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王国戦国物語  作者: 遠野時松
とある王国のエピソード
63/113

雲の行き先 36 大広間 下

「チャントールは酒を飲むと気が弛むから、それまでもう少し待つ。ヘヒュニが動き始めたら、何も食えなくなる可能性がある。何か腹に入れておきたかったら、今の内に食べておけよ」

「はい」

 リュゼーは、すでに焼かれて切り分けられている肉を何個か取り、最後の一つを口に入れる。

 やはり美味い。しっかりとした肉感と、肉の持つ旨さが口の中に広がる。塩漬けにしていない証拠だ。

 馬車でこの肉の話を聞いてから、絶対に食べると決めていた。この会のために、ハオスより上等な牛を馬車に乗せて運ばせたらしい。

 こちらに負けず劣らず、ヘヒュニも豪胆な事をする。

「女王の元に分け隔てなくとはいっても、格や位は大切みたいですね」

 リュゼーは、順序良く入れ替わりながら挨拶を受けるヘヒュニを眺めているのいるドロフに話しかける。

「使用人の方たちがスープを持ってきましたが、要りますか?」

「もらおうか」

 リュゼーは「はい」とドロフに答え、「二つお願いします」と、スープを受け取る。

「格や位があった方が楽、と言った方が正解だな。その方が統治をしやすくなる。何せこの国は、女王の求心力で持っている様なものだからな。女王がご健在なら、国が傾くことはないだろうな」

 丸テーブルにいるヘヒュニの元に代わる代わる人が訪れているが、あれだけの人数が奥のテーブルに挨拶にいけないのだから、奥のテーブルの地位はどれほどなのだろう。

「幼い頃に女王になられたのですよね」

 ロシリオも只者では無い。それらを求心力で統べるとは、自然と興味が湧いてくる。

「女王が六つの時に先代が亡くなられてな、それから権力争いの道具にされ、八つの時に女王に即位された。リチレーヌにとって嬉しい誤算は、女王が人を統べる力に長けていたということだな。全ての領主が、崇める女神と同様に女王の前で跪くことに何の躊躇もせん」

 当たり前なのだが、ヘヒュニは寛容な領主然とした態度で、皆からの挨拶を受けている。ボウエーンでの立ち振る舞いと今とでは、全く別のものとなっている。

「扱いが酷かったと馬車で聞きましたが、女王を利用して権力を握ろうとした者がいたのですね」

「初めの頃は傀儡として扱いが酷かったが、反女王派というか、女王の就任を良く思っていない連中も女王の人柄に心惹かれると、派閥というものがなくなり自然と権力が均等化していってな、女王のためならと領主が身を引くために国が一気に纏まったのだ」

 こんなことを聞かされたら、ますます興味が湧いてくる。

 肉で勢いのついたリュゼーが直ぐにスープを飲み終わると、使用人がその横に静かに近付き、空いた器をそっと受け取りその場を離れる。

「その様な、素敵なお人なのですね」

 別の使用人が「食べてみて下さい」と、リュゼーに料理が盛られてある器を手渡す。リュゼーは「ありがとうございます」と受け取り、ドロフに顔を向ける。

 チャントールが酔うまでの時間潰しだろうが、情報は多く得ておいた方が良いし、その意味合いがあるのだろう。

 ドロフは「そうなのだよ」と笑う。

 馬車で聞かされた話もそうだが、それほど酷いことはされていないと思う。昔から、どの国にもありそうな話だ。

「担ぐなら見込みのある者をと選んだら、予想外の大物だったということだな。ヘヒュニとロシリオの父上は自ら女王の親衛隊を名乗っておってな、『女王のために国を富ます』と、お互いの領土を超えて灌漑工事をしたおかげで生産量が大幅に増えたのだから、女王は全く見事なものだ」

 この笑顔を見る限り、この方も女王の魅力にやられてしまっているのではないかと思う。

 リュゼーは、先ほど受け取った器の料理を食べてみる。

 麦を粉にせずに粒のまま根菜と煮たものだが、プチプチとした食感がありこれもなかなか美味い。薄味で鳥肉との相性も良い。麦を粉にせずにそのまま調理するとは、豊富に採れる証拠だ。このテーブルでこの美味さだとしたら、丸テーブルに載る料理はどれほどのものなのだろう。食べられないのが残念だ。

「祭壇にある女神像だが、天使の様に幼き姿であろう? リチレーヌでも女神といえば女神トゥテェクレなのだが、あれは女王の幼き頃を表していてな、不敬といえば不敬なのだが、幼き頃の姿だから許されるというか、それさえ許されるほどに女王が民からも愛されている証というかな、とにかく、素敵な人なのだ」

 口数が異常に多い。確実にこの人は女王を慕っている。

 最後の丸テーブルではヘヒュニへの挨拶が一通り終わると、デゴジとウタニュは二人とも立ち上がる。そのまま前の席までヘヒュニの後を付いて行く。

 前のテーブルに控える予定の者が、一番最後の席に座るのだろう。領主と話す機会も得られるため、理に適った仕組みだ。

 デゴジが引いた椅子にヘヒュニが座ると、両脇の二人は杯を掲げて労をねぎらう。ヘヒュニはそれに応えるように杯をそれぞれに向けて、小さく掲げる。

「さてと」

 ドロフはスープを飲み終え、器を使用人に手渡す。口直しにと渡された、果実水が入った杯を三本の指で綺麗に受け取る。

「他に何が知りたい?」

 リュゼーは首を横に振り、チャントールの方をチラリと向く。

「それなら、そうだな」

 二人が様子を探るチャントールは、人々に囲まれながら陽気に笑っている。丸テーブルに座っていてもおかしくない人物だが、家督を譲ったためにこちら側にいる。酒の場が好きなので、遊び半分でこのような会にはいつも参加をしているらしい。そこで、俺たち……。いや、俺に与えられた任務は、孫が生まれたチャントールにお祝いの品を勧めることだ。

「あと、もう少しだな」

 チャントールは目に入れても痛くないほどに可愛い孫のためならと、少々高くても良い品を集めている。海の物は縁起が良いものが多く、成長と共に変わる品をエルメウス家が手配することで、今後ともご贔屓にしてもらおうという魂胆だ。

「他にも食うなら急げよ、酔いすぎてしまっては話ができん」

 ドロフの言葉に、リュゼーはパンの上に載せた食べ物を急いで口に放り込む。

 何も難しいことはない。だが、先ずはこちらを上手く熟さなければ次はない。ヘヒュニとロシリオのことは一旦忘れて、こちらに集中しなければならない。

 リュゼーは干しブドウを手で何粒か掴み、口の中に隙間が出来次第に放り込んでいく。

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