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王国戦国物語  作者: 遠野時松
とある王国のエピソード
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雲の行き先 16 笑顔の違い(中)

 中に入るとまだ会は始まっていないのか、近くに座る者同士で雑談がされていた。

 入り口側の壁に付けられた椅子に座るように指示を受け、各自席に着いた。

 部屋の一番奥にはディレクがこちらを向いて座っていて、隣には一際豪華な椅子が置かれている。その前にあるテーブルの上には瑞々しい水菓子や、質の良さそうな焼き菓子が綺麗に盛り付けられている。

 ディレクと向かい合うようにして本家の者と、貴族の関係者と思われる者たちが左右に分かれて座っている。テーブルの上には奥のテーブルほど豪華ではないが、それに準じた物が用意されていた。

 その後ろには、身分で分けられたエルメウス家の者が順に座っている。テーブルの上には水菓子はなく、乾燥した果物と質が落とされた焼き菓子が置かれている。両方が置かれているだけ増しで、一番後ろのテーブルには申し訳程度の木の実しか置かれていない。リュゼーたちにはテーブルすら用意されていないので、それすらも増しと言えば増しなのかもしれない。

 この国での厚意とは何なのか、親睦を深めるとはどういったものを指すのかを、考えさせられてしまう。

 皆一様に笑顔を顔に貼り付けており、リュゼーたちもそれに倣って笑顔を作る。

「領主のヘヒュニ様が入られます」

 執事の声により雑談が止み、各々が両手を胸の前で構える。奥の扉が開くと、一斉に拍手が湧き起こる。ヘヒュニは謙遜するように手で皆を制しながら、満遍の笑みで用意された豪華な椅子へと歩を進める。椅子の横に立って満足そうに見渡すと、ゆっくりと頷く。それを合図にして拍手が止む。

 この領主という者はこういったことが好きなのだな。リュゼーは冷笑を作られた笑顔で隠す。

「この度は遠路遥々、王国より我が都市へとお越しいただき感謝する」

 会が始められた。

 長々とした挨拶に辟易し、長旅の疲れで何度か眠気に襲われたが時折巻き起こる拍手に助けられ、くだらない話に大袈裟に反応してどうにか乗り切った。ヘヒュニが何度かこちらを見渡していたが、眠いのを悟られないために必要以上に頷いたりもした。

 ヘヒュニが椅子に座るとディレクが立ち上がり、手短な挨拶と共に宿泊地を提供してもらえるお礼をする。

 ディレクが座るのを待たずに、再びへヒュ二が話をしだした。

「今年も楽をするだけの海岸沿いの道ではなく、苦労をしてまで山を越え、我が都市を一番初めに訪れたということは、海沿いに巣食う力無き者たちではなく、この国を支えるのは私どもだと王国も承知しているものと認識する」

 表情とは真逆の威圧的な口調でヘヒュニが言い放つと、貴族の関係者が「その通り」と力強く相槌を行う。しかし先ほどとは打って変わり、それに似た声は貴族の関係席からしか聞こえない。エルメウス家の者は誰一人として反応しない。

 先ほどまで声を張り上げていた、リュゼーを含めた見習い達ですら口を紡いでいる。それどころか、その一節にリュゼーは思わず笑顔を失いそうになった。

 エルメウス家にとって、海は塩を生み出す大切なものだ。他国とはいえど、海に関係の深い者を貶めるようなことは絶対に出来ない。巣食うなどと表現されて、気分が良いと思う者など一人としていない。

「どうされたのだ?」

 ヘヒュニはゆっくりと全体を見回した後にそう宣う。

「私どもは他国の事情に疎いものですから、どう反応して良いか迷ってしまっただけです」

 ディレクが皆の反応を代弁する。

「そうであったか。それは失礼した」

 ヘヒュニは頷く。

 ヘヒュニは納得する素振りを見せているが、そんな詭弁じみた言葉に納得する訳がない。エルメウス家が他国との貿易により、常に情報を収集していることを知らないはずがない。

「その、他国の力関係が変わろうとしていることに対して、敏感になっているのかと思いましたぞ」

「そのようなことは全くありません。当家は他国に関して、何らかの影響を及ぼそうとは考えておりません」

「それを聞いて安心した」

「皆の者、ヘヒュニ様に勘違いをさせてしまったようだ。お詫びしろ」

 ディレクはヘヒュニの言葉尻に合わせ、続く言葉を遮るように皆に申し渡す。

 室内に「申し訳ございません」との声が響き渡る。

 ヘヒュニの笑顔が僅かに歪む。

「不躾な者たちだな」

「その通り。去年訪れた…、家の名前は忘れてしまったが、あの者たちの方が良かったな」

 貴族の関係席から嫌な声が聞こえる。

「ゲーランドとの婚儀が進められているらしいが、似た者同士といったところでお似合いではないか」

「全くその通り。海の者は野蛮なものが多いと聞くが、躾もなっておらん。去年の者たちの方が格が上なのだろう」

 二人の会話が聞こえているはずのヘヒュニは、嗜めることをしない。

「ゲーランドの娘が奴等の次期当主に一目惚れをしたと言っていたが、信じられるか?」

「いやいや。信じるも何も、端から可笑しい話ではないか。ゲーランドが力をつけるために仕組んだ政略結婚であろう」

「うむ、それ以外に考えられぬ話だな。他の貴族から反対されるのを恐れて、そのような戯言を作り上げたのだろう。何とも見苦しい限りだ」

「もう少し上手い嘘を吐けば良いものを。波に揺られると、脳まで揺られるらしいな」

 エルメウスの家人達は笑顔のままだが、室内の温度が急激に上がっていく。

「影響を及ぼさないと申したが、それを信じられる訳がなかろう。野蛮な奴らの腹の中など、分かったものではない」

「ゲーランドを使って、甘い汁を吸おうと考えているのではないか?」

 二人の下衆な笑いが聞こえる。

「デゴジ、ウタニュ」

 ここにきて、やっとヘヒュニが二人の名を呼ぶ。しかし、二人を諌めることはしない。

 二人がヘヒュニの考えを代弁しているのは、三人の顔を見れば疑いの余地はない。

「よろしいですか?」

 ディレクは、ヘヒュニが口を開くまで辛抱強く待ち続けていた。他のものも同じである。

「この度エルメウス家が選ばれた訳を考えまするに、そのようなことはさせないと、王の考えを示されたのだと存じます。またヘヒュニ様が申されたように、エルメウス家が山を越えた理由についてもお考えください。エルメウス家がお二人が話されたことを考えているのならば、船によってよってローレイ港へ渡りゲーランド様の元へ伺った後に、王都を目指すのではないでしょうか」

 ヘヒュニの目が一瞬だけ蔑むものに変わる。

「これは驚いた。唐突にその様な話をするものでないぞ。我らは兄弟国の間柄ではないか。その両国の間に、全く必要のない話だと思うがな。勘違いされているようだが、初めから何も疑ってはおらん。先ほどの話はあの二人の考えであろう」

 詫びの一言でもありそうな話し振りではあるが、未だにない。

「お二人さま、他に何かお考えでしょうか?」

 ディレクの問いかけに、二人は視線を合わせようとせず真っ直ぐ前を向いたまま、口を開こうともしない。

「ご理解頂いたようで感謝します」

 ディレクは笑顔のまま深々と頭を下げる。

 室内の温度がさらに上がる。張り詰めた空気に痛みさえ感じる。

「おお、そうであった」

 何かを思い出したのか、ヘヒュニは手を叩いた。

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