様な場のために緊張してしまい、申し訳ありません」

「多分だけれど、ラギリ様も君と仲良くしたいと考えていると思うよ」

「全くその通りです」

 ラギリはイルミルズがいなくなったせいか、心に余裕ができたのが分かる。それにより普段の調子が戻ったのか、ラギリが醸し出す海千山千の雰囲気に自分ひとりでは太刀打ちできないことをリュゼーは悟る。

 ここは無理をせずに、当たり障りの無い会話をして煙に巻くだけで良いのではないか。

「きっと君とラギリ様が仲良くなったら、エルメウス家としては嬉しいだろうね」

「それは良い」ラギリは笑う。「先ほど話したディレク様も素晴らしいお人でした。こちらとしてもお願いしたいですな」 

「よろしくお願いします」

 そう答えるリュゼーだが、己が品定めを受けているのをラギリからの視線からひしひしと感じる。

「ありがとうございます」

 どうすれば良いか教えてくれたウィーリーに対し、ドロフは頭を深々と下げる。一番深く頭を下げた位置で目を瞑り、顔を上げる前にリュゼーは顔を作り直す。

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