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王国戦国物語  作者: 遠野時松
とある王国のエピソード
61/113

雲の行き先 34 大広間 上

 都市の中心となる館にあるだけのことはあり、通された大広間はかなり広い。

 この場所で祭儀も行われるらしく、奥には祭壇もある。ここならかなりの人数が入りそうだ。

 祭壇の前に当たる部屋の奥には、脚に見事な彫刻が施された長いテーブルが置かれている。こちらに向けられて椅子が置かれているため、あれらはヘヒュニたちの席だろう。

 その手前にある数で十を超える丸テーブルには、それぞれ数名が座っている。こちら側の列に座る者の顔を見る限り、先ほどの部屋にいた名を呼ばれた人たちだ。それからすると、祭壇に近い列の丸テーブルに座っている者は、会食に参加していた高貴な方たちだと思われる。

 お互いの席が少々離れ過ぎているともいえるが、テーブルの上に載る料理の量からしてあの距離は仕方ない。祭壇に背を向けるように席は配置しておらず、一番広く開けられたその場所には、香草をふんだんに使って焼かれた美味そうな肉の塊が置かれている。

 そこから少し離れたこちら側は、名を呼ばれていない者たちに割り当てられた場所だ。決められた席は無く、長いテーブルが縦にいくつか置かれている。人の分布はやや身内で固まっている印象があるが、先ほどの部屋で縁を結んだのか前から顔見知りだったのか、テーブルを跨いでの会話も活発になりつつあり、所々から家を跨いで笑い声が聞こえる。そのため会場には気楽な雰囲気が流れている。

「リリーズさんは流石ですね」

「確かにな」ドロフはリリーズを見て笑う。「あいつが受け持つのは三人だからな、時間が惜しいのだろう」

 直ぐそこにいるリリーズは、直ぐにでも相手と肩を組めるほど親しげに、腹がでっぷりとした男と話をしている。

 リリーズの地位としては丸テーブルに座っていてもおかしくないが、家がそんな使い方をするわけが無い。それに見合った利があれば、その相手が例え当主であったとしても遠慮せず使えというのが、エルメウス家全体の考え方だ。のんびりと椅子に座らせているわけがない。

「水菓子ぐらいなら食べても良いだろ」

「駄目ですよ」

 リュゼーは美味そうな匂いがしている料理から、わがままを言いだしたドロフへ視線を移す。

「全ての丸テーブルの肉をヘヒュニが切り分けたら食べ始めてもいいと、ドロフさんが教えてくれたんです。我慢してください」

 この人なら、周りの目を盗んでつまみ食いをすることぐらい、平然とやってのけられるだろう。

「おっ、始まりそうだ。丁度良いな」

 奥の扉に使用人が歩いて行く。

「つまみ食いするのに丁度良いな。と、言っているようにしか聞こえません」

「まあ、お前には無理だろうがな」

 ドロフは小馬鹿にして片眉を上げる。

「それについて言っているのではありません。遊び感覚で、いらいらを解消しないでください」

 リュゼーは会場の雰囲気に合わせて、声を小さくして言う。

 いつ口に入れたのか分からないが、すでにリンゴを蜜と砂糖で煮詰めたものが、一切れ無くなっている。

「甘い物は、気の薬になる」

「確かに言いたいことは分かりますが、食べるのは後にして下さい」

「これも美味いぞ」

 ドロフはブドウに顎をしゃくる。

「会が始まる前に、無くなってしまいますよ」

 リュゼーは呆れて笑う。

 使用人が扉の両側に位置すると、室内の空気が変わる。部屋内の会話が全て止んだのを合図にして、使用人が奥の扉を開く。

 皆の視線が扉へと集まる中、先ずはヘヒュニのみが部屋に入ってくる。

 祭壇へと昇る段の手前で立ち止まり、軽く祈りを捧げる。客人を自分のところまで招き入れると、日が昇ってゆくのを真似て、祭壇の前までゆっくりと段を昇り、女神像へ片膝を突いて深い祈りを捧げる。それに合わせてその場にいる全ての者が黙祷を捧げ、リュゼーも倣った通りに額に指をつけて目を瞑る。

 それら全てが終わると、ヘヒュニは祭壇の下で待つ客人の元へと向かう。奥のテーブルに用意された椅子までディレクを導くと、自分はテーブルの真ん中の位置に立ち、手を差し伸べてディレクを先に座らせる。

 ディレクの後ろには、座る際に椅子を引いたヘヒュニの執事と、エルメウス家のインテリジが立って控える。インテリジは、家の仕組みに精通している知識豊富な人物だ。色々と会話の補助を担当するのだろう。ロシリオにとってのウィーリーと言えば、その役割が分かりやすいと思う。

 続いてヘヒュニは向かって左側に顔を向け、そのロシリオと間を合わせて同時に座る。ロシリオの後ろには使用人のペターとウィーリーが控えている。

「どうだ?」

 静まり返った室内で、ドロフのあの声が聞こえる。

「なぜ気に入ってくれたのか分からないですけれど、相手の気紛れに感謝します」

 どうだもこうだもない、できることなら諸手を挙げて喜びたい。

「一番のお得意様を射止めたのに、つまらなぬ反応だな」

 ドロフは片眉を上げながら顎を向けて顔を斜めにし、この状況を理解するのに必死なリュゼーの顔を見つめ、楽しそうに笑う。

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