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王国戦国物語  作者: 遠野時松
とある王国のエピソード
36/113

雲の行き先 9 うまい話には裏がある

「やはりな」

 アンセルニはイタチを捕まえ、「ごめんなぁ。悪いことをした、許してくれな。用事が済んだら逃がしてやるからな」と優しく籠の中に入れる。

 何が起きているのか理解できない二人を他所にアンセルニは肉をぺろりと舐め、舌を出したましばらくそのままにする。ぺっ、と唾を吐き、直ぐに水で口を濯ぐ。

「うーん、分からんなぁ」

 手に持つ肉をまじまじと見た後、チェロスを呼ぶ。

「おい、口を開けろ」

 おどおどとチェロスは口を開ける。

「もう少し大きく開けろ。そうだ。そのまま上を向け」

 月明かりを利用して、アンセルニはチェロスの口の中を確認する。

「虫歯があるではないか。面倒くさがらずに、しっかりと歯を磨け」

 アンセルニはチェロスの頭を小突く。

「おい、リュゼー」

 リュゼーは同じように口を開けて上を向く。

「大丈夫の様だな。最近、稽古などで顔を殴られたことは?」

「ありません」

「それでは口の中に傷はなさそうだな。用心のためこれで口を濯げ」

 リュゼーは、渡された濃いめに味付けされた醬で口を濯ぐ。

「沁みるか?」

「いえ」

「恥ずかしながら俺は、馬と一悶着あって口に傷があるから無理だ。適当に噛んでからべろの下にいれろ。絶対に飲み込むんじゃないぞ。唾もだ」

 先ほどのイタチが苦しんだ姿を見ているリュゼーは、肉を持ったまま口に入れることができない。

「まあそうだよな、しかしこれも大事な任務だ。どういった毒なのか確認する必要するがある。毒の種類によっては、そこに食い物を入れておくと飲み込んだ時と同様に体に異変が起きる。飲み込むわけではないから、その影響は断片的だ。これは役に立つから覚えておけよ。だからといって、イタチの様子からそれほど毒は強くないと思われるが、異変があれば直ぐに吐き出せよ」

「はい」

 リュゼーは意を決して肉を口の中に入れる。肉を何度か咀嚼し、言われたように肉を舌の下にしまう。

「そのまま口を半開きにして下を向け。少し端ないが唾はそのまま垂れ流せ」

 イタチに異変が起きた時と同程度の時間が経過する。

「どうだ、異変はあるか?」

 リュゼーは首を振る。

「神経系ではないな。それだとチュウに毒キノコでも無理やり食べさせたか。全く酷い事をしやがる。リュゼー、もういいぞ」

 リュゼーは急いで肉を吐き出し、口を濯ぐ。

「初めてで生きた心地がしなかったか?」

 部位ごとに分けて麻袋に詰めながら必要以上に口を濯ぐリュゼーを見て、アンセルニは悪戯に笑う。

「強い毒ならばチュウも生きていけないだろうし、イタチの様子からしてそこまでの毒じゃなさそうだから、火を通したら食べられると思うぞ。何事も経験だ。食べてみたらどうだ?」

 二人は必死に首を振る。

「俺は荷があるからこの場所から動けぬ。これを持って拠点に向かい、今あった事を伝えろ」

「分かりました。本当にありがとうございます」

 リュゼーは麻袋を受け取る。

 自分の所為で大事になりそうだったチェロスは、顔を白くする。

「気にするなとは言わぬが、良い経験ができたではないか。ルブレは授業料としていただいておくがな」

 ルブレも同様にして野良犬に与えたが、こちらは異変が起きなかった。

 チェロスを気遣うアンセルニの言葉が心に沁みる。

「行くぞ」

 リュゼーがチェロスの肩を叩く。

 チェロスの目には、ほんのりと涙が滲んでいる。



「以上です」

 リュゼーは事細かに先ほどの出来事を伝える。

「そうか」

 リュゼーとチェロスの前に座るエルメウス本家の数人が、顔を見合わせて二人に聞こえぬ声量で何か話をしている。

 居た堪れない時間が続く。

「その、話をしていた者の特徴は?」

 旅の保安を統括するオドレイがチェロスに尋ねる。

「特徴と言われましても、何処にでもいる街の住民と何ら変わらないと言いますか…」

「身のこなしや、言葉の使い方に特徴は無かったのか?」

「それに関しても、お伝えすることは無いといいますか…」

 突き刺す様な視線が、チェロスをどんどんと萎縮させていく。

「そうか。では、なぜその場で隣の男に伝えなかった?」

「それは…」

 この場の雰囲気では、手柄を独り占めしようとしていたなどとは口が裂けても言えない。

 リュゼーは一歩前に出る。

「これについては、私の不徳の致すところです。常日頃、行動を共にしていながら…」

「よいよい。お前達を責めているわけでは無い」

 年嵩のテロウが声を掛ける。その言葉でオドレイの厳しい表情が和らぐ。

「すまぬな。テロウ殿の言う通り、こちらの態度が厳しいのはお前達を責めている訳ではなく、エルメウス家に弓を引く愚か者に憤っているからだ」

「申し訳ありません」

「良いと言っているではないか」

 オドレイは首を振る。

「チェロスと申したな。その者の顔は覚えているか?」

「はい、顔は覚えております」

「それでは後で絵師に伝えて、人相書きを作成してもらえ」

「はい、分かりました」

「それではこれにて終わりとする。どんな些細な事でも良い、思い出した事があれば伝える様に」

 オドレイはそう言うと、再び内談を始めた。

「失礼します」

 リュゼーの張られた声が室内に虚しく響く。

 二人はその場を後にした。


 灯りが落とされた街中を、二人並んで風の溜まり場に向け歩く。

「リュゼ君、ごめんね」

「いいよ、気にするな」

「いや、俺…」

 チェロスは言葉に詰まる。

「何事も無かった訳だし、次回失敗しなければいいんじゃね」

「うん」

 月の明かりが二人を優しく照らす。

 国外を見て回れると、どこか浮ついた気持ちがなかった訳ではない。話には聞いていたが、外交目的のこの旅は周辺国も注視しているということを、身を持って分からされた。

『弱いところを突いて結束を綻ばせるのが定石』

 催し物に浮かれ軽い気持ちで聞いていたボンシャの言葉が、何度となく頭の中で繰り返された。

ここまで読んで頂いてありがとうございます。この作品を追っていただいている方がいましたら、ep.5に追加のエピソードを投稿しました。そちらも読んでいただけると幸いです。

本編前のエピソードといいながら、ダラダラと書き綴ってしまい申し訳ありません。

初めは短いものを予定していましたが、話が長くなってしまい自分としても呆れています。

本編に繋がる内容を書いていますので、温かい目で見守っていただけるとありがたいです。

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