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王国戦国物語  作者: 遠野時松
とある王国のエピソード
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雲の行き先 45 承認 上

 時間の都合からか、前の組と重なるかたちで奥のテーブルへと着く。

 通例というよりは、前の組とヘヒュニとの会話が思いの外に弾んでしまい、仕方なく通されたといった方が適切だろう。

「領主が待ちくたびれてしまったみたいで、我が儘を言い出しました」

 ロシリオの後ろに控えていたウィーリーが、テーブルよりこちら側に来てイルミルズと握手をする。

「お気になさらず。チャントール様の挨拶を届けに来ただけなので、誰かに聞かれようと困るものではありません」

 イルミルズは笑い返す。

「こちらとしても問題ありません。ディレクも楽しそうに話していますので、良い縁が結ばれているのでしょう」

「ありがとうございます」

 ウィーリーとドロフは握手をしながら、互いの胸をぶつけ合う。

「何せ私は、おまけみたいなものですからね」

 ドロフは握手をしたまま、左手でウィーリーの肩をポンポンと叩く。

「そんなことは仰らずに」

 そう言いながらウィーリーは手を離し、テーブルに用意された杯を手にするように二人に勧める。

「領主」

 ウィーリーの言葉にロシリオは頷き、椅子に座ったまま杯を手にする。

「良き縁を」

 ロシリオが顔の位置まで杯を上げると、「良き縁を」と言い、イルミルズとドロフは同じく杯を上げる。三人は同時に、杯に口を付ける。

 ウィーリーとリュゼーは傍に侍り、口をつぐんでそれらが終わるのを待つ。

 ロシリオは酒を飲み干すと、杯を持ったまま腕を横に伸ばす。ペターは、『花の周りを大珠と小珠が輪状に囲む』特徴的な紋が設えられた瓶に入っている酒を注ぐ。注がれた果実酒を二人に向けて「どうだ?」と、味を問う。

「絶品です」

 イルミルズが答える。

「ロサリオ産の葡萄酒が、これほどまでに美味しいものだとは思いませんでした」

 ドロフも使用人から注がれる葡萄酒を眺めながら賛辞を呈する。

 それぞれテーブルを挟んでの会話のためか、酔いのためか、いつもより声が大きい。

「そうであろう、この会のために最高級品を用意した」ロシリオはリュゼーに目を向ける。「お前も飲んでみたいだろ?」

「ロサリオ様、私ではご不満ですか?」

 リュゼーが答える前に、顔を作りながらドロフは杯を差し出し、ロシリオに語りかける。

「不満などあるはずがない」イルミルズはドロフに笑い掛ける。「この者は実に良い男です。酒の味が分からぬ者より楽しき酒になりましょうぞ、ロシリオ様」

 イルミルズは杯を掲げる。

「そうか、それは楽しみだ」

 ロシリオがそれを受けて杯を二人に向けると、三人とも酒を口にする。ドロフが杯を空けるのを見て、「実に良い飲みっぷりだ」とロシリオは笑い、自身も杯を空ける。

「飲みくらべですな」

 イルミルズも二人に次いで杯を乾かす。三人は悪戯っ子の様な不敵な笑みを浮かべ、それぞれ使用人より酌を受ける。

「良い酒が勿体ない。あの品は、あの様にして飲む酒ではないんだけれどね」

 三人がたわいもない話をしだしたので、ウィーリーは笑いながらリュゼーに話しかける。

「心得ています」

 砕けた雰囲気になったのを感じ取ったリュゼーは、肩の力を抜いて答える。

「ここから見ていたのだけれど、僕の真似をしてくれていたね。一度見ただけで真似できるなんて、やはり君は優秀なんだね」

「お褒めにあずかり光栄です。勉強させていただきました」

 リュゼーは差し出された手を握り返し、ウィーリーと胸をぶつけ合う。

「——でもこのままだと、その役目は失格だよ」

 胸を合わせた瞬間に、ウィーリーはあの声で話しかけて来る。リュゼーはその意図を測りかね、ウィーリーの顔を見つめる。

「——気を抜いている場合じゃないよ、耳を傾けてごらん」

 ウィーリーは手を離しながらそう付け加え、目だけで合図を送る。リュゼーは示された三人へと意識を向ける。

「エルドレの果実酒も飲んでみたいものだな」

 ロシリオが豪快に笑っている。

『……しゃる通り』

 微かだが、ロシリオの音葉に紛れてドロフの声が聞こえる。

「エルドレにもお勧めできる酒が多数あるので、是非」

 ドロフは先ほどとは違う声色、いつも通りというよりはいつもより大きい声でそう言うと、顔の前に杯を持ち上げ人懐っこく笑う。

『チャントール様もエルドレにつくと申されています』

『そうか、承知した』

 今度は、ドロフの言葉に隠れてロシリオとイルミルズの会話が聞こえてくる。周りに悟られぬ様に気を配り、リュゼーはウィーリーに視線を送る。

「——待機していた時から段々と声が大きくなっていきましたが、この声の大きさは酔いからではなく、このためですか?」

 リュゼーの問い掛けに、ウィーリーは静かに微笑む。

 挨拶を届けるとはこのことだったのか?

 酒を飲んだのはこのためだったのか?

 これは、何もかもが計算されていたのか?

 リュゼーは、数々の疑問が頭の中に浮かんだが、集中しなければ紛れた声を聞き取れない為、その考えを隅に押しやる。

「そういえば、ビノー様が米酒を飲みたいと申していました。私は米酒を飲んだことがないのですが、ビノー様とドロフ殿とで話した内容を聞く限り、それはそれは旨いものらしいですね。是非とも飲んでみたいものです」

 イルミルズの声が、奥のテーブル周辺に響き渡る。

『私どもの願いを聞いていただき、ビノー様より要塞の建設を認めていただきました』

『エルドレは、やる事が早いな』

『先ずはお話程度です。場所など詳細を詰めてから決定となります』

 その隙にドロフとロシリオは話を進める。

「米酒か、久々に聞いた名だな。米で作っているのにも関わらず、白ブドウで作る酒のような味わいがする不思議なものであったな。チャントール翁も興味がありそうだがどうだ?」

 ロシリオは隠れた会話をこなしつつも米酒の味を思い出す仕草をしながら、表向きのたわいもない話についても表現豊かに語る。

「酒好きゆえに、我が主人も飲みたいでしょうな」

『資材や人手についても、チャントール様より協力は得ています』

 ドロフは、ニヤリと笑うイルミルズの言葉に己の言葉を隠しつつ、チャントールとの密約をロシリオに伝える。

「そうだろうな。彼程までに酒が好きならば、聞かずとも分かることだな。しかし、手に入れるのに苦労するのではないか?」

 ロシリオが杯をテーブルに置くと、すかさずペターが酌をする。

「それがですな、ドロフ殿は『色々な商人と貿易をしているから、さほど難しくはない』と、笑っていました」

『人手についてはビノー様も協力すると申されています。上に使われる土や木材は、新たな開拓より調達します』

 ロシリオの問い掛けに、二人同時に答える。ロシリオは腕を組んで「エルメウス家としては、米酒を手にするのは簡単だと申すのか?」と、再び訊ねる。

「この辺では麦が主要ですので、遠方より私どもエルメウス家の伝手により、最高の品を取り寄せる予定です。ここで知り合えたのも何かの縁、費用については私がどうにかします」

『この者は都市アルビスと縁があります』

『トンポンと国境を接するリチレーヌ西方のか?』

『はい、築城の天才と言われるベイリトン様が治める地です』

『なるほどな』

 ロシリオは杯を手にする。

「金の工面もそちらでするとは、エルメウス家とはかなりの財力を持っているのだな」

 ロシリオはドロフに杯を向ける。

「価値のある物に対しては金に糸目をつけるな、というのが家の教えです」

「エルメウス家というのは、気持ちが良いやつらだな」

 三人は同時に酒を口にする。

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