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王国戦国物語  作者: 遠野時松
とある王国のエピソード
110/113

世の流れ 14 名もなき男たち

「嫌われたみたいだな」

 一番近くにいる男が、ファトストを最後に蹴り上げた『声の男』に話しかける。

「どうでもいい」

 声の男がこたえる。「それよりもあいつらを呼び戻してこい。ぐずぐずしてるとやつらが戻ってくる」

「ほっとけ、ほっとけ」

 赤い髪の男が手を振ってから、パンに手を伸ばす。

「時間が無いんだったら、飯なんか食わせなけりゃいいだろ。なあ?」

 ファトストを踏み付けた男が、横にいる男に話しかける。

「そんなこと言ってもよぉ。飯を食わせなきゃ、あいつらだって嫌になって逃げ出すだろ」

 一番体の大きい男がこたえる。

「その通りだ。あいつらは俺たちがここから逃げ出すための大切な駒だ。目的を達するまで、大切にしてやらなきゃな」

 初めにファトストを蹴り上げた男が話に入る。

「だとよ」

 踏み付けた男が、ファトストに一番近くにいる男に向かって顎をしゃくる。

「めんどくせえなぁ」

 渋々ながらその男は立ち上がり、肉を齧りつつその場を離れる。

「ダット。走れ、走れ」

 踏み付けた男の言葉に皆が笑う。

「おい!」

 一人だけ笑わなかった、声の男が踏み付けた男を睨め付ける。

「ああ?」

 踏み付けた男は、唸るような声で睨み返す。

「よせよせ」

 体の大きな男が仲裁に入る。「この国では、名を明かさない決まりだろ?」

「チッ」

 踏み付けた男は、周りに聞こえるように舌打ちをしてから目を逸す。

「分かればいい」

 その言葉に男は眉根を寄せて、再び声の男と目を合わせる。

「どうしたんだ、何か言いたいことでもあるのか?」

 声の男も怒りを露わにし、目を大きく開きながら見返す。

「すみませんでしたね」

 反省や謝罪の気持ちが全く感じられない、音を鳴らしただけの意味を持たない言葉が発せられる。

「分かればいい」

 声の男は再び、同じ言葉を口にする。

 両者は睨み合いを続け、仲間同士だというのに一触発の空気が流れる。

「このあたりでやめてもらえないかね。飯が不味くなる」

 体の大きな男は、我関せずと串を手に取る。「しかしこれ、酒が飲みたくなる味だな」

「確かになぁ」

 赤い髪の男はそう言いながら、火で炙ったパンの上に肉を乗せる。「おい小僧、ここに酒はねえのか?」

 ぶっきらぼうな問い掛けに、ファトストは首を振る。

「さっきまで威勢が良かったのに、随分と静かになったじゃねえか」

 赤い髪の男は体の大きな男から催促された炙ったパンを手渡してから、手に持つ肉を乗せたパンに齧り付く。

「慣れると美味いなこれ」

 体の大きな男は、肉とパンを交互に口へと運ぶ。

「この肉を作らせるために、あいつを連れていくか?」

 笑いながら、赤い髪の男が尋ねる。

「冗談を言うな」

 腹を踏んだ男が代わりに答える。

「こいつのいう通りだ。美味いといっても、今だけだ。この程度の肉ならどこにでもある」

 体の大きな男が言う。

「そうだとも。ハオスが手に入ったら、もっと美味い肉が食い放題になる」

 腹を踏んだ男が、肉を食い終わった木の棒をクルクルと回しながら不敵に笑う。

「おい!」

 声の男が、男たちに睨みを利かせる。

「わるい、わるい」

「そう怒るな」

 体の大きな男と赤い髪の男は、すぐに謝る。ところが腹を踏んだ男は、何も言わずに声の男を見詰める。

「何だ?」

 声の男は先ほどと同様に、腹を踏んだ男を睨み返す。

「リック様。今後は気を付けます」

「ふざけるのも大概にしろ!」

 リックはピクリと体を震わせた後に、声を荒げる。

 腹を踏んだ男はしばらくの間、声の男と目を合わせる。それからゆっくりと目を閉じながら、顔をファトストへと向ける。

「おい小僧、紹介がまだだったな。このお方がリック様。こいつがコルビ。あいつがラオルフ。それにウルマ」

 踏み付けた男は最後に拇指で自分を指差す。「カッシュだ。以後、お見知りおきを」

 今度はリックが、苦々しい顔をしながら舌打ちをする。

 まとめるとこうなる。

 声の男がリック。見た感じこの中で一番位が高いのだろうが、明確な力の差は感じられない。

 続いてカッシュ、ファトストを踏みつけた男だ。この男から一番強い武を感じる。だからこそ、先ほどのような態度が取れるのだろう。言動から、傍若無人さが見て取れる。

 初めにファトストを蹴り倒した男がコルビ。体の線は細いが、かといって筋力が無いわけではない。油断をしていたとはいえ、肋骨にヒビを入れられる蹴りを持っている。

 一番体の大きな男がラオルフで、ウルマが髪の赤い男だ。

 誰も皆、武のにおいが立ち込めている。勝負を挑んだところで、逆立ちをしても勝てそうにない。

「こうして仲良くなれたのだ。少しだけ遊んでもらおうかな」

 そう言いながらカッシュは、串をひとつだけ手に取って立ち上がる。

 ニヤニヤと笑う周りの男たちを見て、最悪な未来が待ち受けていることをファトストは悟る。

 こちらに歩いてくるカッシュと目が合うと、その瞳の冷たさから、ファトストは全身が粟立つのを覚える。

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