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王国戦国物語  作者: 遠野時松
とある王国のエピソード
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世の流れ 5 下手な芝居

 ホロイ家の後続が追いついたことにより、薄い鎧を着た騎馬の数が増える。

 フォニフではなく、エジートが代表して今後の流れを皆に説明する。ホロイ家の面々はすぐに理解し、大切な品を安全な場所に移しながら賊の討伐の準備を整える。

「頼んだぞ」

 準備が整うと、エジートが騎馬に声を掛ける。

「お任せください」

 先頭の男が答えると、騎馬たちが道を駆けて行く。その姿を見送ってから、ファトストは荷馬車のひとつに手を掛ける。

「行きましょうか」

「本当に行くのか?」

 近くで、使用人に扮したエジートが尋ねる。

「もちろんです。どんな顔をしているのか、俺も興味があります」

 ファトストは笑顔で答える。

 今回の襲撃に賊の頭は加わっていなかったが、いつもなら先頭で指揮を取るらしい。賊の拠点ではなく、この先に頭がいることが濃厚になると、エジートはこちらに加わると言い出した。

「本当に、俺らについてくる気だったのか」

「お前が言い出したことだ。長は長らしく、自分の身は自分で守れよ」

 同じく使用人の格好をした二人が、エジートの後ろで呆れて笑う。

 エジートに隊の長を任せるには覇気から体付きまで素晴らしく、賊に警戒心を与えてしまう。返答に困っていると、エジートは綺麗な風服を脱ぎ出してボロの使用人服に着替えだした。後ろの二人はそれだけでは無い、髪と顔に土埃をまぶしている。

「囮になると言いました。口にしたことは守ります。それに安心してください、逃げるのは上手です」

「俺たちは賊に集中する。あとは好きにしろ」

 ファトストが手を置いた荷馬車の、御者に扮した男が体を向けて話しかける。

「気を付けてね」

 同じく馬車に乗った女性が笑い掛ける。

「ご心配なく。見た目は弱そうですが、中々、使える男ですよ」

「自分で言うなら、世話ないね」

 女性が笑うと、他の御者も笑う。

 元々の馬車の数は変えられないので、五名の御者が共にする。

「それでは行きましょうか?」

 エジートは丁寧に、ファトストに尋ねる。

「やめてください。体が痒くなります」

 その場にいる者、全てが笑う。

「それでは出るぞ」

 皆が笑顔のまま、馬車は動き出す。




「いるな」

 エジートが賊に気付かれないようにして、辺りを窺う。

「はい」

 その横にいるファトストは、前を見ながら答える。

 この近くに賊の拠点に通じる道がある。この辺りに潜んでいるのではとフォニフが話をしていたが、その読み通りに賊の気配がする。しかしまだ奴らが、お目当ての賊かは分からない。ただ単に他所から流れ着いた賊が、こちらの様子を窺っているだけかもしれない。

 危険はそれだけではない。賊でなくても邪な気を覚えされるほど、隊を率いるファトストの姿は弱々しく見える。

 それに伴って、エジートたちが扮する使用人たちも気弱そうに映る。よく見れば、体の線が細いのではなく鍛えられているのが分かるのだが、人の目というものは不思議である。

「あそこだなあ」

「はい」

 エジートが密かに教えてくれた場所の木が微かに揺れているのを、ファトストは空を見上げる振りをしながら目に留める。

 木々の中には別の気配がする。地元の人しか知らない道を通って、先に潜んでいたフォニフたちが動き出した。

「向かいましたね」

 着々と時間が進んでいく。

「そのようだな」 

「先ほどの賊で、間違いなさそうですね」

「お前も感じる方か?」

「はい」

「それなら当たりだな、間違いない」

 エジートはそう言いながら、辺りの地形を確認する。「あそこの空き地にでも停めるか」

「承知しました。お付き合い願います」

 ファトストはそう言ってからその場に立ち止まり、使用人たちに体を向ける。

「この先から危険な場所が続きます。ここで馬に休憩をさせましょう」

「かしこまりました」

 使用人に扮したエジートは、自ら馬の口を取って道の端へと寄せる。

「近くに良い草が生えているようです。しばらくここで休みますから、馬車から外して食べさせてやればどうですか?」

「そこまではしなくてもよさそうですが」

「まあまあ。馬の気持ちになって」

「いや、しかし……」

 使用人たちは顔を見合わせる。

「ここまで穏やかなら大丈夫でしょう。今まですれ違った人からも、異常を感じませんでした。騎馬は後ほどついてきます。焦る必要はありませんよ」

「そこまでおっしゃるのなら、そういたします」

 ファトストが勧めるまま、不承不承ながら使用人たちは馬を荷馬車から外して水や草を与える。

 日はたかくのぼり、吹く風も気持ちいい。本当に気の抜けた雰囲気が辺りに漂うが、一瞬にして使用人たちの空気が変わる。皆が休憩を始めるのを待っていたように、道の奥から賊が姿を現す。数としては二十程度。かなりの数だ。塩の魔力は恐ろしい。

 頭らしき奴はいないが、全ての賊が手に武器を持っている。剣などの刃物も多い。最近の賊は金を持っているそうで、鎧なんかを身に付けるやつも多くなってきている。聞かされた賊の規模的に、他に人を隠していることは十分に考えられる。

 迎え撃つこちらの数は、荷馬車に乗っていた五名と使用人に扮した三名。それからおまけがひとり付いている。空荷のはずなのに、荷馬車の中から人は誰も出でこない。近くにフォニフたちが潜んでいるが、この場はこの人数で凌ぐ。

「賊といえど、良い体付きをしているではないか」

「だからこそ、頻繁に食い物を盗むのでしょう」

 誰かが口にする。

 その口調から緊張は感じられない。だからといって気も抜いていない。隠すことのない、武の雰囲気が溢れ出している。

 賊たちは、ニヤニヤしながらこちらに歩いてくる。使用人に扮した三人が、行手を遮るように移動する。

 エジートは、『隊の大きさで仕方なくこの人数にしたが、本来ならこの三人で大丈夫だ』と言っていた。何が大丈夫なのか分からないが、三人は腰に携えた剣ではなく、使い込まれた木剣を握る。賊が相手ならこれで十分らしい。

 この人たちは、頭がとち狂っている。フォニフ率いるフォレスター家は手に剣を持ち、薄い鎧を着ているのに対し、『使用人は鎧を付けないだろう』と、誰一人として着ていない。そこまで気にするなら、俺の下手な芝居も気になっているはずだ。

 これらは、風での流儀だというが、死んでしまったら元も子もない。この人たちにとっては遊びの一種でも、俺にとっては生き死にの問題だ。

 こうなったら自分の身はしっかり守る。

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