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王国戦国物語  作者: 遠野時松
とある王国のエピソード
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雲の行き先 47 承認 下

 三人の会話は変わっているといえば変わっている。裏があるのでは? と、感じるものではあるので、情報通と言われるラギリにとっては興味を惹かれるものだろう。

「楽しそうな話をしていますな」

 誰にともなくラギリはそう言いながら、間合いを測りつつゆっくりと歩いてくる。

 ウィーリーは酒瓶をテーブルに置き、「お久しぶりですね、ラギリ様」と、ラギリへと歩を進める。

「おお、ウィーリー様。お久しぶりですね、お元気ですか?」

 こちらの輪に入るきっかけを見つけたのか、ラギリの顔は様子を探るものから笑みへと変わるが、目だけはしきりに動かしている。

「はい、ラギリ様は?」

 ウィーリーは手を差し伸べる。

「歳を重ねる毎に、体の痛いところが増えていきます」

 ラギリはその手を握る。

 二人の視線が重なる。

 少しだけ間を置いてからウィーリーは笑顔を作る。

「それは大変ですね。どうされました?」

「どうされましたとな? いやいや、手厳しい。お三人方が楽しそうな話をしているので、私も混ぜていただこうと思いましてな。ご迷惑でしたかな?」

 ラギリはそう言うと、感情を読み取るのが難しい笑みで応える

「そんなことはございません」

 二人は笑顔のままで言葉を交わすが、握られている手を離そうとしない。

 そんな二人の冷えた雰囲気とは真逆に、酒を手にする三人は陽気に笑い『二人の事などどうでもよく、今から最高の品を味わうのが楽しみで仕方ない』といった雰囲気で、互いの顔を見てから示し合わせて酒を口にする。

「どうだ?」

 杯から口を離したロシリオは、片方の口角を上げ挑戦的にドロフに訊ねる。ドロフはその挑発を受けて立つように笑う。

「間違いのないものだと、考えます。年月を重ねて風味が変わったのを感じます」

「そうだろ?」

「はい」

「私もドロフ殿と同じ考えです」

「それを聞いて安心した」

 ロシリオは満足そうに頷く。

 リュゼーは対処的な二組の姿を交互に見る。どちらかの会話に参加しようとするが、あまりにも衝撃的な状況に言葉が出てこない。

 一頻り盛り上がった三人の会話が落ち着くと、ウィーリーがラギリに向かって「いかがですか?」と訊ねる。

 ウィーリーが行う、酒を勧める動作をするにより、ここでやっと二人の手が離れる。

「いやいや、酒は遠慮しておきます」

「何かご予定でも?」

「そういうわけでは無いのですがね」

 ばつが悪そうに、ラギリは顔の前で手を振る。

「何ですと? ラギリ殿は酒を飲まないのですか?」

 先ほどの楽しい雰囲気から一転して、イルミルズは不満気に訊ねる。

「よいではないですか、イルミルズ殿。私たちエルメウスの者も飲まないのですから、人それぞれ都合があるのでしょう。そうですよね?」

「いや、まあ……。都合というものは特に無いのですがね。少々、体の調子が芳しく無い……、と言いますかね」

 ドロフの助け舟に、奥歯に物が挟まったような言い方でラギリは答える。

「酒は好きなはずですが?」

 ドロフは、尚も問いただそうとするイルミルズの肩を「まあまあ」と言って叩く。そして、「このままですと、あれですので」と、言葉に含みを持たせてロシリオに伝える。

 ロシリオは、困ったものだなという顔をして肯く。その様子から、イルミルズの酒癖についてロシリオも承知しているのだろう。

「それでは俺が、酒に酔ってラギリ殿にからんでいるみたいでは無いか」

 自分に向けられたものではないが、あまりの剣幕にラギリはたじろいでしまう。その圧力を直に受けたドロフは、駄々っ子と見る様にして飄々と、しょうがないなと顔を綻ばせて首を小さく横にふる。

「誰もそんなことを言ってないではありませんか。私がチャントール様より直ぐに戻ってこいと言われているのお忘れですか? あの場所に戻るだけです。そこで飲み直しましょう」

 ドロフはイルミルズの肩を抱きながら、その場を離れようと促す。それを見てラギリは安堵の表情を浮かべる。

「せっかくのお話をする機会ですが、失礼に当たりませんか?」

 ドロフはラギリに問う。

 ラギリは「いえいえ。どうぞ、どうぞ」と、慌てて返事をする。

「そうですか、ありがとうございます」

「おい、おい。ドロフ殿」

「まあ、まあ、まあ」

「そうでは無い」

「分かっていますとも、分かっていますとも」

「いいや、分かってはいない」

 これと同じやり取りを繰り返しながらこの場を離れようとする二人を見て、ラギリはほっと胸を撫で下ろす。

 リュゼーもドロフについてその場を離れようとすると、ウィーリーに「君はここに残ってもらっていいかな」と引き止められる。

「いや、しかし」

「領主が寂しがってしまいます」

 そんな優しい笑顔で諭されてしまうと、断ることなどできない。しかし、『チャントール様からの挨拶』も済んだこの状況では、この場に残る意味は無い気がする。

「ドロフ様、よろしいですか?」

「構いませんよ」

 ドロフは笑って応える。

「よろしいのですか?」

 リュゼーは改めて確認する。

「何か問題はあるのか?」

「いえ、何もありません」

「そうだろ? 俺だったらロシリオ様とお話が出来るなんて光栄だと考えるがな」

「その通りです、失礼いたしました」

 ドロフとリュゼーの会話を、ウィーリーは笑顔で聞き入る。

「それにだ。よろしいも何も、お前は馬車に乗りながらヘヒュニ様と話をしたいと願い出ていたではないか。ここに残れば、その願いも叶えられるのではないか?」

「——そうだよ、ここで帰ってはもったいないよ。ヘヒュニ様を見返すんだろ?」

 なぜそれをウィーリーが知っているのかと、リュゼーの体がピクリと動く。しかしここで反応してしまうと、ラギリに変に勘繰られてしまう。

「はい、私の願いを聞いてくださりありがとうございます」

「——そうこなくっちゃ。さっきの話を聞いただろ?」

 リュゼーはウィーリーの言葉に惑わされない様に気をつけ、自分の話した内容に沿って、感謝を示すために頭を下げる。

「——師から承認していただいたんだから、頑張らなきゃね」

「願いを聞くも何も、俺はお前の保護者ではない。一人の家人として好きにすれば良い」

 ドロフは片眼を薄くしてリュゼーの顔を見つめながら、そっけなく答える。

「師もこう言っているんだから、気にすることはない。お主の好きにすれば良い」

 イルミルズは先ほどの意趣返しなのか、笑ってドロフの肩を力強く抱く。

「——よかったね、遣り甲斐しかないじゃないか。楽しみだね」

「ありがとうございます」

 リュゼーは三人の能力に畏敬の念を感じ、先ほどロシリオが二人に酒の味を訪ねた時に三人がしていた『ラギリは帝国側』という言葉を反芻しながら頭を下げ、ひとり静かに拳を強く握りながら顔を上げる。

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