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王国戦国物語  作者: 遠野時松
とある王国のエピソード
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世の流れ 7 新たな厄介ごと

 この地域一帯を治める長は違う街にいるということで、その場に居合わせた者の中で一番位の高いキタシフが手紙により状況を説明することとなった。

 麓の街はフォレスター家の分家が拠点にしている。賊を街に引き渡した後に、事後処理を行うためにホロイ家と共に屋敷に呼ばれた。

「こんなところで会うとはな」

 庭先で、ファトストがリュートに話し掛ける。

 リュートがホロイ家の者に顔を向けると、その者は顎を振って、話をしてろ、と伝える。リュートは胸に拳を当ててそれに応える。

「上手くいったな」

 体を向き直し、リュートは笑顔で話しかける。

 リュートが思いついて、ファトストが頭を使う。それで悪戯が成功すると、決まってリュートは同じようなことを言う。

「上手くいったな、じゃねえよ。急にあんなこと言ってどうしたんだよ?」

 リュートの口調につられて、ファトストも普段使いの言葉になる。

「どうにかして目立たないとな。俺ぐらいの強さだと、ホロイ家では簡単に埋もれてしまう」

「ホントかよ。さっき見たけど、かなり強くなってるぞ」

「それが、まだまだなんだよな」

 リュートは肩を竦める。「初めて訪れた時に俺も驚いた。ホロイ家には、強いやつがゴロゴロいる。エジートさんの強さを見ただろ?」

「確かにな」

 あまりの剣筋に、思わず見惚れてしまった。そして、他の二人もおそろしく強かった。

「特に剣は層が厚い。越えなければいけない壁が多い」

 リュートは素手のまま、剣の構えを取る

「ホロイ家には入れそうなのか?」

「それは大丈夫だと思うぞ」

「ホントか?」

「今回の塩はかなり高級なものだ。それに帯同を許されているんだから、大丈夫だろ」

 リュートはファトストに顔を近付ける。「実はエジート様は『風』ではなく、軍の関係者だ。ホロイ家の嫡男、レンゼスト様の品を運ぶために指揮を取っている」

「レンゼスト様? だからお前も必死なのか」

 ファトストは納得して笑う。

 レンゼストといえば王の近衛兵から立場を変え、最近になって隊を任されたと聞いている。ここで目立てば、レンゼストの耳にもリュートの名が届くかもしれない。

「どこの家も、入るには大変なんだな」

「お前には分からないだろうがな」

 リュートは皮肉混じりで笑う。

「あとは喧嘩して、追い出されないようにするだけか」

「ホロイ家は喧嘩ぐらいじゃ追い出されない。むしろその逆だ。それより聞いたか?」

 家の話になると、決まってリュートは話を変える。家に属していないファトストに対して、気を遣っているらしい。人から聞いた。

「リュゼーのことか? リチレーヌにいるらしいな。手紙で知ったよ」

「やっぱり本当だったか。リチレーヌから来た人がリュゼーのこと知っててよ。そんなこと言ってたからまさかとは思ったけど、やるなぁあいつ」

 リチレーヌといえば、エルメウス家だ。この度の外交を通じて交流を持ったのだろう。

「そのせいで、新年には戻ってこれないらしいぞ」

「あいつも大変だ」

 空を見ながら、リュートは答える。

 話題を変えてもこの歳の若者なら、どうしても家の話に繋がる。次の言葉を探しているリュートのことを、ファトストは昔を思い出しながら見渡す。

 リュートは会う度に体付きが良くなっている。あの動きだ、ホロイ家に入ると同時に軍部へ招かれるかもしれない。リュゼーと共に、夢に向かって成長しているのを感じる。

 ホロイ家の人たちが慌ただしく動き出す。リュートはそちらに目を向ける。

「時間らしいな」

 ファトストが声をかける。

「そうみたいだな。また今度、だな」

 リュートが答える。

「おう、また今度。新年にでも、三人で集まろう」

「リュゼーをリチレーヌから連れ戻す気か? どうやって?」

 リュートは笑い、西の空を見上げる。

「そうだったな」

 ファトストもリチレーヌのある西に向かって、その顔を上げる。

 その後すぐに、ホロイ家は塩を届けるために街を出た。

 綺麗な風服に身を包み、豪華な荷馬車をともにして旅をする。幼い頃から憧れ続けた仕事に、リュートは就いている。しかも、見習いを示す服ではなく、皆と同じ風服だ。

 ファトストの近くでは、母に手を引かれた子どもがキラキラとした目で手を振りながら、いつまでもそれを見送っている。

「あいつも頑張っているんだな」

 自然と言葉が出てくる。

「取り残された気がするのか?」

 ルコロフがその様子を見て話し掛けてくる。

「そんなんじゃないですけど、良い顔をしているなとは思います」

「君はいつも、何かを考えている顔をしているからな」

 ルコロフは笑う。「まあ、人は人だ。こうやって頼りにされているんだから、これが君の生きる道なんだろう。喜ばしいことじゃないか」

「そうですね」

 そう答えてからファトストは、遠ざかるホロイ家をただただ見送る。

「僕たちは僕たちの仕事をするだけさ」

「そうですね」

 ルコロフに続いて、ファトストはその場を後にする。




 それから諸々の手続きを済ませて、フォレスター家との打ち合わせに同席した。

 そこまでは良かった。予定通りだ。

 次の日になると街の様子が変わる。近くの集落が賊に襲われたらしい。急ぐ旅でもないため、不穏な空気に包まれた街でゆっくりと旅の支度をしていると、宿泊先に鎧を着た数人が訪れてキタシフが呼ばれる。皆はそれについていく。

 通されたのは街の庁舎となる屋敷の一室。そこには険しい顔をした男女が座っていた。後々聞いた話によると、周囲の有力者たちらしい。

「早速で申し訳ありませんが、昨夜、付近の集落が襲われたことはご存知ですか?」

 キタシフが席に着くなり、近くに座るフォニフが話しかける。

「詳細までは知りませんが、耳にしております」

「そうですか」

 フォニフは、鎧を身に付けた男に合図を送る。

「この街の警固をしております、ミツヤと申します」

 ミツヤはキタシフと挨拶を交わした後、張り詰めた空気のなか話し始める。

「お聞きしている通り、この街からほど近い農村が賊に襲われました。一つはここ、リュカンという集落」

 ミツヤが地図を指し示す。賊の拠点があった場所と街をつなぐ道沿いに、印が付けられている。

「それとこちら」

 賊の拠点があった場所から、さらに山奥に位置する村にも印がある。

「アンアーバもですか?」

 その場所を見て、キタシフが心配そうに村の名前を言う。キタシフがまとめ上げている村々のひとつだ。

「ええ」

 ミツヤは頷く。「どちらも腹いせでしょう。アンアーバは略奪よりも、家屋の破壊が主な被害となっているようです。家を焼かれた者も多数おります」

 キタシフは眉間に皺を寄せ、表情が一気に険しくなる。

「なんて酷いことを」

 ルシータが、手で口を覆いながら首を振る。

「被害を確認するために向かいますか?」

 ルコロフがキタシフに尋ねる。

「それには及びません」

 ミツヤが答える。「アンアーバはこの街から移り住んだ者が多数いる村。キタシフ様の住まわれるフォレボワとともに、人を向かわせております」

「ありがとうございます」

 キタシフが深々と頭を下げて、謝意を伝える。

「それをお伝えいただくために、私はこの場へ呼ばれたのですか?」

 それだけではないだろうと、キタシフはミツヤの顔を見る。

「お気遣いありがとうございます」

 席の中央に座る女性が、代わりに答える。

「リルリル様、それでは賊を討つおつもりですか?」

「ええ。このままでは民に不安が広がります。不幸中の幸いとして、キタシフ様がこの地におります。いかがですか?」

「こちらとしても、そのようにしたいのですが……」

 キタシフは言葉を濁す。

「ご心配は無用です。人はこちらで手配します」

「村々の規模からして、我々にはそれほどの賊を相手にするほど力を持っておりません。それゆえ、そうしていただけるなら協力は惜しません」

 話はまとまった。地域を超えた賊の討伐戦へと話が変わる。

「急報」

 一人の男が息を切らし、部屋に入ってくる。「使いの者たちが賊に襲われました」

「なんと!」

 キタシフの隣に座る、この街におけるフォレスター家の家長が声を上げる。

「これはちと、厄介ですな」

 別の有力者が声を漏らす。

 その言葉に、むう、との唸り声が漏れる。それぞれが腕を組み、考え事を始める。

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