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王国戦国物語  作者: 遠野時松
とある王国のエピソード
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武の道

 俺はリュゼーから遅れること数年、歳が十五になる前に村を出た。

 これについてあいつに負けたとは思っていない。負け惜しみじゃないが、あいつが早かったのはエルメウス家だったというのがある。

 人脈が金を産む。この言葉通りに家で面倒をみることが決まると、直ぐにあいつはコヌセールへと旅立った。

 国の商業を発展させ護衛業を作り出し、職業訓練の意味合いが強い『土』の教育方法を築き上げたエルメウス家の誘いだ。喜ばしい以外の言葉はない。

 それにエルメウス家には心から感謝している。わざわざ俺の世話もしてくれた。

 クポワーソ地方にある、アンカレ港を拠点にするホロイ家に紹介文を書いてくれたのだ。

 本家の嫡男であるレンゼスト様は王国軍に召し抱えられたらしく、最近良く話題に上がる家でもある。


 リュートは、ヒュッ、ヒュッっと風を切り裂く音に合わせるように木剣を振る。


 あの後、直ぐにホロイ家から使者が来て、その日のうちに親への手紙を村長が書いた。

 ただし、十六歳に成る年にもう一度来るというものだった。

 ホロイ家が俺に対して望むのは、俺が手に入れたいと望むものと同じだ。その武が足りないと言われてしまった。

 使者との稽古で根本的な力という部分が足りないことを思い知らされた。それからさらに体を鍛えた。

 集落に訪れた兵や武人に声をかけて、一番得意な型を教えてもらい、それを忘れないために訓練し、動かぬ相手に棒を打ちつけた。

 苦手なシップの乳を嫌いになるほど飲んだ。

 道場にも通い始め、俺の事を尋ねられたと書かれた文がホロイ家に何通か届くと、再び同じ使者が俺の集落を訪れた。


 リュートは近くで聞こえる音に少しでも近づくため、木剣の振り方を少しずつ変える。


 日が落ちてから村長の家で開かれた晩餐会に招かれた。使者はその場で、ホロイ家の紋で封をされた手紙を村長に手渡した。

 正直、安心した。

 紹介はあくまで紹介だ。自分に才がなければ呼ばれることはない。名門ホロイ家を選んでくれた、エルソン様の期待に応えられた気がした。


 リュートは一振りずつ剣先の出どこを変えてみたり、力の入れ具合を変える。

 これだと思い、同じように振ったはずなのに同じ音が出せない。近付いたと思えば遠のくの繰り返しである。


 同じくアンカレ港を拠点に置くアスキ家の稼業である、海運の護衛業を請け負うためにできたのがホロイ家だ。

 クポワーソ地方は腕のいい船乗りが育つ。

 北西にある湾で育まれた山の栄養が豊富に含まれた海水は、半島を掠めるように流れる暖流まで運ばれる。暖流の一部は支流となり、東海岸の沖合いを駆け上がる。

 数多くの良好な漁場に囲まれているため、漁師の身内は赤丸に翼のように尾ビレが大きく描かれている『鯱』の紋に憧れる。アスキ家の『鯨』の紋と同様に、赤丸に使われている糸は東方の貝から取れる色素を顔料としている。

 優れた操船技術があればアスキ家の扱う荷船や軍船の操船が認められるし、村に海を一度も見たことがない年寄りが居るほどの内陸出身の者が海軍に召し抱えられることもある。

 レンゼスト様の件もあるため、陸と海、両方の軍部と深い繋がりがある。


 リュートは隣で木剣を振るブレイトを横目にし、同じように木剣を振る。


 同じような音が出せるようになったが、音の切れが違う。

 ホロイ家は大剣の他に、細く反りの入った長剣を使う。叩き潰すや断ち切るよりも、切り裂くことを目的とした剣だ。足場が落ち着かない海上では、大剣よりも長剣の方が役に立つ。

 それに、海賊のほとんどは重い鉄の鎧を着ない。鉄は前当てなど重要な箇所に使用する程度に過ぎず、鎧を着ていたとしてもそのほとんどが革鎧だ。

 あの音を出すことができれば、難なく賊を切り伏せられる。

 リュートはブレイトの剣捌きに目を凝らす。

 背や腕の長さ体付きが違う中で、同じように振ったところで同じ音など出やしない。良きところを真似し、鍛錬を続け、自分の型に取り込まなければならない。

 これは数々の武芸者から教わった俺が導き出した強くなる秘訣だ。

 一人で木剣を振っていたあの時とは全然違う。目の前に目標があるというのはすごくありがたい。

 ブレイト殿は成人になると同時に軍部に召し抱えてもらえることになったが、あの武なら納得ができる。毎回、力の差を思い知らされるほどコテンパンにやられている。

 力の面では劣っているとは思えない。同じ年頃になれば俺の方が力強くなっている自信がある。しかし、力だけでは勝てない力の差というものがある。

「そろそろ打ち合いを始めようか」

「はい、お願いします」

 このような稽古を通して、軍部に召し抱えられるために待ち合わせていなければならない武を、肌で感じられる環境というのも恵まれていると思う。

 リュートは重さと形を長剣に模した木剣を手に取り、精神を集中するためにしばらく眺める。

 力より技を必要とする長剣。それを扱うホロイ家。

 これら全てが偶然ではないとすると。


 リュートは深く息を吸う。


 エルメウス家に感謝申し上げる。

「せい」

 腹の下に力のこもった良い声を出しながら、リュートは剣を構える。

 安心しろ、俺は強くなっているぞ。

 リュートは雑念を振り払うように木剣を打ちつけた。

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