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王国戦国物語  作者: 遠野時松
とある王国のエピソード
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雲の行き先 40 やってみて

 ドロフを見つめる皆の目は変わり、通が好みを語り合っている様に、それぞれが葡萄酒について話をし始める。会話の中心に、ドロフが入り込んだのが分かる。

「それより、本当に大丈夫なのか?」

 イルミルズが訊ねる。

「荷を運んでいる道中では、決してやりません」

 ドロフは悪戯じみた、悪い顔をする。

「荷を運び終えたといえば言える、この状況だからこそ飲めるというのだな」

 赤ら顔は笑う。

「時と場合による。と、解釈しています」

「まったく、面白いやつだ」

 チャントールはドロフに酒を注ぐ。

「ところがですね、家からは大丈夫なのですが……」

 ドロフは周りを見渡す。

「何だ?」

「上手くやりやがって、といった恨みを抱える酒飲みの顔が見えませんか? あいつらからの仕返しの方が心配です」

 チャントールの杯に自分の杯を合わせると、ドロフは誰かに見せびらかしながら酒を口にする。

「そうだな、これに似た手はもう使えぬからな」

 チャントールも悪戯心で、手にする酒をこの上なく旨そうに飲む。本当に美味そうに飲むものだから、どこからか唾を飲む音が聞こえる。

「全体から感じるエルメウス家というのは、気の持ちようは堅そうなのに、意外と洒落が通じるのだな」

「通じるかどうかは分かりませんが、荷は確実に運ぶという信頼は皆様から得ています。その上、こんな洒落っ気も利くとなれば、誰もが信用してエルメウス家を利用して頂けましょう」

「確かに、言う通りだ」

 チャントールは嬉しそうに酒を注ぐ。ドロフは注がれた酒に口を付けると、御返しにと酌をする。

「先ほどは失礼をいたしました。あの者は、この様な場所が初めてでして」

「なに、気にすることはない」それ以外は不要だと、チャントールは杯をドロフの前に出す。「そのためのあの服なのだろう? 見た目が若く、服が違えばそれとはなく分かる」

「心遣いありがとうございます」

 二人は杯を合わせる。チャントールはうまそうに酒を飲む。それから、「これがしたかったのだ」と、目を閉じて深く頷く。

 赤ら顔の男が、そんな二人に酒を注ぐ。

「チャントール様の好きな酒になりそうですね」

 チャントールは酒の水面を見る。

「自分に都合良く考えてしまうのが酒呑みの悪い癖だが、酒を酌み交わさなければ分からぬこともある」

「私もそう思います」

「武の者は剣を合わせた時に、商い人は手を握った時に、酒呑みは酌み交わした時に相手が分かる」

「その道に精通する者は身体の動きで心も読み取れるものですから、その通りだと思います」

「そんな大層なものではない。単に数を重ねただけの、年の功じゃ。お主は悪いやつだが、嫌な奴じゃない。酒の飲み方で分かる、そんなヤツと飲む酒は面白い」

 最後の一言により周りの雰囲気はさらに友好的になり、ドロフがそこにいても何ら違和感は無くなる。

 婚儀の話に戻ったかと思えば、いつの間にかチャントールの孫の相手はどんなやつがいいかと、要らぬお世話に花を咲かせている。

「それをいうなら、お勧めします。特にエルメウス家の者は面白いやつが多いので、チャントール様のお眼鏡にかなう者もきっといるはずです」

 イルミルズからエルドレ王国について聞かれたドロフが答える。ドロフは海での話を交えながら、さらに話で皆に溶け込んでいく。

「それなら孫は、海へと近付けないようにしなければな」

 ひとしきり話を聞いたチャントールが答える。

「私共は潮風で輝きますので、さらに良く見えます。その方が宜しいかと思います」

「船を操る話を聞かせておいて、尚も言いよる。あの山を大馬車で下る技術がありながら、海の方が得意だと言うのか」

「エルメウス家には、乗り物を扱う腕だけでは入れません。リュゼー、この館に運んだ品の中で面白い品はないか?」

 ドロフは問い掛ける。

「はい」

 そう返事をしつつ、館に運ばれた数々の品を一つずつ思い出す。視線をドロフに移すと、そこには見覚えのある『勘の鈍いやつだ』と言いっている時にする、あの顔をしている。

 深く息を吐き、リュゼーは呼吸を整える。

「こういったものはどうでしょうか?」

 先ほど見せてしまったオドオドした態度が嘘のように、背を正して答える。

「一般的に高級品と言われている珊瑚や珠の類をお勧めしても面白くないので、幼な子が好きそうな物をご紹介いたします」

 声は年相応に、しかし不快にならない程度に出来るだけ低く、ロシリオの横に控えるウィーリーを模する。

 そんなリュゼーの姿を見てドロフは口をゆっくりと閉じるのだが、勢いの余り口元を僅かに歪ませ、楽しそうに酒に口を付ける。

「東方には子が生まれた祝いに、一対の人形を飾る風習があるのですが、鮮やかな着物を人形に着せるために腕が達者な者が多数います。その国に住む物好きな領主が、職人に各国の服を真似て人形の服を作らせたのですが、あまりにも出来が良かった為、各国の要人がお土産として持ち帰るほどになりました」

 チャントールの食指が動くのが分かる。

「可愛らしい人形と共に服を多数、揃えております。元々は飾るものを人形遊び用に作り替えた物ですので、部屋に置き、それを眺めるだけだとしても耐えられる品です」

「どう思う?」

 チャントールはドロフに尋ねる。

「あれならば、チャントール様でなくても興味を引くと思います。着せ替えて遊ぶのも良いですが、少し大きくなられてお友達が遊びに出来た際に、その方々とも一緒に遊べます。そして、その物珍しさに、お友達も頻繁に通っていただけるのではないでしょうか。客人の所縁のある服を着せれば、喜ばれるのではないでしょうか」

「ほおぉー」

 チャントールは思わず声を漏らす。リュゼーも心の中で、感嘆する。

「部屋の飾り付けが好きな女性ならば、飾り付けのひとつとして手にしてもおかしくない品です」

「そうなのか? 娘がそういった物が好きでな、興味がある」

「そうですか。それならこれも、何かの縁。是非ともご覧ください」

「金銀財宝などより、孫の笑う顔の方が心踊るものだと孫を抱く度に思う。良し、良し。偶然が重なったとはいえ、あの数の中からその品を選び出したことに感謝したい」

「チャントール様もご存知の通り、品を覚えるのは商いの基本ではありませんか? 私共も運ぶ品に愛着を持っております」

 周りにいる者は何も言わずに、それぞれが酒を口にする。

「基本中の基本だな。だからこそ、その凄さが分かる」

「家として利は求めますが、利の中に笑顔も含まれています。作り手の気持ちを蔑ろにする気など無いと、ご承知おき下さい」

「抜けているようで抜け目無い、面白いやつだな」

「我が家は面白いやつ等の集まりと、先ほど申した次第です」

「言うだけのことはある」

 チャントールはリュゼーをまじまじと見る。リュゼーは控え目に頭を下げる。

 チャントールには申し訳ないが、あなたに向けての品なのだから、これを選ぶのは当然だ。あなたは師に誑かされたのです。

「祝いの品の他にも、絹や綿など上等な幼な子が羽織る衣などもあります。よろしければ、後ほど紹介いたします」

「いかがいたします?」

 ドロフの問い掛けに「それは良い」とチャントールは答え、「取り敢えず、その人形については今すぐ話を付けてくれ」と、自分の従者を呼ぶ。

「後ほど行うご紹介の際は、私もお供いたします」

「当たり前ではないか。楽しみだな」

「ありがとうございます」

 チャントールとドロフは杯を合わせる。 

「リュゼー」

「承知しました」

 リュゼーは胸に拳を当てると、従者と共に大広間から出て行く。

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