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王国戦国物語  作者: 遠野時松
とある王国のエピソード
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雲の行き先 23 外交と商い 中

「それならば、そんな奴は相手にする必要はないな。このまま抜け出してデポネルで酒でも飲んだ方が有意義だ。お前もそう思うだろ?」

 そんなことを言われても返答に困る。出来ることならその様にしたい。

「そういえば、さっき師がどうこう言っていたな。俺の予想だが、その師という者は大の酒好きなのではないか? いや、多分そうだ。酒場でその者をもてなせば、きっと喜ばれると思うぞ」

「おっしゃる通りかもしれませんが、悲しいかな、ヘヒュニはこの地の領主です。リチレーヌで生産された穀物がこの地に集められることを考えれば、それ相応の対応をせねばならないと思います」

 俺を困らせて楽しんでいるだけだと思うが、ここで賛同したら面白がって任務を放棄しかねない。

「穀物の輸送ならば、ゲーランド港からエルドレに運びだせばその問題は解決するな。やはり相手にする必要はないな」

 言う通りではあるが、誘い水が酷すぎる。

「確かにその通りではありますが、それを行うには時間を要します。私もその策について考えましたが、その様にはしないとディレク様は申していましたので、今回は不適切と考えました」

「まったく、お前は遊び心というものが足りないな」

 ドロフはつまらなそうに鼻を鳴らす。

「お言葉ですが、ただ単に酒を飲むのであれば、晩餐会の場でも可能だと思います」

「その上、可愛げも無いとなると目も当てられないな。お前は師から嫌われているのでは無いか?」

「師を尊敬しているからこそ、諫言は弟子の役目です」

 晩餐会の場においても、酒を飲めるのは限られた者だけである。多分だが、酒が飲めるとなれば喜んでこの役目を引き受けたと思う。

「お前は減らず口を諫言と勘違いしている様だな。それならば、ヘヒュニをどう扱えば良い?」

 口調に棘がある。あからさま過ぎて微笑ましくもある。

「一つお聞きしますが、晩餐会へはこの地の有力者も参加するのですよね?」

 先ほどのドロフとの話で、『敵対するものは滅する』というのがどうしても気になってしまう。ヘヒュニという人物がどういったものなのか、先ほどの会だけでは測りかねる。しかし、それに値するほどの人物とは思えない。

「そうだ」

「それならば、ヘヒュニについては差し置いて他の者と商いをするのが望ましいと考えます」

 ヘヒュニと商いをしないのであれば、残された手はその人脈を利用するしかない。自分にはそんな権限は無いが、不用意な一言でその方向に進んでしまいそうで気が引ける。

 しかし、ドロフからの返事は無い。

「いかがですか?」

 沈黙に耐えられずリュゼーは尋ねる。

「まあ、そのように考えるのが普通だよな」

「はい」

 普通という言葉が引っ掛かる。しかし、それしかないと思う。

 本家の方々と共に出発した護衛付きの荷馬車には、遠方との交易品の他に珊瑚やベッコウなども積まれていた。

 幸いなことにこの馬車を含めて後続となる荷馬車には多種多様な品が積まれている。これらを利用して商いに持ち込めば、直接の利益はないにしろ、巡り巡って税としてヘヒュニの元に辿り着くのであれば双方に利はあるはずだ。

「自信たっぷりのようだが、それは策や外交と言えるものなのか?もう一つ言えば、なぜお前でも思いつく普通なことなのに、エルメウス家は事前に調べてこないと思ったのだ?」

 リュゼーは息を呑む。

「気が付いたようだから教えてやる。この馬車に積まれている荷は、チャントールという人物に向けて選ばれた品だ。これぐらいのことは商いの基本だ。つまらんことは言うな」

 思い返してみれば確かにそうだ。乾物や調味料など、一つの荷馬車にまとめて運んだ方が効率的なのに、わざわざ分けられて積み込まれていた。

「申し訳ありません、初めから気が付くべきでした」

 塩の取引にのみ目がいきがちだが、他国の情勢などを商人を通じて把握し、扱う品物を決めるのはエルメウス家が得意とするものだ。それだからこそマルセールの街は、塩の季節以外にも各国の商人で賑わう。

「それでは、その様にした理由は何だ?」

 その口調は、これ以上つまらないことは言うなよと、暗に物語っている。

「趣味・趣向はこちらに筒抜けだと、知らしめることができます」

「そうだな」

 顔馴染みの相手ならば、ただ単に欲しいものを提供したに過ぎない。しかし、晩餐会で顔を合わせるほとんどの貴族が、初対面となるだろう。

「相手がそれに気が付かなかった場合は、どうするのですか?」

「その程度の人物ならば、どうとでも出来る」

「それを見極めるための外交なのですか?」

「趣味・趣向が分かっているのにか?」

「愚問でした」

 人物の見極めについては、既に済んでいるのだろう。

「それでは、エルメウス家というものがどういった存在なのかを、リチレーヌ側に知らしめるために今回の外交が組まれたということですか?」

「なぜそのように考える?」

「リチレーヌは治安維持程度しか兵を持たず、兵役についてはエルドレが担っているのとのことです。ヘヒュニの家は元々、ボウエーンを拠点に他国からの侵攻を防ぎ、この辺りを統治する貴族だと教えていただきました。そのことから、重要視しているのは軍事力なのではないのでしょうか」

「それで?」

「エルメウス家は護衛業の始祖的な立場ですが、他家のように私兵を多く抱えていません。他国からすれば商いで財を成している様に思うでしょう。名家と言われているが、軍事力から見れば劣る。そのことがヘヒュニがこちらを下に見る理由なのだと考えます。だからこそ、エルメウス家の情報収集能力といいますか、その様な力を見せつけるためにこの様なことをするのだと考えます」

「軍事力か。まあ、我が家と関係の深いホロイ家は、他国からすれば海軍だからな。その他にも陸軍と言えるほどの私兵を抱える家も存在する。ひとたび戦が始まるとそれら全て相手にしなければならなくなるから、他国からすれば脅威だろうな」

「はい」

 それだとしても、あの様な態度を他国の使者にとって良いとは思わないが、これならヘヒュニの行動原理も説明が付く。

「だが、あいつはそんなものに興味がないとしたらどうする?」

「興味がない?軍事力についてですか?」

「そうだ。強いていえば国防について興味がない」

 国を守ることに興味がない。そんなことがあるのか?いや、そんなことがあるはずがない。

 権力争いにより領主が変わるのとは訳が違う。侵略により都市が丸ごと消滅することがあると聞いたことがある。

「そんなことがあり得るのですか?」

 リュゼーはドロフの顔を見つめる。

「それがな、あり得てしまうんだよ。この国ではな」

 そう言うとドロフは二度ほど顎をしゃくり、自分に向けられた目を前方へと移させた。

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