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王国戦国物語  作者: 遠野時松
とある王国のエピソード
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武の道 5 肉の味

 その後、稽古場に現れた非番の人を捕まえては稽古をつけてもらった。

 海軍の兵たちは個々の武が秀でている。そして器用な人が多い。船に乗り込む定員が決められているなら、色々とできる人は強みになる。

 リュゼーが俺と同じ道を歩んでいたなら、海軍がリュゼーの才を見出していただろう。

 俺は肉に齧り付く。

 腹が減りすぎて動けなくなりそうになると、ホロイ家出身の兵が昼食に誘い出してくれた。エイスロー殿が声を掛けてくれたらしい。ガフォレ様からお金を頂いたらしく、兵たちが普段行く店より良い店に連れて行ってくれると言われた。

 お薦めの品は、厚めの小麦生地の上に濃いめに味付けされたトマト風味の魚介を乗せ、チーズをかけて焼き上げるものらしい。多くの二枚貝を使ったスープも格別らしい。

 聞いただけで美味そうである。

 クポワーソ地方は、貝が一枚のものがほとんどだ。食材も近場で獲れる旬のものを使うらしい。食べたことのない魚の名前が聞こえてくる。

 しかし、肉を食べたいとお願いする。

 保存食の一種であったり程度の差はあるが、軍部は比較的肉を口にする。兵はそれに慣れてしまったのだろう。この地方ならではの美味いものを食べさせたいのだろうが、俺は肉が食べたい。

 同じような釜の飯を食べてきたルミルト殿は俺の気持ちを察してくれ、自分の財布から少し足して兎肉を食べさせてくれた。

 肉の香りを和らげる香草が混ぜられた塩のみで焼かれたものだったが、とにかく美味い。良いものは塩だけでいい。

 言うなれば、塩が美味い。

 リュートは串に刺さっている牛肉に齧り付く。

 フビットとリュートは夜の街を散策している。

 宿では宴会が夜通し続くが、夜の街に出掛ける大人たちに混じって外に出た。そういった店には入れないので、二人して街を見て回っている。

 フビットは美味そうな焼き菓子を食べている。散々悩んでいる姿を見た店の主人が安くしてくれたらしく、弟へ土産を買えたと喜んでいた。

 この時期、見慣れない俺たちぐらいの歳の者が目を輝かせて歩いていたら大体の想像はつく。街の人はそんな者に優しい。この串も「もうすぐ店じまいだから」と、上質なものに変えてくれた。街が富み、治安が良い証だ。

 大通りは仕立ての良い服を着た商人が、護衛なしで出歩いている。大金を握り締め、目をぎらつかせている商人などいない。アンカレの港は気性が荒いなどと言われているが、こちらが基準となれば納得できる。

 フビットは焼き菓子が気に入ったらしく、焼き菓子ばかり食べている。

 二人とも今は食べることだけに口を使っている。街に着いた当初は衝撃のあまり見たものをひたすら口にすることが多かったが、今は街を楽しむ余裕がある。

 通りには聞き慣れない言葉を話す商人もいる。

 お目当てはもちろん塩だ。備蓄の流通が終わると、澄んだ塩がマルセールに届く。商人は初物好きな金持ちのために何日もこの街で待つ。

 アスキ家の船だけはこの港に止まり、商人たちの輪に混ざる。他国から見たら、ホロイ家は私兵となっているが海軍と変わりない。そのホロイ家を従えるアスキ家は、一番船と呼ばれる船を国境まで見送ると目的地に舵を切る。気にはなるが、今の俺には関係のない話だ。

 それに、それはリュゼーの役回りだろう。

 俺に任されたのはアンカレに塩を運び続けることだ。港を乗り継ぎながら航海する商船ならば、無理に難所を越えずにアンカレで塩を積む。何があろうと絶えず港に塩があることがホロイ家の誇り。求められるものをこなせぬ者に次はない。

 ここでフビットに呼び止められた。

 そろそろ店が閉まる頃で、店主に最後の挨拶をしたいらしい。駆け出した背中を見ながら街灯の下で立ち止まり、残りの肉を口の中に入れる。

 小径の入り口に立つ街灯は、洒落た建物と共に道ゆく人々を照らしている。遠くから運ばれてくる湿気を含んだ潮風が、次の日も暑くなることを感じさせる。

 通りを歩いて見知ったことや、店から流れてきた美味そうな匂いと楽しげな笑い声、船員から聞き齧った夜の話などがなぜだか思い起こされた。

 ただ立って夜の街を眺めているだけなのに、肉を噛み締める度に不思議と皆の心がなぜ沸き立つのかが分かってくる。

 手に残った串を手首だけで振る。

「ありがとな」

「どうだった?」

「喜んでくれたよ」

「それは良かった」

 俺達は大通りへ踵を返し、何度目かの散策を続けた。

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