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王国戦国物語  作者: 遠野時松
とある王国のエピソード
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未来の将達 3 策

「なんでそうなる?」

「なぜっていつものことだろ?なあ、リュゼー」

「おうよ、リュート。いつものこと、いつものこと。お前が策を考えて俺たちがそれを実行する。さっきお前が言った通り、いつものことをするまでさ」

 宝探しにでも行くようなワクワクが抑えられない雰囲気のリュートに、これからみんなで散策がてらの散歩でもしそうなリュゼー。

 あれほどまでのマクベを前にしても動じない二人に、ファトストは頭をガシガシと搔く。

「ふざけんなよ、お前達」

「ふざけてねえよ。ほら、さっさと策を出せよ。もう考えついてんだろ?」

「そうだそうだ、もったいぶらないで早く出せ。こんなのサクッと終わらせようぜ」

 厳格なことで知られるセイ僧の庭に生えているイチジーの実を、度胸試しで頂戴した時と同じような口調で話す。

 ファトストはあの時も二人の誘いに乗り、酷い目にあったのを思い出す。

「何なんだよ、お前達」

 ファトストは頭を掻くのをやめ、両の手を腿に打ちつける。「今回だってそうだ。オソ爺に元気だしてもらうために大好物のイノ鍋ご馳走しようって言っていたが、本当はお前達が食べたいからだろ」

 ファトストは腰にぶら下げてある、先が二股に分かれている笛を咥える。ピビィーーーーーと、高音と低音が重なり合う音色が山々を駆け巡り、遠くまで響き渡る。

 ファトストはマクベの動向を探る。しかしマクベはその音に警戒こそ示すが、その場から動こうとはしない。

「ダメか」

 ファトストから悲哀のこもった声が漏れる。

「残念、無理みたいだな」

 リュゼーはケラケラと笑う。

「もう、腹を括れって。危機を知らせる笛を鳴らしたってマクベはその意味を知らねえんだから、こうなるだけだろ」

「さっきリュートが言った通りにあいつは俺達のことを下に見てるんだから、大きな音出したって逃げねえだろ」

「そんなことは俺だって分かってる」

 ファトストは笛を地面に投げ捨てて、再び頭を掻きむしる。

「そうか、お前の策は始まってたんだな。戦う前に相手を引かせる。教科書通りの作戦ってことだろ?」

「うるさいリュート。お前は矛や弓の訓練ばっかりしてないで策についてもう少し勉強しろ」

 リュートはリュゼーの顔を見る。俺の後押しをしろと、その目が語っている。

「でもよ」

 リュゼーはリュートの視線を受けて話し始めたが、ファトストの気を引くかのように少し間を空ける。「オソ爺のためにイノを狩りに来たらその仇が現れるなんて、何だか運命めいたものを感じるな。これって偶然じゃなくて必然ってやつじゃないのか?」

「うるさいリュゼー。リュートの思い付きに乗っかって、いつも俺のことをそそのかしやがって」

 ファトストは掻いていた手を胸の前に持ってきて、ギュッと拳を握る。そしてパンっと両手を顔に打ち付ける。

「よし、分かった」

「おっ!?」

「そうこなくっちゃ」

 リュートとリュセーはファトストに顔を近づける。

「で、どうするよ?」

 リュートはワクワクを抑えきれない顔で尋ねる。

「戦況は三対一だ。数の利を活かして一人が中央から攻め立てて残りの…」

「却下」

 リュートは白けた目をする。

「何でだよ?まだ策の途中だぞ」

「お前さぁ、さっき笛を吹いた時にあいつが警戒したのを見て、三人で襲い掛かれば逃げ出すと踏んでんだろ?逃げ出さなくても短弓が効かないと分かったら、俺たちが諦めるとでも思ってんじゃねえのか。違うか?」

「ち、違う」

 ファトストは動揺を隠すように首を振る。

「違うっていうなら中央はファトスト、お前がやれよ」

「中央は最も武があるお前の役目だろ?」

「中央を囮にして、俺達が両側から射かければいいじゃねえか」

 何も言えなくなったファトストに向けてリュートは言葉を続ける。「お前自身さえ気乗りのしない、そんな策を俺達にやらせるつもりか?」

 ぐうの音も出ない。ファトストの顔が物語っている。

「俺もその策には反対。イノの時みたいに面白いのがいい」

 リュゼーは口を尖らせて、己の不満をファトストに示す。

「……何でこいつらはこんなに勘がいいんだ?」

「おい、何を言ってるのかきこえないぞ。腰が抜けて声が出せなくなったか?」

 リュートは笑いながら手の平を自分の方に何度か振り、次の策を催促する。

 ファトストはゆっくり深く息を吐きだす。

「それならお前達が満足する策を示してやる」

 ファトストは少し前屈みになり、それぞれと目を合わせる。

 それから地面に視線を落とし、指で丸を描く。

「相手はイノじゃなくマクベだ。この場から弓を射たところで倒せるとは思えない。威力を上げるために距離を詰めなければならないが、リュートの指摘通り無闇に突っ込んでいっても逃す可能性が高い。それなら警戒心の強いあいつ自らこっちに来させる」

 リュートはニヤリと笑いリュゼーと目を合わせる。リュゼーもニヤリと笑い返しこくりと頷き返す。

 二人も描かれた丸に視線を落とす。

「そのためにすべき事は二つ。まず初めに、俺達の実力を相手に見縊らせる。大人がいる時は隠れているのに俺達の前には現れた、最初からあいつは俺達の事を下に見ている。俺達が弱いと分かればさらにあいつの警戒心も緩む」

 ファトストは先程描いた丸から線を引き、線の端に符丁を記す。「それができたら、次はイノを使う。あいつの狙いは俺達じゃなくこのイノだ。そこまでいけばマクベにとってこのイノは、自分のものだと勘違いするだろう」

 ファトストは先ほどの丸から間を開けて、もう一つまるを描く。

「策だと分かっても何だか腹立つな」

 リュートは手の平に拳をぶつける。リュゼーも顔を顰めて頷く。

「俺達がイノを移動させようとしたら、執着心の強いマクベはそれを妨害してくるはずだ」

 ファトストはマクベを示す丸からイノを示す丸まで矢印を伸ばし、「そこを討つ」という言葉と同時に二本の線を斜めに交差させる。

「いいねそれ」

 リュゼーは楽しそうに声を上げる。

「やらばできるじゃねえか」

 リュートは満足気にファトストの肩に手を置く。ファトストは鬱陶しそうにその手を払いのける。

「じゃあ俺が陽動だな」

「ああ、リュートにそんな器用な真似はできないからな」

 ファトストは揶揄うように先程の意趣返しをする。

「まぁ、止めを刺すのは俺の仕事だろうな」

 リュートは笑いながらファトストの肩を小突く。

 阿吽の呼吸で配置が決まると、ファトストは二人に向かって策の詳細について説明する。

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