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王国戦国物語  作者: 遠野時松
とある王国のエピソード
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雲の行き先 41 やらせてみて

 品を運び入れた部屋へと向かう途中で、リリーズとすれ違う。

 一緒に歩いている者は満遍の笑顔で、今現在、自分が気になっている物を詳しく説明していた。

 品が運び込まれた部屋に入り、管理している家人に伝える。家人は嬉しそうに笑い、従者と話を詰める。再び笑顔を向けると、リュゼーを大広間へと返す。

 自分の手柄ではない、それは分かっている。だけれど、家人と同じ事をしていると考えた途端、嬉しさのあまり緊張してしまい、よく覚えていない。

 ただ、興奮しているのだけは分かる。

 大広間に戻ってみると人の移動は落ち着いたらしく、チャントールがいるところ以外の長テーブルは閑散とし始めた。チャントールには椅子が用意されており、その横で皆と楽しそうに酒を飲んでいるドロフがいる。

 リュゼーを見付けたチャントールは、手を振って自分の方へと呼ぶ。

「無茶をするではない。勝算の無い無茶は成功しないぞ、必ず失敗する。無謀とは愚者のやる事だからな」

 リュゼーは新しい杯を手渡され、チャントールから果実水を注いでもらう。真似事で杯を合わせてから、果実水を口にする。いつもより美味く感じた。

「ご心配をお掛けしました」

 荷を運ぶ際の酒について、ドロフから聞いたのだろう。リュゼーは感謝を伝える。

 チャントールは和かに笑い、ゆっくりと顔の前で手を振る。

「聞けば、既に何年も働いていて、やっとのことで雇われる手前だと申すではないか。あれで駄目になってしまったと為ったら、寝付きが悪くなるところだったぞ」

「そうだ」勢い良くイルミルズが会話に加わる。「その服を着るだけでも大変らしいじゃないか、ドロフ殿から聞いたぞ」

 すっかりと、イルミルズから棘は抜けている。

「たまたま呼ばれた者がこの程度だとしたら、仲良くしておいた方がいいんじゃないですか?」

 赤ら顔が、孫ぼけしているチャントールを茶化す。初めの方に受けた会の印象とは違い、この場だけは街の食堂と何ら変わりはない。

 酒瓶が運ばれてくる数が増してくると、ドロフは静かに杯を置く。

「どうした?」

 チャントールは少し寂しそうに、ドロフに訊ねる。

「チャントール様をご案内する前に、他の挨拶を済ませておきたいなと思いまして。よろしいですか?」

「戻って来るというやつを、止めるなどせん。役を終えたら直ぐに戻って来るのだぞ」

 承知しました。と頭を下げるドロフに、赤ら顔の男が酒瓶を振る。ドロフは口角を上げて答える。

「イルミルズ」

「何でしょう?」

「二人を案内してやれ」

「承りました」

 イルミルズは杯を空けると、口を拭い、身を整える。

「こやつは、この辺りに顔が利く面倒見の良い男だ。酒を飲まねば、だがな」

 チャントールの軽口にイルミルズは笑い返すと、酔いに効くと言っていた、酸味の強い果実水を使用人から受け取り、口の中に行き渡らせてから一気に飲み干した。

 確かに言う通りで、先ほどみたく管を巻いている時とは違い、イルミルズは正すと品が出る。

 ドロフとイルミルズを先頭にして、リュゼーは後をついて行く。

 イルミルズが人を選んだ節はあるが、この場で酒が飲めるのは強い。言葉を幾度と交わすよりも、一杯飲み交わした方が仲良くなれている。その強みを活かしてドロフは、言葉巧みに人と人とを繋げていく。

 人を笑わせ、人を楽しませ、軽口を重ねる。酒好きの前では旨そうに酒を飲み、わざと家人に叱られてみたりして、相手貴族との仲を取り持ったりもした。

 リュゼーは後ろに控えて、その様子を必死になって目で盗む。

 涼しい顔をして賑やかしているが、首の後は汗をかいている。それに気が付いた時に背筋が伸びた。

「キュポ貝というのは、リチレーヌでも沿岸部では食べられている貝でしてね」

 ドロフは周りに酒を注ぎながら話をする。

「干した物を齧りながら、海を眺めて飲む酒も格別ですよ。この時の酒は、果実酒ではなくて米酒が合います」

「米酒か、この年になっても飲んだことがないな」

 ドロフの横にいるイルミルズが、愛想良く相手をする。その様子を見て周りも安心するのか、どんどんと打ち解けていく。

「美味いものじゃぞ」

 丸テーブルに座る白い髭を生やした貴族は、無意識のうちにペロリと唇を舐める。

「お好きですか? ご縁があればご一緒しましょう」

「縁があればの、楽しみじゃ」

 二人は杯を合わせる。

 ドロフが白髭の貴族たちと話をしているうちに、リュゼーは周囲に目を配る。少し離れた位置にいる、家人のエルキスが合図をする。リュゼーは静かにその場を離れ、エルキスの近くに寄り、その役目を聞く。

 ドロフとエルキスは、それぞれが人と話をしている中でひっそりと合図を交わす。頃合いを見たエルキスは、リュゼーの肩をポンと叩いてからその場を離れた。

 貴族の名は、ビノー。領土は広くないが、山の裾野から扇状地にかけて、土壌の良い土地を治めている。

 ビノーの作る葡萄酒は評判が良いが、エルメウス家で取り扱う話はあまり聞かない。最近、塩の季節に集まる他国の要人内で、リチレーヌ産の葡萄酒が流行り始めている。販路の拡大、特に塩の季節で要人に振る舞えるほどの高級品が欲しいらしい。

 それを伝えるためにドロフに近付くと、「エルドレのエルメウス家だな、分かった。ワシの作る最高級品を送りつけてやる。飲んで腰を抜かすが良い」と、ビノーが笑っていた。

 任されたものは既に終わっていたことを伝えると、「それは俺のだ」とドロフは首を横に振る。

 ビノーは気を利かせて、外交が終わるまで酒が飲めないから、エルメウス家に送ってくれるのだ。縁は十分に得られた、終わったも同然ではないか。

「実はですね。この者はリュゼーと申しますが、近々成人します。感謝の証として親に贈る葡萄酒を探しているのですが、ビノー様の作る葡萄酒は、他にも余裕がありますでしょうか」

「どれほどの値段で探している?」

 リュゼーに視線を向けるビノーの目を盗んで、ドロフは顎を振る。

「私は酒を飲まないので、どの程度がいいのか検討が付いていない状況です」

「そうか。数本単位なら、どれでも出してやる。しかし、運ぶ手間暇を考えたら、エルドレの良い酒を買った方が親も喜ぶと思うぞ」

 このままでは話が終わってしまう。

「ちなみにお聞きしますが、高級品といわれる品物の数はどれほど余裕がありますか?」

「なぜそんなことを聞く?」

「はい。数を集めて運べばその分、安く済みます。ただ単に、興味からくる質問です」

「そうか、百とはいかないまでも、かなりの数は揃えられるぞ」

「そうですか、ありがとうございます」

 少し間を空けるが、ドロフは何も言わない。

「本数を抜きにして、何かあったら相談してもよろしいですか?」

「孫ほど歳の離れた者からの頼みじゃ、断れぬな」ビノーは己の使用人を呼ぶ。「いつでも構わぬぞ」

 使用人と共に長テーブルに移動しようとすると、「いつになったら俺の所に来るのだ?」と声を掛けられる。

 リュゼーの近くにいたエルメウス家の者が声の主を確認すると、その役目を代わる。

 酒を飲む時間が少なくなってしまったなと、ドロフは手酌で酒を飲む。

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