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王国戦国物語  作者: 遠野時松
とある王国のエピソード
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兵の道 9 道の歩き方

 リュートが間合いを詰める素振りを見せると、短髪はそれを牽制するように剣を振る。

 短髪が動くのを感じると直ぐに体を引き、必要以上に間合いを取っていたリュートだが、段々とその距離は縮まっていく。

 短髪の剣は我流からくるものなのか、太刀筋が不規則に変わり安定していない。捌きができない状況で打ち込むためには、踏み込む隙や相手の癖を読まなければならないが今まで経験したことのない動きがそれを邪魔する。そして、厄介なのはこれだ。

 リュートは後ろに飛ぶ。

 短髪は脈略もなく剣を振ってくる。急所を狙ってくるわけではなく、木剣ごとこちらを断ち切ろうともしない。単純に当てやすそうな箇所を狙う。力より速さに重きを置かれていることから、致命傷を狙っていないのが分かる。与える傷は浅くとも、体を斬られ続けながら戦意を保つことは難しい。リュートは最後の一歩が踏み出せないでいる。

 髭面の踏んだ場数の多さがそのまま闘い方に表れ、経験の差が至る所にでる。その差が悔しくて憎らしい。

 リュートは大きく間合いを詰める。髭面は当然のように、踏み込んできた足を払いにくる。さらにリュートは斜めに踏み込み、身体を独楽のように回す。

 その動きにボンシャは「ほぉー」と小さく感嘆する。直後にバシィと乾いた音が鳴り、短髪は堪らず「ぐっ」と声を漏らしながら足を引く。

「何だあいつは、ホロイ家なのにマルセールをやりやがる。面白いやつだ」

 今度はバチンと跳ねた音がする。リュートに打ち込まれた髭面が、苦悶の表情で脇を抑える。

「西のコルセーヌ地方には、ああいった敵と戦うための剣技があるのだよ。剣を躱しつつ斬りつけるのが特徴でな」

 ボンシャは、剣に添えていた手を離し腕を組む。「まあ、こんな所でこんな事をしているやつには一生縁の無い話だがな」

 髭面は横目で顔を確認すると、余裕が生まれたボンシャに聞こえるように舌打ちをする。

「こちらが木剣で良かったな」

「黙れ」

 二人の会話から分かるように、腕の差は歴然である。しかしまだ勝負はついていない。短髪は普通に強い。誤った判断をすれば、戦況は一瞬でひっくり返る。

「お前たちの強さはどれぐらいなのだ?」

 ボンシャの問い掛けに髭面は答えない。

「こちらはマルセールの話をして、手の内を明かしてやったのだ。それぐらい答えてもいいんじゃないか?」

「答える気はない。聞いた噂で、「風にちょっかいをだすと、上手いこと策に嵌められて悔しい思いをする」と聞いたことがある。今も俺たちの情報を集めているのだろう」

 髭面は冷たく言い放つ。

「そうか。それは残念だが、そう言われてしまうと諦めるしかない。お前たちにはお前たちなりの考えがあるのだからな」

 お互いの視線が合うことはない。

 顔が向けられてい先にある剣が、ランプの灯りを反射してキラキラ光る。短髪は確かめるように肩を動かしてから、先ほどとは違う構えをとる。

 一体、こいつらは何者なんだ。好機と見て何度か踏み込もうとしたが、牽制が上手く抑え込まれてしまった。さっき相手をした長髪は素早さこそあったが、身体は見た目通り軽かった。しかし、刃物を持っていたらどうだったろう。

 長引かせるのは危険だ。

 リュートは、弓を引くように構えてから木剣を突く。髭面がどう動くかを知っているかのように剣を躱してながらリュートは体を回す。上がり始めた髭面の手を叩き落とす。僅かな衝撃が手に伝わるのと同時に、短髪の顎先からチッ!と音が聞こえる。

「だから心配いらぬと言ったであろう」

 ボンシャが言い終わる前に、カランと長剣が落ちる音がする。髭面が膝から落ちるのを見届けた途端、全身から汗が吹き出した。

「劣勢を覆すために武があり、あいつはそれを磨き続けている」

 ボンシャは腕を解き、木剣に手を乗せる。

「見ての通り、あの若者にすら勝てん。それがお前たちの実力だ」

「弱い奴らは大人しくしてろって言いてえのか?」

「何を言っている。「弱い奴が悪い」これはお前たちが風を襲う考え方なんであろう?それなら俺たちは悪くない。違うのか?」

「ふざけるな」

「ふざけてはいない。それでは失礼するよ、次もあるんでね」

「待て」

 髭面は大声を上げる。

 ボンシャは厄介事を見るような目つきで見返す。

 髭面が目を逸らさないので、ボンシャは軽くため息を吐く。

「リュート、お前の木剣そろそろ替え時だろ。新しいのを買ってやるから少し貸せ」

「いえ。ありがとうございます、まだ使えるので」

 リュートはそう答えた後に、髭面に木剣を渡す。

「なぜ俺たちのことを理解しようとしない奴に、合わせなければいけないのだ」

 ボンシャが愚痴をこぼすと、髭面は無言で構える。

「長髪のやつは頭の回転が早い。あいつがお前の右腕といったところで、後の二人は護衛だな。最も、二人とも役に立たなかったがな」

 髭面の顔が変わる。

 しかし、勝敗は一瞬でついた。初手をボンシャが勢い良く弾き返すと、その衝撃に堪えられずにリュートの木剣が宙を舞った。

 ボンシャは髭面から視線を外し、木剣を腰に仕舞う。

「確かお前はダズと言ったな?」

 髭面は自分の名前を突然呼ばれても、顔色ひとつ変えず睨み返す。

 それにボンシャが気が付く。

「お前はこの賊の頭脳とか呼ばれているんだってな?」

 髭面の眉がぴくりと動く。

「あそこに俺が居たから、その若いのを向かわせたのか?」

「用は済んだ、戻るぞ」

「おい」

 呼び止めたところで無駄だ。ボンシャは何も言わずに外に出る。リュートは木剣を拾い上げ、その後を追う。

 髭面は次の言葉が出てこないのか、立ち尽くしていた。

 外に出ると、月は雲に隠れてしまい来た時よりも暗くなっていた。見え難くなっていたが、通った道を思い出しながら進む。

 脇道から通りに出ると、直ぐにボンシャに声を掛けられる。リュートが横に並ぶと、歩く速度が徐々に上がっていく。

「もう少し進んだら合図を送る。それによってあっちの灯りが落とされるから、賊が動き出す前に戻る。絶対に気付かれるなよ」

「はい」

「あとはひたすら身を潜めるだけだ。細かいことはさっき伝えたが、覚えているか?」

「はい」

「よし」ボンシャは頷く。「ホロイ家よ、名はなんと申す」

 リュートは驚いた表情を見せた後、嬉しそうにボンシャを見返す。

「ありがとうございます。リュートです」

 当然、俺の名前を忘れたわけでは無い。

「リュートよ、お前の名を覚えたぞ」

「ありがとうございます」

 名を聞かれるのではない、名を覚えると言ってもらえた。

 リュートは小さく拳を握る。

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