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王国戦国物語  作者: 遠野時松
とある王国のエピソード
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兵の道 7 探り合い

「おやおや、誰かと思ったら昼間訪ねて来られた若者では無いですか。お久しぶりですね」

 丁寧な言葉遣いとは裏腹に、まとわりつくような口調と見下すような笑みに不快感を覚える。

 テーブルに座る残りの二人も髭面の態度を見て何やら感じ取った様子で、ニヤニヤと卑下た笑みを浮かべる。

「こんな夜分遅くにどうされました?」

 髭面は手に持っていたカードをテーブルに伏せて、ゆっくりと立ち上がる。

 残りの二人もカードを伏せ、ふんぞり返ったり背もたれに腕を乗せるなどして、これでもかと横柄な態度を取る。

「まさかこんな時間に来て、仲間になりたいなんて失礼なことを言わないよな?」

 髭面は睨め付けながらも、口元に笑みを浮かべながら歩き出す。それに合わせるように、入り口付近にいた男がボンシャの前に立ち塞がる。

「それはないから安心しろ」

 目の前で執拗に威嚇してくる男に、ボンシャも乾いた笑いで応える。

「まあ、そうだろうな。で、何用だ?」

「最近、悪さをしている輩がこの辺を彷徨いているとの情報が入ってな。何か知らないか?」

「いやー、知らないなぁ。見ての通りここには善人しかいないからなぁ」

 髭面が仲間に視線を送る。

 ドン!とテーブルを強く叩く音が室内に響き、嫌な笑い声が聞こえてくる。

「奥に座る者は、何か知っているようだか?」

「お前の気のせいじゃないか?」

「そうか、それは残念だ」

 お互いが牽制し合い、会話が止まる。ボンシャと髭面の睨み合う時間と比例して、場の空気が張り詰めていく。

 皮膚はひりつき、リュートは顔の強張りと喉の渇きを覚える。

「そうだ思い出したことが一つある」

 髭面が、場の空気を変える。

「そうか、それはありがたい」

 刺すように髭面を見据えたまま、ボンシャは抑揚を付けずに答える。

「お前らにとっては重要な話なのだが、そういう態度を取られると教える気がなくなるなぁ」

「それは失礼した」

 語句とは言い難い、空虚な音のみの謝罪が聞こえる。

 髭面はそれ以外の言葉を催促するように、ボンシャの目を見返す。

「こちらも暇じゃないんでね。そうやって勿体ぶらずに教えてもらえると、ありがたいのだがな」

 ボンシャは皮肉まじりに左の口角を上げ、肩をすくめる。

 髭面は舌打ちと共に顔を顰める。

「出所は教えられないが、崇高な風の皆さまの、驕り高ぶり、伸び切った醜い鼻を叩き折ろうとしている、気骨のある者たちがいると聞いたことがあるなぁ」

 髭面がいやらしく笑うと、テーブルにいる二人も声を出して笑う。

 お前たちの正体などすでに見破っているという意思表示と、風など恐れる存在ではないと言いたいのだろう。

「なんだ、そんなことか。勿体ぶった割にしょうもない話を聞かされたものだ」

「ほぉー、言うじゃねえか」

 髭面は片眉を上げる。

「いや、失礼した。荷を運ぶ風を襲うようなお粗末なやつなら、そんなことを考えそうだなと思ってな。そんなことを自慢気に話されても、こちらとしては困ってしまう」

「それなら、そのような者たちが街にいる風を襲いに行っていると言ったらどうだ?」

 小馬鹿にしながら髭面は、ボンシャの顔色を窺う。

「それも承知している」

 顔色一つ変えずに、ボンシャは即答する。

 昼間の対応からして、髭面は他の者より多少なりとも頭が切れるのだろう。目付きが変わり、訝しがり始める。

「それならお前たちは、二人で俺たちの相手をしに来たというのか?」

「お前たちがそいつらの仲間だと言うなら、そういうことになるな」

「負け惜しみか?心地良いねぇ」

 テーブルの方から声が聞こえる。

「これを負け惜しみだと思うのか。お前たちの考え方は興味深いな」

「お前は腕に自信がありそうだが、後ろに立っているお坊ちゃんはお人形さんみたいに立ってるだけだ。負け惜しみにしか聞こえんが?」

「全てを知り得た上で、この人選になったのだがな」

「ほぉー」

 髭面はテーブルの二人に向かって顎をしゃくる。長髪の男が「おい」と言うと、短髪の男は立て掛けてある剣に手を伸ばす。

「おい、そこの長髪。この若者の顔は覚えていたみたいだが、俺の顔は覚えていないのか?」

 長髪の男はボンシャの顔を見つめる。

「俺はお前の事を覚えているぞ。一緒に居た顔に傷のある男は街に向かったのか?」

「なっ」

「確か街に向かったのは八人だったかな。暗くて顔が見えなかったが、その中にいたのであろう。お前はどう思う?」

 ボンシャはリュートに顔を向ける。

「そうだと思われます。手足れと言われている三人が先を歩き、その後ろに付き従っている者の中にいたのではないでしょうか」

 二人の会話に賊は言葉を失う。

「一つ聞きたいのだが、気骨があると申していた男たちは、街にいる風は本を読んでいた人物と荷台に寝ていた人物だけだとは思っていないよな?」

「人を隠していたというのか?」

 髭面から、先ほどまで見せていた余裕が消える。

「そんなことをする訳がない。いや、そんな必要はないと言った方が適切か。あの二人は俺など足元にも及ばない化け物だ。難なく賊を制圧するだろう。その方達と同程度の武を有するものがあと二人いる」

「なんだと?あの場にいなかったじゃねえか」

 長髪は語気を荒げる。

「さっきも申したが、お前たち如きにそんなことをする訳がない。たまたまあの場から離れていただけだ。自分たちがするから相手もするだろうと考えるのはよろしくないな。俺が言いたいのは、偵察をするんだったら数ぐらいきちんと把握をしろ、ということだ」

「汚ねえことしやがる」

「どの口が申しているのだ?」ボンシャは凄む。「これが戦というならならまだ分かる。お前たちは数に物を言わせて、荷を襲っただろうが」

 長髪の男は、睨め付けるだけで言い返すことができない。

「おっと、お前たちはあいつらの仲間だと申していなかったな。これは失礼した。それならば、その気骨があるという者たちを成敗するために、街へと戻るとしよう」

「おい」

 ボンシャの前に立つ男が呼び止める。

「何か用かな?まさか風に恐れをなして多勢で襲い掛かり、偵察もろくにできず、こちらの策に嵌っていることすら気付かずにほいほいと兵を出し、その上、愚かなのを気骨があるなどと勘違いしている気の毒な阿呆共を、仲間だと言わないよな?そんなことを言うのだったら、良い医者を紹介してやるぞ」

 男の眉間に深い皺が刻まれる。

 男が拳を振り上げると同時に、ボンシャの腰に携えてある木剣の柄が溝落ちにめり込む。

 男は「ぐふ」と、腹を押さえながら腰から落ちる。膝をついたところでボンシャの膝が鼻っ柱にめり込み、呻き声を上げながらもんどりを打った。

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