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王国戦国物語  作者: 遠野時松
とある王国のエピソード
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兵の道 6 騙し合い

 風のたまり場に着いた。

 ボンシャを探したが、賊に姿を見せぬように慎重に戻ってきているのか姿は無かった。

「ただいま戻りました」

 荷車の上で寝っ転がっているウルクが、応えるように手を上げる。

 視線を移すと、木に寄りかかり本を開いていたシャルルイと目が合った。

「おっ、ご苦労であった」

 リュートが頭を下げて応えると、シャルルイは再び本に視線を落とす。

 日が陰り始めた広場は蝶も飛び交い、ゆっくりとした時間が流れている。二人とも余暇を楽しんでいるようにしか見えない。偵察に関しては特に報告すべきことは無いが、このような状況は想定外だった。

「他のお二人はどちらにいますか?」

「街の長老たちと話をしている。しばらくこの場所に世話になるかもしれんからな」

 シャルルイは本を閉じることなく、リュートの問いに答える。

「物見の報告はどうしますか?」

「それについては後でいいのではないか。ソルダ殿たちが戻ってから一緒に聞く方が効率的であろう?」

 広場の雰囲気を表すかのように、ゆっくりと本をめくる。

「分かりました、そういたします」

 これから賊と一戦を交えるというのに、この光景はあまりに異質である。どういう心持ちでいればいいのか、リュートは悩んでしまう。

 やることがないからといって立ち尽くしているのは性に合わないし、かといって二人のように休んでいるのもソルダたちが戻って来た時に良い印象を与えないのではないかと思ってしまう。

 リュートは自分の張った天幕から、木剣を取り出す。

「焦ったところで事が上手く運ぶわけではない。お前も体を休めたらどうだ?」

 ウルクは友を昼寝に誘うかのように、リュートに話しかける。

「いや、しかし…」

「しかしではない。この先、何が起こるか分からないのだぞ。今は体を休めることも大事だと言っているのだがな」

「心遣いありがとうございます」

 ありがたいのだが、参戦している者の中で自分だけ経験と実績が乏しい。不安を払拭するために剣を振りたいが、今は違うのであろう。

 かといってまだ日が高いため、火を起こすのには早すぎる。手持ちぶたさである。考えた末に、筋力を上げる鍛錬をすることにした。

「体を休めるという言葉の意味をお前は理解できておらん」

 ウルクは笑う。

「体を動かすぐらいはいいのではないかな」

「シャルルイ様がそう言うのならば」

 ウルクはしょうがないなと、笑いながらリュートに向かって顎をしゃくる。

 額から汗が流れ落ち、上着のほとんどが濡れて重くなった頃にボンシャがたまり場に姿を現した。




 日はすでに落ち、あと数日経てばまん丸になる月が夜道を照らす。

 ボンシャとリュートは腰に木剣を携えて、隠れ家へと続く脇道を歩いている。

「お前は中々の適任だったな」

 昼間、賊が座っていた場所に差し掛かると、ボンシャはリュートに話しかける。「シャルルイ様のお見立ては間違っていなかったと、あの時に確信したぞ」

 ちょうど道の暗がりにいるため表情はうか窺えないが、声が笑っているので褒めていないというのは分かる。

 先ほどボンシャが戻って来ると、リュートが戻ってきた時とは打って変わり、シャルルイとウルクは机へと集まる。そこで、偵察をした真の目的とボンシャが遅れた理由をシャルルイから聞かされる。

 リュートが驚きの表情を浮かべると、それを見たボンシャが「賊につけられてたの、気が付かなかったのか?」と呆れられた。

 人につけられる経験など今までない。冷静を装い「気が付いてはいたのですが、そこまで考えられてのこととは知らなかったものでどうしたら良いか分からずにそのままにしました」とリュートが言うと、ウルクに「そのようには見えなかったがな」と鼻で笑われた。冗談混じりでシャルルイからも「やはりお主を選んで正解だったな」と付け加えられたため、引き攣った笑顔で「ご冗談を」と返した。

 あの時の真相を賊が動き出すまで草むらに身を隠していた際に問い詰められたので、正直に話したところ、昼間の賊とのやり取りもいつの間にか揶揄いの対象になってしまった。

「私としては、普通に受け答えをしたつもりでした」

「シャルルイ様がお前にだけ策を示さなかったのを理解できなかったが、あれを見たらそれも腑に落ちた。全てを知った状態で演技ができるほど、器用ではなさそうだからな」

「策を知り自分の不甲斐なさに気が付きました。あの時は賊を欺いてやろうとも考えず、また身分がばれるとも思っていませんでした」

「そうだろうな」ボンシャは笑う。「あの時のお前は絶妙に怪しかった。しかし、それが功を奏したのだと俺も思う。仲間になりたいと言っているのに直ぐに帰ってしまったところといい、受け答えもどことなく硬かったのも評価できる」 

「太刀筋も正直過ぎるとよく言われます」

「そんな言い方をするな。それについては引け目を感じる必要はないと思うぞ。それすらも凌駕するほどに腕を磨けば誰も文句は言うまい」

「ありがとうございます」

 少し揶揄い過ぎたのがいけなかったのか、ボンシャは後ろ向きな発言をしだしたリュートに幼さと可愛気を感じた。

「さてと、冗談はこの辺にしておいて、そろそろ本番といくか。準備はいいか?」

「はい」

 話しながら道を歩けることからも分かるように、この場は手薄となっている。難なく敷地に入ると、探りを入れることなどせずにボンシャは開け放たれた家の入り口に立つ。

 異変に気が付いた賊は一斉に顔を向ける。

「夜分に申し訳ない」

「悪いが他を当たってくれ」

 ボンシャの呼びかけに、テーブルに座っていた一人が無下にあしらう。

「ん?お前は…」

 テーブルに座るもう一人が、リュートの顔を指す。昼間にリュートを追い返した、あの髭面の男だ。

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