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王国戦国物語  作者: 遠野時松
とある王国のエピソード
104/113

世の流れ 8 黒幕

「これって思った以上に深刻ですよね?」

 有力者たちとは少し離れた場所に位置するファトストが、横にいるルコロフに話しかける。

「その通りだな。二つの村を同時に襲えるということは、捕らえた賊以外にかなりの数がこの地に潜んでいることになる。そいつらが使いの者を襲ったとなると、最悪の場合、その賊による実効支配が起こるかもしれん」

「それだけではありません、場所を見てください。腹いせならばリュカンだけでいいように思えます。それだけで、こちらにその意図が伝わります。襲う数の問題ならば、近くの村を襲うでしょう。それなのに街とは反対側のアンアーバを襲ったとなると、キタシフ様がこの地にいることが賊にバレていることになりませんか?」

「そこまでいくと、考え過ぎだと思うぞ」

 初めは笑っていたが、ルコロフの表情が次第に曇っていく。「いや、まさかそんな事が……。いやいや。いや……まさか」

「確証は持てませんが、安易に事を起こすのは控えた方が良いように思えます」

 険しい顔にかわったルコロフと同じく、その場にいる者の視線がファトストに集まる。

「賊はそれをして、何になるというのだ?」

 ミツヤが尋ねる。

「何もありません。敵にとっては、お遊びの一つに過ぎないのかもしれません」

「くだらぬ」

 有力者の一人が鼻で笑う。

「クリン様のおっしゃる通り、そこまでは考え過ぎのように思えるな」

 ミツヤもクリンの考えに賛同する。

「賊による実効支配」

 誰にともなくルコロフは、思案顔で先ほど言った自分の言葉を繰り返す。突然のことに、自然と皆の視線がルコロフに移る。

「つまりはこの国で反乱を起こそうというのか。いやいや、先ほどから何を考えているんだ。この国でそれをして、成功する可能性は無いに等しい。実効支配など夢のまた夢。だが、その誰かのお遊びが、賊に夢を見せているのだとしたら厄介だな」

 ルコロフはファトストの顔を見る。再び皆の視線が移る。

「それだけならまだしも、そのお遊びが後々、禍いとしてこの地に降り掛かるとしたらどうでしょうか」

 ルコロフは、「考えたくもない」と首を振る。

「何が起きるというのだ?」

 堪らず、ミツヤが尋ねる。

「ここまでされて賊の腹いせとして対処したならば、敵にとってこちらは上。使いの者がやられたとして、反乱または実効支配を警戒したら中。キタシフ様の関連まで読み解いたなら下となり、この地域から手を引く。来たる日のために、これに似たことが各地で行われているのではないでしょうか」

「来たる日とは、いつだ?」

「わかりません。訪れるかもしれませんが、訪れないかもしれません」

「それではただの戯れ言と同じではないか。妄想や陰謀の類なら承知せぬぞ」

「今回、エルメウス家が行っている外交と結びつけることは、考え過ぎなのですか?」

 そのことを知っている者、知らない者で顔付きが違う。それぞれの顔をファトストは頭に入れる。

「回りくどい。端的に話せ」

 そう述べるミツヤは、知らない方の顔だ。

「最近、帝国の動きが活発になっていると聞いております」

「つまり君は、帝国が裏で手を引いているとでも言いたいのか?」

「はっきりそうだとは言えませんが、賊を使って何かしらのことをしようとしているのは確実だと考えます」

「ちょっといいか?」

 先ほどのクリンが話に割り込み、「なぜ帝国なのだ?」と、ファトストに訊ねる。

 その口調から、くだらないことを話すな、と腹を立てているのが見て取れる。このまま見ず知らずの若造が何を言っても、相手には届かないだろう。

「失礼ですが、ご職業は何をされていますか?」

「農家だ。それが何になる」

「ありがとうございます。この中で商いに携わっている方はいませんか?」

 ファトストは探す振りをしながら、先ほど頭に入れた帝国のことを知っていると思われる人へと目配せをする。

「最近になって、北が騒がしいと商人たちが騒ぎ始めているな」

 フォレスター家が質問の意図を汲んで答える。クリンを含めた、それを知らない有力者たちが顔を見合わせる。

「その通りでございます。北とはつまり帝国のこと。その帝国が豊かになるエルドレのことをよく思っていないらしく、色々と動き回っていると聞いています」

「今から話すことも憶測で申し訳ありません」

 ルコロフが話に入る。「エルメウス家が行っている外交も、帝国への威嚇とハオス公国ならびにトンポンへの牽制ではないかと言われております」

 クリンの顔付きが変わる。

「それは本当でしょうか?」

 そうクリンに問われたリルリルも初めて聞いたことなのか、驚いた表情で首を横に振る。直ぐにクリンはキタシフへと顔を向けるが、キタシフも首を傾げるだけで何も答えない。 

 長の二人が口を開かないということは、帝国の話に現実味が帯びる。クリンのみならず、何人かが腕を組んで考え込み始める。

「反乱は成功してもしなくても、帝国にとってさほど重要ではありません」

 ルコロフは言葉を続ける。「治安を脅かせば、民は国に不信感を抱きます。反乱が起きれば、軍は対応に追われます。実効支配をゆるせば、そこからこの国は崩壊するでしょう。いずれも帝国、いや、帝国に限らず、戦と同時に仕掛けられたら対応が難しくなります。早めの対処が求められる状況ですが、敵を知ることを最優先になされた方がよろしいかと思います」

 有力者のほとんどが難しい顔をし始める。

「いくら国が潤ってきたとはいっても、賊にまで行き届くまでのものではありません。それなのに鎧を着ているのはおかしいと思いませんか?」

 ファトストはミツヤに訊ねるが、返答がない。

「昨日あの場に居合わせましたが、剣の技術が低い者もそれなりのものを手にしていました。それに対して、ものすごい違和感を覚えました。食い物を奪う話はよく聞きますが、他の略奪については最近多くなってきた程度です。それなのにあの武器はおかしいです。それだけでも、誰かしらが裏に潜んでいると見当が付けれれます」

「君、名前は?」

 ミツヤが尋ねる。

「ファトストです」

 名を尋ねられて、ファトストは身を正して答える。

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