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王国戦国物語  作者: 遠野時松
とある王国のエピソード
106/113

世の流れ 10 選ばれるために

 高ぶる気持ちを抑えるように深く呼吸する者、緊張のあまり浅い呼吸を繰り返す者。その、それぞれが道の出口に目を向ける。

 皆が皆、皮の鎧で身を包み、片手には盾を、もう片方には木剣を手にしている。

「もうそろそろだ。いつでも出られる準備をしておけ」

 山中から笛の音が聞こえると、ビードが皆に声を掛ける。

 それに対して頷く者はいるが、誰一人として声を上げる者はいない。その者たちが発する熱気と静けさが、場に異様な雰囲気を作り出している。

 その静けさを破り、賊たちが転げ落ちてくるように坂を下ってくる。

「一、ニ、三……、十一、十二。……だな」

 最後に馬に乗ったバーシップが現れると、ビードは賊を数えるのをやめる。

「マルロ! ベンク!」

 ビードが二人の名を呼ぶと、両名から「はっ!」との声が返ってくる。

「武器はそのまま。正面より突撃。行け!」

「出る!」「行くぞ!」

 各、十名の二分隊が賊に向かって走り出す。

「デカルト!」

「はっ!」

「横からだ」

「承知しました!」

 最後に残された分隊が、遠回りをするように走り出す。

 無秩序な賊とは違い、分隊ごとに連携を取りながら隊列を持って突撃を行う。やるかやられるか、戦場さながらの気迫をもってホロイ家の者たちは走る。

 賊は真剣を手にしているとはいえ、常日頃から剣の鍛錬に励んでいる者とただのごろつきとでは、最初から勝負にならない。制圧というよりも粉砕という言葉があっているかのように、ホロイ家の者たちは木剣にて賊を薙ぎ倒していく。

 そこに賊の今後を気遣う者はいない。剣を弾き飛ばしたとしても、確実に急所を突いて賊を無力化していく。捕り物でエジートたちが見せた個の武で敵を圧倒するのではなく、部隊がひとつの生き物のように動き回り、逃げる暇も与えずに賊を喰らい尽くしていく。

「次だ」

 生き死にが定まらない賊をその場に残して、ビードたちは場所を変える。




 ビードたち騎馬を守るように、マルロとベンクの分隊が盾を構えて道を覆う。そこ目掛けて賊の騎馬が突っ込んでくる。

「放て!」

 ビードがそう叫ぶと、弓を構えたデカルトたちが一斉に弓を放つ。

 鏃を加工して先を丸めた矢が、賊の騎馬を次々と襲う。殺傷能力は抑えてあるが、矢の威力により一人また一人と賊は馬から落ちていく。

 その中でも、デカルトたちの矢を掻い潜って数名の騎馬が突っ込んでくる。

 先頭を駆ける賊の騎馬が盾で道を塞いだマルロ隊と衝突する寸前に、「今だ!」と、マルロが声を上げる。それを合図にして騎馬と相対していた者が道を開けるように身を躱わし、賊が盾の壁を越えたと同時に元の位置に戻り穴を塞ぐ。

 壁の中に入り込んできた賊はすぐさま、引っ掛けられるように先を加工した槍により馬から引き摺り下ろされる。同じようにして、矢を掻い潜った数名の騎馬は地に落とされ、順に討ち取られていく。

「刈り取れ!」

 ビードの号令により、全てのホロイ家の者たちが敵に向かって駆け出す。

 矢によって馬から落ちた者はとどめを刺され、騎馬の後ろについていた賊は為す術なく殴り倒されていく。

「次!」

 賊に襲いかかった勢いそのままで、ホロイ家の者たちは坂を駆け上がっていく。




 先ほどと同じ加工をされた矢が、デカルト隊のみならず各分隊から絶えず射掛けられる。

 その矢に援護をもらった者たちが道に仕掛けられた柵を越え、賊を打ち倒して賊の隠れ家に向かって走る。

「押せ、押せ!」

 ビードが力強く叫ぶ。

「引くな馬鹿たれが!」

 誰しもが震え上がりそうな声で、バーシップが叫ぶ。

『うおおお』

 いくつもの、絶叫とも怒号ともとれる声が辺りに響く。

「何だ、できるではないか」

 バーシップは腰に下げている剣の柄に手を置いて、片側の口角をニヤリと上げる。

 その後も、「どうした、どうした。もう力尽きたのか?」や「疲れたんだったら気合を入れろ」など、バーシップだけでなく事の成り行きを見守る者たちも囃し立てるように声を掛ける。

「そんなことではお前たちに次はない。ここで終わりたくはないだろうが!」

 ビードは必死の形相で戦う者たちに発破をかける。ホロイ家の者たちは鬨を作りながら、賊に襲いかかる。

「どうだ?」

 その者たちと同じ場所でリュートの働きっぷりに目を遣るファトストに、ビードが話し掛ける。

「皆様、素晴らしい動きです。これほどの実力があるのに、そのほとんどの人が軍に招かれない事実に、大変、驚いております」

「リュートが気になるのか?」

 ファトストは、ぴくりと体を震わせる。

「気になりません。どうなろうがそれがあいつの、今の実力なのですから」

「無理をしやがって」

 ビードは目だけを横に遣って、ファトストのことを見る。「それでは質問を変えよう。人の動かし方については、どのように感じた?」

「狩りでの動きをそのまま当て嵌めれば、イケる気がします」

「そうか、イケる、か」

 ビードは、クククッ、と笑う。

「はい。ですが、一緒になって戦うのは無理だと思います」

「弓は使えているではないか。馬の上からでも矢を射られるのだから、大したものだ」

「剣の道は幼い頃に諦めましたが、弓の鍛錬は欠かさず続けています」

 ファトストは少し硬い口調でこたえる。

「さすがのエジートも、あいつらと同じ役目は負わせないと思う。それなら心配いらないな」

 ビードは防御陣地と化した賊の隠れ家に視線を戻す。

「いえ……。いや、そうですね。大丈夫だと思います」

「平気だと言ってもらわねば、こっちが困る」

 そう述べた、バーシップの口調は強い。

「戦場では何が起きるか分からない。言葉だけでなく、身の安全については自分で確保してくれるとありがたい」

 ビードも強い口調で、申し付けるように言う

「それについてはエジート様にお付き合いをした件で、身をもって体験しました」

「そうらしいな」

 エジートから聞いた話を思い出したのか、ビードは一瞬だけ口元を緩ませる。「リュートも言っていたが、『最高の囮』らしいな」

「名誉なのか不名誉なのか。どちらかわからない二つ名で困っています」

「恥じてるのか?」

「そんなところです。仲間内で言われる分にはいいのですが、囮として扱われるのは気が乗らないと言いますか。……はい」

「不意にこんなところに連れてこられたら、そう考えてもおかしくはない。か」

 ビードは慮って笑う。「次に進めるやつの選定に、無理やり付き合わせているのだ。それなりのものを与えてやらねばな」

「そのようなものは必要ありません」

「そう遠慮するな」

 ビードはファトストと目を合わせ、大声を上げながら戦う若者を、クイクイっと顎先を振って指し示す。ファトストはそちらに目を向ける。

「リュート……? ということは、もしや」

「そうだ」

 ビードは頷く。「あいつも連れて行ってやる。仲間に言われる分にはいいんだろ?」

「ありがとうございます」

 笑顔を浮かべるファトストに、ビードは笑顔を返す。

「その代わり、次で命を落としたとしても文句は言うなよ」

「あいつに言っておきます」

「変な憶測を生むことになる。それはやめた方がいいんじゃないか?」

「他の方と見比べても、力は劣っているように見えません。それはあいつ自身も感じていることだと思います。だから大丈夫です」

「お前がいなくても、あいつは選ばれたと言いたいのか?」

「はい」

 ファトストは快活にこたえる。「それにあいつは自分の夢に対して貪欲なやつです。そんなことを気にしません。むしろ喜ぶと思います」

「口では喧嘩しているが、仲が良いのだな」

「腐れ縁です」

「そうなのだな。それならその縁は、今後も大切にしろよ」

「そうします。ですが、俺がさっき言ったことはリュートに伝えないでください」

 それを聞いたビードは、朗笑を浮かべる。

「最後にもうひとつ。俺たちの力も見せてやらなければな」

 ビードの言葉にバーシップが反応をする。

「よろしいので?」

「顔を見れば分かる。お前も昔を思い出して、滾ったのだろ? それならば蹴散らしてこい」

 ビードは賊の隠れ家に向かって顎をしゃくる。

「お任せあれ」

 バーシップは拳を胸に当てから、馬に乗る軍兵たちを見渡す。「あいつら賊どもに策など必要ない。力押しだ」

「おう!」

 騎兵は隊列を組み始める。 

「行くぞ、若造たちに見せつけてやるのだ」

 バーシップを先頭にして、十騎足らずの兵たちが坂を駆ける。

 軍になることを夢見る若者に力の差を見せつけ、発奮を促す。

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