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王国戦国物語  作者: 遠野時松
とある王国のエピソード
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世の流れ 11 篝火に照らされた決意

 パチパチと木が燃える音がする。

 夏も終わりに近づき、夜になると幾分か過ごしやすくなってきたが、今夜は風の流れがなく蒸し暑い。

 遠巻きながらファトストは、篝火の熱で額にじんわりと滲む汗を手で拭いつつ、エジートたちホロイ家が囲む地図に目を向ける。

 先ほどエジートから語られた話から、地図に記されていない新しくできた集落は賊の手にかかった後だと知らされた。予定通りに事が進んだはずなのに、その場にいる者たちの顔は晴れない。皆、伏目がちに地図の一点を見詰めている。

「やはり手遅れでしたか」

 火の光に顔を赤く照らされたビードが、小さく言葉を漏らす。

「ああ」

 多くを語らず、エジートはこたえる。

 軍のものと思われる鎧には、大小様々なまだら模様が飛び散っている。

「乳飲み子まで手にかけるとは、奴ら……」

 バーシップは憎しみを込めて、自分の太ももを拳で殴りつける。

「その子はそれすらもできなかったはずなのに、最後に奴らは命乞いをしてきました」

 鎧を赤く染めた男が、語気を荒くしてバーシップにこたえる。篝火の光が、その場にいる者に影を作る。

「それで、何か掴めましたか?」

 険しい表情のビードが顔を向けて尋ねと、エジートは何も言わずに首を振ってそれに応える。

「そうですか。それではこちらから動くのは?」

「あそこにいたのは、賊だけだ」

 エジートはそれだけ言って口を閉じる。

「初めからいなかったのか、逃げたのか。どちらにせよ、帝国やトンポンとの繋がりが証明できなければ、軍としては何もできないということですね」

「あの場にそいつらがいたとしても、口を割らなかっただろうな」

 そう述べたエジートに続いて、口を開く者は誰もいない。しばしの沈黙が流れる。

「得た情報によれば、俺たちが討ち取った賊がこの辺の元締めだ。賊の討伐は、これにて終わりということになるだろうな」

 納得できないだろうが、納得しろ。エジートはその口調から、そう皆に言い聞かせる。

「この地にはまだ、敵が残っているのですよ?」

 バーシップが堪らず声を上げる。

 人数までは定かではないが、帝国と繋がりがある人物が確実に動いているとの知らせが入っている。当然の反応に思える。

「こうなったら仕方ない」

 エジートは冷静にこたえる。

「ですが!」

「どうやって探し当てるというのだ?」

「それは……」

 探す術はいくらでもある。人を使っての山狩りもその内のひとつだろうが、敵の正体が掴めない今、武の心得がない者を使うには危険が伴う。

 新たに情報を集めるにも、山狩りを行う人手を集めるのにも時間が掛かる。それとともに、それに見合う対価がなければ、どれも行うには難しい。

「お前は少しそういうところがある。直情的なのはお前の魅力だが、隊を率いるとなると改める必要があるな」

「すみません」

 バーシップは奥歯を噛む。

「皆の者、聞いたであろう!」

 場の空気を変えるためか、ビードが声を上げる。「明日、残党狩りを行う。それで賊の討伐は終わりだ。隊を率いる者はこの場に残り、他は、もしもの為に敵の夜襲に備えよ。いいな」

『はっ!』

 ホロイ家の者たちは力強く返事をすると、各自、割り当てられた役割へと移る。

「これで終わりだな」

 なんとも後味の悪い結果に、浮かない表情でリュートはファトストに声を掛ける。

「感じないのか?」

 苛立ちを内に秘めて、ファトストはこたえる。

「見損なうな。俺だって仇を討ちたい。でもよ、それをエジート様に伝えたところで、手柄欲しさの行動だと思われたら嫌だ。皆がそうしているように、ここは堪えどころだようがよ」

 ギリギリと音が聞こえてきそうなほど、リュートは剣の柄を握りしめる。

「違う、そうじゃない」

 静かに言葉を漏らすファトストの目は、幼い頃にイソ爺のシップをマクベにやられた時と同じように鋭く、瞳の奥に蒼き炎を滾らせている。

「何が違うんだよ」

「敵の気だよ」

「敵?」

「そうだ、敵だ。夜襲に備えろっていうのはそういうことだろ」

 それを聞いたリュートは、半信半疑のまま敵に悟られないようにして辺りを見回す。

「人の気配なんて、何も感じないぞ」

「気配じゃない。こちらに害をなす気満々の、嫌な気だ。奴らは逃げたわけじゃない。近くにいる」

「そうだとしても、こちらの様子を探ってるっていうなら出てこないだろ。これまでの動きからして、敵も馬鹿じゃない」

「俺に考えがある」

 ファトストはリュートに顔を向ける。

「それなら仇を討てるのか?」

 リュートの目も鋭いものに変わり、ファトストを見返す。

「あの集落にはお世話になった人の家族が住んでいた。このままでは終われない。やるしかないだろ」

「不思議とお前が言うと、何でもできそうな気がしてくる」

 リュートは握りしめていた左手を柄から離し、腕を組んで頭の先をファトストに向ける。ファトストも同じように頭を下げ、互いの距離を詰める。

「どうする気だ?」

 リュートは声を小さくして尋ねる。

「敵の偵察が来ているっていうなら、本隊はここからそう遠くない場所にいるはずだろ?」

「そうだな」

「キタシフ様の元に新たな治水工事の計画が届いた。地図での話になるが、この近くの地形は頭に入っている。その中で、身を潜めるのにうってつけの場所がある」

「その場所で間違いはないのか?」

「あくまでも予想の範囲内だけれど、他に思い当たる場所はない。そこは、人の手があまり入っていない割に、所々に水が沸いている土地だ。食料はどうにかできても、水がなければ生きていけない。俺ならそこに身を潜める」

 上目遣いで、ファトストはリュートに目を向ける。

「どこかに逃げるにもこの場で悪さを続けるにも、時を稼ぐには都合の良い場所ってことだな。だけどそんな不確定な情報で、エジート様たちは動かせないだろ」

 リュートも上目遣いで、ファトストと目を合わせる。

「そうじゃない、エジート様たちとは別に動く」

 ファトストは小さく首を振る。「大掛かりな隊が近付けば敵も警戒するだろ?」

「残党狩りといっても、話によれば周囲を警戒する程度のもの。だからこそ、経路についてはある程度の融通が利く。まさか、それを利用するのか?」

 リュートは小さい声ながらも、言葉に力を込める。

「そのまさかだよ。弱そうなヤツがその辺をぶらついていたら、ちょっかいをかけたくなるだろ?」

「そんなの上手くいくのか? 敵からすれば、己の存在をこちらに晒すことになるんだぞ」

「俺を誰だと思ってる?」

 少し間を空けてから、リュートは顔を上げる。

「最高の囮、だ」

 ファトストも顔を上げ、互いに強く見つめ合う。

「俺たちでけりを付ける。のるか?」

「相変わらず、無茶をするやつだな」

 リュートがそう述べたと同時に、勢い良く胸の前で手をぶつけ合う。

「決まりだな」

「おう」

 そのまま手を握り合い、互いに力強く引き合う。

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