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王国戦国物語  作者: 遠野時松
とある王国のエピソード
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兵の道 3 新たな任務

「なぜだか私はこういう厄介事に巻き込まれるたちでね」

「同じような男を知っています」

 リュートは微笑みを浮かべて答える。

「そうか、やはり俺みたいなやつはどこにでもいるものなのだな」くすりと笑う。「では、皆に名を知ってもらえ」

 視線の先には、箱をひっくり返しただけの机の周りに三人の風が座っていた。皆、屈強な体つきをしていて、品定めをするような目でこちらを見ている。

「ホロイ家のリュートであります」

 左胸につけられている木紋のやや下に拳を当てて、軽く一礼を行う。

「ヴェレー家のソルダだ」

 場の中心に座る男が答える。

 ヴェレー家はクポワーソ地方の都市フリエルにある名門だ。俺が土で行ったベイナイ家もフリエルにある。

 質のいい風衣の胸元には紋が綺麗に刺繍されている。醸し出す武の匂いから、普段は大きな隊を率いている人物だとお見受けする。

「そして同じ家のビークスタントだ」

「ビークとでも呼んでくれ」

 ビークと名乗る風も只者ではない。

 歳はソルダ殿より少し若く二十代半ばから後半といったところか。風衣にはみぞおち辺りに大きな紋が見える。個人で動くことを好みそうな雰囲気がある。

「こちらはウルク殿だ。今回の件で助力を頂く」

「ケレイ家のウルクだ」

 ケレイ家はクポワーソ地方の北部に位置するルエンターニュ地方にある。

 ビーク殿と同じく、みぞおち辺りに大きな紋がある風衣を着ている。歳は三十を超えていそうで、長旅だったのか無精髭を蓄えている。そのためか粗雑な印象を受ける。

「皆様、よろしくお願いします」

 三人共に右の拳を心臓の辺りに持っていき、歓迎の意を示す。

「シャルルイ殿から伺っている、腕はそれなりに備えているようだな。実戦の方はどうだ?」

「ソルダ様、実戦とは賊との戦いでしょうか?」

「そうだが…。そのように聞くということは、その歳で戦に出たことがあるのか?」

 片目を細めリュートを見つめる。意外だな。とソルダの顔が物語っている。

「いえ」リュートは恐縮する。「失礼しました、どちらも経験はありません」

「そうか、それはすまなかった」

 わずかだが、笑い声が聞こえる。

「おい、紛らわしいやつだな」

「ビークよ、笑ってやるな。突然呼び出されて緊張しているのであろう。なあ?」

 リュートは慌てて頷く。

 ウルクも微笑ましく思いながら、そのやり取りを眺める。懐に手を入れて種子を切ったものを取り出し、葉に巻いて口に入れた。

 助太刀としての立場からか、積極的な発言は控えているようであった。

「こいつを使いますか?」

「今回はあれだ。シャルルイ殿の推薦もあるので、心配はしていない。ホロイ家よ、初めての実戦となるが、大丈夫か?」

「ソルダ様申し訳ありません、先に一つだけお聞きしてもよろしいですか?今回の任務はどういったものになるのでしょうか?」

「そうであった、そうであった」

 ソルダは笑う。

「うちの家のやつがやられたんだ」

 ソルダの声とは対照的に、隣から低い声が聞こえる。

「えっ?」

 リュートはビークスタントに顔を向ける。「やられたとは賊に襲われたということですか?」

「さっきからその話をしているだろう。それにそれ以外にあるか?」

 ビークは鋭い目を向ける。リュートの背筋が凍る。

「申し訳ありません」

「おいビーク、家のものがやられて苛立っているのは分かるが少し控えぬか。いつもはこんなやつではない。分かってやってくれ」

「いえ、こちらが悪いことです。気が動転しておりました」

 ビークスタントは一瞬顔を歪めて黙ってしまった。

 ソルダはしょうがないやつだと苦笑いを浮かべる。

「先ずはこれを見てくれ」

 机の上には二枚の紙が置かれていた。一つは街を探せば手に入れられそうな簡易的な地図と、もう一つは地形が描かれているものだ。

「略図で申し訳ないがな」

 家で独自に作成している地図は重要機密となっていて、限られた人しか見ることができない。

 ソルダは説明を続ける。

「この辺りで襲われた」

 その場所はこの街からほど近い、アンカレ港と都市フリエルを結ぶ比較的大きな山間の道だ。

「ここに賊が出たのですか?」

 危険な箇所として周囲に認知されているが、落石等のもので賊に関してではない。

「うむ。同行していた商人は無事だったが、荷は全て持ち去られた。やられたのは三人。それなりに経験をした若い者と、家に入りたての者。そして、隊を率いていたのはビークと仲の良い者だ」

 ビークは机を叩く。

「三人の風の容態は?」

「若い者の怪我が酷いが、三人共に命には別状はない。言うなれば、あれだ」

 あれとは、賊の略奪行為に対して言われる隠語だ。家によって色々な言われ方があるが、賊に襲われた時に「あれ」がつけられれば風ならばぴんと来る。

「分かりました。それではこの五人でけりをつけるのですね」

「いや、あともう一人いる。要らぬと申したが、荷を届けた後に加わると言って聞かぬ」

「賊の件、承知しました」

 この場合の賊は、荒くれ者と言った方が適切かもしれない。荷が奪われることに違いはないが、目的が違う。

 賊は荷を目的として脅しや武力により奪うが、『あれ』の場合は武力の延長線上に荷がある。言うなれば、「荷を守れぬ程に弱い風が悪い」である。

 直接的に家を侮辱しているのだ。

 このまま好きにやらせたら風や荷に損害が出るばかりではなく、護衛業としての信頼がなくなる。

 商人や通行人に危害を与える賊なら軍も出てくるが、怪我をするのは風だけなので軍も二の足を踏む。家もこれで軍が出てくるのを好ましく思わない。

 当然、家としても舐められたままでは終われないから仕返しに出る。風にはビークのような気の荒い連中が沢山いる。

 こうなると子供の喧嘩だ。どちらが強いかの話になってくる。

「そう固くなるな」

 ウルクは口に溜まった唾を吐き出し、続けて「心踊るではないか」と笑った。

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