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王国戦国物語  作者: 遠野時松
とある王国のエピソード
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兵の道 5 隠れ家

「決まっていないのですか?」

 ソルダはその問いかけに対し、何も答えずに片眉を上げてリュートを下から覗き込む。

「あ、いえ。失礼しました」

 ソルダは再び机に視線を落とす。上げられた眉は下がったが、眉と眉の間は先ほどより狭まっている。

 略奪が目的の相手ならば事は簡単で、これほど悩むことはないだろう。切り捨てて終わり。そして、闇から闇へと葬り去られる。どの家もそこまでお人好しではない。ところが、今回のような賊に対しては風としても判断に迷う。人様の荷を奪うようなやつに善人などいないが、悪人の中にも救いようのないやつとそうでない者もいる。

 暫しの沈黙の後に「ホロイ家、お前はどう思う?」と、ソルダは机から視線を外すことなくリュートに尋ねる。

 手書きの地図には、隠れ家らしき場所の印と周辺の地形描かれていた。風の情報収集能力は並外れている。すでに丸裸にされているなどとは、賊としたら思いも寄らないだろう。

「やはりここは正攻法として、アジトに正々堂々と攻撃を仕掛けるのがいいのではないですか?」

 敢えて寡兵で事を起こすのは、力の差を見せつけ同じような勘違いを起こす輩を後々出させないためでもある。ならず者たちの情報網も侮れなく、こういった話は直ぐに広まる。手堅い策だが、今回はこれが一番適している。

 けれども誰も頷かない。

 手足れの数さえ把握している状況での、この人数。もう一名参加するみたいだが、その方も本当ならば必要ないと言っていた。集まらないのではなく、集めていない。それならば、夜襲などは必要ない。

 三人の様子を窺うために少し間を置く。やはりと言うべきか、誰も口を開く気配がない。

「それならば、もう一つ。賊も生きていくには何か食べなければなりません。食料を求めてアジトを離れた下の者をそれぞれ倒していき、飢えと脅威を感じて家移しをする賊の前に立ち塞がるのはいかがですか?」

 前の村でシャルルイ様を見ていて学んだ。この方達は難しい顔をしながら、内心では楽しんでいるのだ。ビート殿の手を見れば、長い年月剣を振ってきたのが分かる。そんな人が本気で子供の喧嘩をするのだ。考えただけで、なぜだか心が踊りだす。

「補足させていただきますと、お前たちの行動などこちらに筒抜けだぞ。と脅しもかけられます。弱ったところを叩けば、得られる効果も大きいと考えます」

「面白そうだが、俺はそこまで時間を掛けられん」

 ウルクは口から種を吐き出す。

「それでは、荷を引く振りをして賊に襲わせ、それを返り討ちにするというのはいかがでしょうか?」

「用意する物が多すぎる。それにどうやってこちらを襲わせるのだ?」

 リュートは息を吸う。が、次の言葉は口から出てこない。

「お前は、俺より策を立てるのが苦手みたいだな」

 ウルクは笑う。

「決まりだな」

 ソルダが両隣りに視線を送ると、それぞれが頷いた。

「それではシャルルイ殿、予定通り変更なく」

「承知しました」

 シャルルイはリュートを見る。

「リュートです」

「おお、リュート。君は後ほど来る者と一緒に賊を偵察してきてくれ。何をするにも多くの情報を手に入れておきたいからな」

「名はボンシャ、歳は二十三と言ったかな。フリエルでの同業だ。父親が我らと同じヴェレー家出身ということもあり、是非ともと願い出てくれた」

 ソルダが付け足す。

「そうだリュート、ボンシャが戻ってくるまでの時間を活かして、稽古をつけてもらってはどうかな。君の腕前も確認してもらえるし、丁度良いと思うのだけれど」シャルルイはテーブルの方に顔を向ける。「いかがです?」

「お願いします!」

 すかさずリュートは頭を下げる。

 ソルダは何も言わない。

「若いってのは良いねぇ」

 ウルクの言葉で、ビークは立ち上がった。




 旅人を装い二人並んで道を歩く。

「あー、駄目だ。このまま進むぞ」

 リュートに話しかける振りをしながら、脇道に目をやっていたボンシャが小さな声で呟く。

「道の途中に三人いる。その内の一人と目が合っちまった」

 脇道を入った先に隠れ家があるが、途中の曲がり口まで行かないと木々が邪魔をして中の様子は窺えない。

 街に住む娘の元へ行った炭焼きの爺さんが最近まで住んでいた家に、賊は断りもなく住み着いている。廃墟ならいざ知らず、まだ人が住める家を壊すのは気が引ける。盾篭られてしまったら面倒事が多くなるため、正面切って乗り込むのは最後の手段になると横にいるボンシャが教えてくれた。

「どうしますか?」

 少し離れた所で立ち止まり、リュートは尋ねる。

「どうするかなー。目的はまだ賊がいるかどうかの確認だからそれは達成したけれど、このまま帰るってのもなぁ」

 ボンシャは来た道を振り返る。「お前さぁ。今から戻って、ヤツらと話をしてこいよ」

「えっ?」

「ヤツらがたまってた場所からなら、中の様子が窺えそうだから行ってこい」

「本気ですか?」

 リュートの顔を見たボンシャは楽しそうに笑う。

「大丈夫だって、手元に武器の類は無かったから殺されはしねえよ。俺が行きたいところだけれど、さっき顔を見られちまったからお前が行ってこい」

「怪しまれないですか?」

「そりゃー、仲間以外が現れたら誰だって怪しむだろ。本格的なやつじゃなくて、少しだけ中の様子を見てこいよ。そうだなぁ、要塞化されてないかだけぐらいでいいや」

「はい…」

「難しく考えるなって、仲間になりたいからボスに合わせてくれとか言えば大丈夫だろ」

「分かりました」

「追い返されたら俺は身を隠す。俺の顔を見られたら、いくらなんでも賊も気が付くだろうからな。そうなったら俺のことを探さずに一人で戻れ。もし、上手く仲間になれたら、そのまま潜伏してろ」

 ボンシャはリュートの背中を叩く。「面白そうだな」

 背中を叩かれ続け、押されるように来た道を戻る。

 道の入り口で深呼吸をしている最中に、リュートは背中を強く押される。そのまま、たたらを踏んで小径へ入る。振り返ると、賊から見えない位置に隠れているボンシャが笑っているのが見える。

 心を落ち着かせ、道の先に視線を移すと石に座っている髭面の男と目が合う。

 ここはお前のようなやつが来るところじゃない。髭面の男の目がそう言っている。

「おい、何か用か?」

 自分の目を見ても立ち去らないリュートに対し、髭面はドスの利いた声を浴びせる。

「いえ、あの」

 リュートは考える振りをしながら、ボンシャの方に目をやる。人差し指を賊の方に指して、行け行けと、口が動いている。

「仲間にしてもらいたいと思いまして」

 ゆっくりと賊の方に歩き出す。

 髭面は、不快感を露わにした顔で睨め付けながら立ち上がる。

「仲間だと?お前は何を言ってるんだ?」

 小馬鹿にした口調で髭面が答えると、他の二人も鼻で笑う。

「仲間になりたいんです。ボスに合わせて下さい。お願いします」

「そのボスってのは俺だ。その俺がお前と話す気はねえって言っている。帰んな」

 髭面は行手を遮るようにリュートに近付く。

 家の中から数名の賊が出てくるのが見えた。

「勘違いでした。すみませんでした」

 通りに戻る途中でボンシャが身を隠していた場所を確認したが、そこに姿はもう無かった。

 言われた通りに、ボンシャを探したりせずに一人旅を装って村へと戻った。

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