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王国戦国物語  作者: 遠野時松
とある王国のエピソード
35/113

雲の行き先 8 街で聞いたうまい話

 ハンニの優しい機転とチェロスの勘の良さで難を逃れたリュゼー達は、今宵一晩を過ごすこととなる『風の溜まり場』へとその身を移した。

 エルドレとリチレーヌを繋ぐグノール街道は、連山の迂回路とはいっても峠はある。この辺りは峠越えの宿泊地として、多くの風が集まる。

 幕を張るリュゼーに対し、チェロスは地面に横になりながらその様子を見ている。

「リュゼ君、俺達も拠点で寝泊まりしたいよね」

「しょうがねえだろ、我慢しろよ。それより幕は張らないのか?」

「面倒くさいからいい」

「そんなこと言って楽しやがって。夜露に濡れても入れてやらねえぞ」

「大丈夫、俺は良い男だから」

 チェロスはこっそりと懐に忍ばせた干し肉を取り出し、仰向けになって月を見ながらそれを齧る。

 リュゼーとしても面倒な幕など張らずに、野に体を横たえて眠ることは出来る。しかし周りの目が気になってしまい、こうして幕を張っている。自由奔放に振る舞うチェロスのことが羨ましく思えると共に、小生意気なことを言う弟分を腹立たしく思う。

「はぁ?お前みたいなやつは、滴るどころかずぶ濡れになっちまえ」

 チェロスはぺろっと舌を出す。

「それよりリュゼ君。聞いた?」

 再びリュゼーに顔を向ける。

「何をだよ」

「ここにはチュウがいるらしいぜ」

「こんな山間にある街の近くにか?珍しいな」

 チュウとは主に草原にいる鼠の一種だ。兎ほどの大きさで、畑の近くに巣を作ると農作物を食べてしまうので、農家の人からは厄介者扱いされている。

「そうなんだよね。さっき街の人が話してるのを聞いてさ。畑を荒らされて困ってるらしいんだって」

「ふーん」

「チュウだよチュウ。食べたくない?人助けすると思って、あとで獲りに行かない?」

 チュウは少々癖のある味だが、おやつがわりにもなるので子供に人気で、油で素揚げしたものを農耕の神様に捧げたりする。そのため、この様な場所では直ぐに狩り尽くされてまう。

「そうだなー。明朝まで暇だし、それも良いかもな」

 先ほどたらふく飯を食べたはずなのに、小腹の空いてきたリュゼーは胃の辺りをさすりながら、チェロスの案に乗ることにした。


 身動き一つせずにその時を待つ二人を、月の明かりがほんのりと照らす。

 リュゼーの肩が静かに叩かれる。

 チェロスは指先で真新しい巣穴の近くを指し示した後、人差し指と中指を立てリュゼーに見せる。

 リュゼーはゆっくり頷くと矢を二本抜き取り、一本を指に挟んだままもう一本を弓に番える。


 ホクホク顔の二人は足取り軽く、たまり場へと戻って行く。チェロスの両手にはそれぞれチュウが握られており、リュゼーの手には美味そうなルブレがぶら下げられている。

 騒ぎに驚いたルブレが巣穴から飛び出して来たため二人は歓喜の声を上げながらそれを追いかけ、運良く新たなご褒美を手にした。

「リュゼ君感謝してね。俺の普段の行いが良かったからこれを手にできたんだよ」

「はいはい、分かりました。そうですね、そうですね。偉い偉い」

「馬鹿にしてるでしょ?」

「馬鹿にはしてないけど、碌に弓も使えないやつがでかいこと言ってんなって思ってる」

「なんだよそれ?弓なら今練習中だろ」

 直ぐ後ろで「前よりは上手くなったんだぞ」と、ほっぺたを膨らましながら歩いているチェロスにリュゼーは、「ごめん、ごめん」と笑いかけた。


 風の溜まり場に着くと、狩りに出る時には居なかった同じエルメウス家のアンセルニの姿があった。

「アンセルニさん、今到着ですか?」

 鋭い切れ長の目はリュゼーを見つけると優しいものに変わり、固く結ばれていた薄い唇の口角が上がる。

「おおリュゼー、それにチェロスまで」

 リュゼーとチェロスは胸に拳を当て挨拶をし、アンセルニは軽く手を挙げて応える。

「そうか、お前らは雲に帯同していたんだったな」

 アンセルニは、リュゼーたちと同様に若い頃にエルメウス家へ招かれ、リュゼーがエルメウス家に招かれた時に歳が十八を超えて成人し正式に家人となった。

「遅かったですね」

「予定ではもう一つ先の町まで行く予定だったんだが、もう少しでここに着くって所であいつが急に臍を曲げて動かなくなってな。危うく野宿するところだったよ」

 視線の先には、杭に繋がれた相棒が桶に首を突っ込んで飼い葉を食んでいる。

 夜間の馬車移動は障害物の発見が遅れるなど危険が増すばかりではなく、野党や獣に襲われる可能性も高くなる。機嫌が悪くなってもしょうがない。

「それは大変でした。今から食事ですか?」

 アンセルニは火を起こしている最中だった。

「そうだ。とは言っても拠点でおこぼれを貰って来て、スープを温め直す程度だがな」

「それならこれも一緒にどうですか?」

 リュゼーは今しがた獲ってきた獲物を見せる。

「おっ!ルブレか、これはありがたい」

 アンセルニの顔が明るくなる。

「チュウもありますよ」

 チェロスは両手を差し出し、褒めてと言わんばかりの顔をアンセルニに向ける。

「チュウだと?お前らどこまで狩りに行ったんだ?」

「直ぐそこです」

 チェロスは得意げに答える。

「直ぐそこ?」

 アンセルニの表情が変わる。

「はい。「川下にある畑にチュウが出て困る」と街の人が言っていたので狩りに行ってきました」

「ルブレではなく、チュウが出て困ると言っていたのか?」

 アンセルニの目が次第に厳しくなっていく。

「はい」

 それを感じ取ったチェロスは、表情を曇らせていく。

「それはいつ聞いた?」

「聞いたというか、小耳に挟んだというか…。食堂でご飯を食べてから、こちらに向かう途中で街の人が話してるのを聞きました」

 突き刺すような視線をアンセルニから投げられ、チェロスは段々と口籠もっていく。

「こんな夜に街の人がか?」

「はい…」

 アンセルニは顎に手をやる。

「ちょっとそれを貸せ」

 アンセルニは、チュウを受け取ると水辺に持って行き、素早く捌く。

「それは俺がやります」

 大丈夫だと、リュゼーを手で制する。アンセルニは無言のまま、切れ端をおこぼれを貰いにきたイタチと思われる小動物に投げる。

「ちょっと待ってろ」

 訝しげに見つめる二人に対して理由を告げずに、イタチが肉を食べる姿を見つめる。

「キャァ、キャア。キャキャキャ」

 美味しそうに食べた後、お代わりをねだる様にその場にいたイタチが突然苦しみだし、食べた肉を吐き出した。

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