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王国戦国物語  作者: 遠野時松
とある王国のエピソード
25/113

兵の道 11 語り合い

「よう」

 急に声を掛けられたため、一番手前にいた賊が反射的に剣を抜く。

「嘘だろ?これぐらいで剣を抜くなよ」

 ボンシャも剣を抜く。

 場に緊張が走る。

 横にいるこちらに顔を向けていた賊が、一歩身を引いて剣に手を掛ける。

 リュートが木剣でその手を払うと、賊は腕を抱え込むように体を屈めて顔を歪める。

 それを見て怒声を上げた者の喉を突き、身を引く素振りを見せた者の足に木剣を撃ち付け、立ち竦む男の腹に柄の先端を減り込ませる。

 淀みなく処理されていく様を、前にいた三人は顔色一つ変えずに眺める。

「とりあえずのところ、手練れの三人の肝は据わっているようだな」

 軽々と剣を捌き、賊の横に体を滑り込ませたボンシャは勢い良く右膝を上げる。

「申し訳ないな、観客にもならないお前たちには黙っててもらいたいんだ」

 ボンシャの膝に覆い被さるようにして賊が倒れ込む。ボンシャは無造作に膝を引くと、そのまま近くに落ちている賊の剣を遠くへ蹴り飛ばす。

 時を同じくして、手に松明を持った数人が溜まり場に現れた。各々が焚き火台の元に移動すると、一斉に松明を投げ入れて街の暗がりに戻って行く。

 油が仕込まれていたのか、直ぐに火の勢いが強くなる。

「仰々しいが気にするな」

 最後に奥にある、二つの焚き火台に火が灯される。炎は篝火となって暗闇を照らす。街の一角に突如として決闘場が現れる。

 遠くで揺らめく火の光が、ボンシャの顔半分を赤く照らす。

「望み通りに力比べをしてやる」

 賊の頭に向かって、中に入れと顎をしゃくる。パチパチと音を立てる灯りに誘われて、三人は柵の中に入っていく。

「主役は揃ったな」

 道の暗がりからシャルルイが姿を現す。しかし、溜まり場へは足を踏み入れずに、全体を見渡すように柵の入り口から少し離れた位置に身を置く。

 すでに、リュートに与えられた仕事は終わった。しかし今の実力では、あの場所に無縁だというのは理解している。賊が反撃してくるとは思えないが、用心のためシャルルイの斜め後ろに控える。

「あの配置にして良かったな」

 シャルルイは自分に語りかけるように、満足そうに呟く。

 四隅に配置された篝火は、地ならしされた土地を影一つなく照らし出す。

 視線を舞台の奥に向けると、小さい篝火に挟まれてソルダが賊と対峙するように座っている。

「ここでビークの登場だ」

 舞台でいうところの、下手からビークが現れる。

「よし、良いぞ。惚れ惚れする面構えだ」

 ビークはソルダと賊の間に立つ。

 今度はウルクが上手から姿を現す。賊は三人ともウルクを睨みつける。

「おぉ、そういった反応をとるのか。あの様な者を入れると、場に流れが生まれて良いものだな」

 今度はリュートに話し掛ける。

「あからさまな挑発を受けた訳ですから、相手がどんな奴か気になるのだと思います」

「確かにな。あの様な歪な殺気を出せるのは流石と言うべきか、あやつらの負けん気を巧みに刺激する機転を効かせるところを褒めるべきか、蛇の道は蛇だということを思い知らされるな。そうだ、同族嫌悪…。いや、『題』にするには捻りが足りないか」

 シャルルイは再び己の殻に閉じこもる。「縦に並べるより、賊のように三角にした方が見栄えが良いな。惜しいことをしたものだ」と、一人呟く。

 ウルクは、三人の視線を浴びながら先頭の男の前に立ち、「頭ってのはお前だよな」と言ったあとに後ろの二人を順に指差す。

「で、お前とお前、強いのはどっちだ?」

 ガタイの良い方が、挑発に乗って少し身を乗り出す。強面の男は冷たい目をしたまま、ウルクから目を離さない。

「ボンシャ、そいつはくれてやる」

 顎の先を向けられたガタイの良い男は、今まで以上に眉間に皺を寄せて威嚇するが、ウルクはそれを気にも留めない。三人を飛び越して、ボンシャと目を合わせる。

 ボンシャはそれを受けて笑って返す。

「そのように出たか」シャルルイは満足気に頷く。「好きなようにしてよいとは伝えたが、とことん引っ掻き回しよる」

 相手の力量から判断した結果、ソルダは不参加なのだろう。

 ボンシャが髭面に放った太刀筋は見事だった。あれを自分のものにする。リュートは目を凝らす。

「お前ってのはとことん鈍いな」

 ボンシャの声が聞こえる。

「ウルク殿はわざわざ弱い方を寄越したんだぞ、誰の相手なのか一目瞭然だろ?そこはお前が「私に任せてください」って出てこなきゃ駄目だろ」

 ボンシャはリュートの方に振り向いて笑う。

「それに、なんで俺が雑魚の相手をしなけりゃならん」

 親指で後ろを指差し、小馬鹿にしたように肩をすくめる。

 仲間が止めるのを聞かずに、がたいの良い男はボンシャに歩み寄る。体に力が入っているのか、顔が赤らんでいく。

 それに気が付いたボンシャは嬉しそうに振り返ると、構えもせずに距離を詰める。

 ゴン、と鈍い音が聞こえる。

 それに対してボンシャは笑みを浮かべる。

 がたいの良い男がしたように、拳を硬く強く握り、目の前にある顔に向かって力のままぶつける。

 ゴッ、と骨に響く音が聞こえる。

 ゴン、ゴッと何度か鈍い音が交互に響き、ゴン!と力の込められた大きく低い音がする。

「やっぱりこれだよな」

 ボンシャは口に溜まった血を吐き出す。不敵な笑みを浮かべるが、顔の左半分は赤く腫れている。

「これが一番後腐れなくすっきりする」

 ボンシャは右手を大きく引く。ゴシィ!という音と共に、拳に確かな手応えを感じる。

 ボンシャより何倍も顔を腫らした男の膝が笑い出す。ペシペシと自分の顔を叩いて、殴って来いとボンシャに挑発されているが、足元がふらつき握る拳を突き出せないでいる。

 それでも力無く繰り出された拳はボンシャの顔に届きはしたが、先ほどの最後の力を振り絞った拳があっさりと受けられた時点で勝負はついている。

 ボンシャが拳を引くと、がたいの良い男は本能からか顔を庇ってしまう。それを見て名残惜しそうにするボンシャから、空いた腹に拳をもらいゆっくりと倒れ込んだ。

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