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王国戦国物語  作者: 遠野時松
とある王国のエピソード
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世の流れ 17 その名

 地面に敷かれた布が、上に置かれた荷物を押し退けながら地中から捲り上がる。それと同時にリュートが姿を現す。

 別の場所からも、身を潜めていたマルロとベンクが現れる。三人は、剣を抜いたリュートを先頭にしてリックたちがいる方へと歩き出す。

 しかし横に並んで後ろを歩く二人は、剣を鞘に収めたままで手に何も持っていない。それを見たファトストは、そうなるよな、と苦笑いを浮かべる。

「やはり隠していたか」

 カッシュは首を振って辺りを見回す。

「心配しなくても、ここにいるのはあの三人だけです。しかも闘うのは、先頭にいるやつだけだと思いますよ」

 ファトストの口調が軽くなる。

 ここまでくれば、本性を隠す必要はないだろう。

「その手には乗らん」

「本当です、本当。そうなるかなぁ、とは思っていましたが、やはりそうなりました。ほら、見てください」

 ファトストの視線の先にいるマルロとベンクは、ある程度進むと腕を組んでその場で立ち止まる。

「この場で命を落としたらそいつの運命はそれまでだ、という考えみたいです。まったく、風の人たちの考え方は理解できません」

 新たな伏兵が現れないことから多少は疑いつつも、カッシュはファトストの言葉を否定しない。

「ここまで上手くいくとは、思ってもいませんでした。ダットさんでしたか、気になりますよね。考えている通り、そっちには大勢潜んでいます。戻って来ないわけですよね」

「小僧……」

 カッシュは唸るようにして言い放つ。ところが何故だか、カッシュはファトストに仕掛けようとはしない。

「お褒めにあずかり光栄です」

 ファトストは隠すことなく、気持ちのままに笑い返す。

 この状況まで持ち込めれば、こうなることはある程度は予想できていた。うまく逃げればリュートの所まで辿り着けるほどに距離が離れていることもあるが、今は引くか加勢するかを判断する戦局だ。個人的な復讐など、その天秤に乗ることはない。

 それを裏付けるように、カッシュは再びリュートへと顔を向ける。

 なおも近寄るリュートだが、リックたちに逃げる素振りはない。リックが顔を振っていることから、伏兵を警戒しているようだ。

「俺たちだけだから心配するな」

 マルロが声を上げる。

「毒にやられた奴など何の面白味もない。相手をするのはそいつだけだ」

 ベンクがリュートに向かって顎をしゃくる。リュートは不服そうな面持ちで剣先を前に出し、それに応える。

「やはり毒か」

「その通りです。もう少し食べさせる量を多くしたかったのですが、これが限界ですね」

 その答えを聞く前にカッシュは素早く口の中に手を突っ込んで、胃の中にあるものを吐き出す。

 カッシュが仕掛けてこないという自信は、これもある。手足に多少の痺れなどを感じているだろう。

「あっ、無駄です無駄。そんな生半可なものは使いません。発汗と痺れによる流涎に口調の変化。これだけ時間が経ってその程度の症状なら、たぶん大丈夫だと思いますよ。毒だけなら」

 カッシュは顔を少しだけファトストに向け、目だけで睨む。

「シグって毒草なんですが、腐った臭いがするために間違えて食べようとしても気が付きます。シグを知らなくても、その臭いで食べようなんて考えません。それをどうやって違和感なく食べさせるかを考えるのに、多少なりとも苦労しました」

 ファトストは串を地面に置いて土を被せる。「この辺で採れる毒など限られていたからこうするしかなかった、ごめんよ。残してある分は美味しく食べるからな」

 服で手を払ってから、ファトストは鋭い目付きでカッシュのことを見る。

「シグでは分からないですよね。シーアリンクかシクータと言えば分かりますか? 神話の世界で神を信じずに悲劇的な最後を迎えた男が、最後に口にした毒です」

 カッシュの表情が今にも切り掛かりそうな怒りに満ちたもの変わるが、ファトストは飄々として笑い返す。

「やはり知っていましたか、トンポンでも有名なお話ですよね」

「お前だけは何があっても許さぬ」

 カッシュはファトストに体を向ける。

 それはこちらの台詞だ。これだけ身を削ったんだ、こいつらはここで確実に仕留める。逃すか。

「あっ、始まりますよ」

 ファトストはリュートを指先で指し示す。

 カン、と剣で何かを弾く音がする。カッシュはその音で振り返る。

 先ほど胃の中のものを戻したウマルが、再び皿をリュートに投げ付ける。リュートはそれを軽くいなす。ウルマはそれで力尽きたように、膝を突く。

 シグの葉が多く含まれた串を食べたのか、体の大きさからなのか判断はつかないが、どちらにせよ先ずは一人。

 次にコルビが剣を手にして襲いかかる。動きに機敏さはあるが、滑らかさはない。少なからず毒の影響を受けているようだ。

 リュートは慌てずにそれを待ち構える。振り下ろされた剣をリュートが受け止める同時に、コルビの横をすり抜けてきたラオルフが体の大きさを感じさせない蹴りを放ってくる。

 コルビを使い、死角から繰り出された蹴りにリュートの反応が遅れる。リュートはその蹴りを腕で防ぐが、後方に飛ばられてしまう。

 いや、すぐさま構えたところを見ると、衝撃を和らげるために後ろに飛んだと言うべきだろう。

 ここまで、まさに一瞬の攻防。分かってはいたが、敵は強い。街道で相手にした賊の頭とは比べ物にならないぐらいの強さだと、さっきの攻防で分かる。

 余計なことをするな、とリュートに言われたが、俺は風でも武人でもない。勝つためには何だってしてやる。

 たが、それよりも驚いたのはリュートの成長だ。あの動きなら、強がりからきた言葉ではないことが分かる。

「ウオフルでしたか、体が大きいために毒の影響はほぼないみたいですね」

 ファトストの言葉にカッシュは舌打ちで返す。

 ここで再びコルビが動く。薙ぎ払う動きで剣を繰り出す。リュートが剣でそれを止めると、ウオルフが袈裟斬りで飛び込んでくる。それを受けることはせず、リュートは体を横にして寸前で躱す。

 ウオルフを狙う円を描くようなリュートの剣は、コルビによって上に弾かれる。返しのウオルフの剣は、リュートが上体を反らしたことにより空を切る。

「コルビというのは、トンポンでは一般的な名ですよね?」

 ファトストの問い掛けに、カッシュは何の反応も示さない。

 リュートは自分の役目を全うしている。今の俺にできることは、敵の情報を多く集めることだ。

「帝国ではなく、トンポンからの刺客とは思いませんでした」

「やはり生かしておけぬな」

 カッシュは鞘から剣を引き抜く。

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