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王国戦国物語  作者: 遠野時松
とある王国の物語
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プロローグ 上

 戦況は上々。

 王国側が圧倒的に押している。素人目にみてもこちらの勝ちは揺るぎないだろう。

「何を考えておる?」

 この状況で何を心配するというのだ?と、声をかけたレンゼストの顔が物語っている。「つくづく軍師様というのは難儀なお人だ」

 レンゼストはそのまま歩を進め、丘地に構えた予備兵の前で腕を組んでいるファトストの横に立つ。

「少々気になる事がありまして」

 ファトストは再び戦場に目を向ける。

「我が王のことか?」

 顎髭を撫でたレンゼストがファトストの視線の先でとらえたのは、自ら先陣で指揮をとっている王の姿である。「今日も元気でいらっしゃる。後ろ姿はクリスト様にそっくりじゃ」

「腕の角度といい、先代を知っている者とすれば懐かしい限りです。歳を重ねる毎に似てきておられる」

 若き王は自ら先陣に立ち、馬上にて押され始めた西側で戦う兵達の士気を上げている。

 剣を振り兜を手で支えながら味方を鼓舞している声は、二人の所まで聞こえてきそうである。

「お声の方はどうですか?」

 ファトストからのよもやま話ともとれる問いかけに、レンゼストは戦況や王に危険が迫っているわけではない事を感じ取り雰囲気が和らぐ。

「戦場でよく通るよき声じゃ」

 レンゼストはゆっくりと髭を撫でる。「あの若君がのお。老兵には嬉しい限りじゃ」

「いつもと違うこの距離では、いささか物足りないのではありませんか?」

「いやいや、この姿を見るのもいいものよ。それに、盤上戦がごとく我が君の戦い方を理解しやすいのもいい」

「何をおっしゃいます。以心伝心、戦の度に王の剣となり戦場を駆け巡っておいでではありませんか」

「なにを、そんな事はない。先代に似ているとは言うても、戦の仕方は似て非なるもの。認識のずれが命取りになる事もある。外から見る事も大切じゃろうて」

 人並外れた体躯に卓越した戦略眼で若き頃より猛将として名高いレンゼストは、頭に白いものが混じってきたとはいっても王国随一の将であると誰もが認める。

「しかし、最近王は我を年寄り扱いしてくる。今回も「経験の浅い部隊を主に連れていく」と、我が部隊を連れていってくれぬ」

 歴戦の将らしからぬ拗ねた一言に、レンゼストの人となりが表れる。

 先代の王に惚れ込み、その身を捧げた男は、幼き頃より仕えている今上の王に対しても同じ感情を抱いている。王の事となると好々爺から町娘のようになってしまうのは、レンゼストの笑い種の一つとなっている。

「この先に敵の砦があり、帝国兵はそこに詰めております。敵対する兵の殆どが雇われた土地の者のため、この戦は、砦戦のための消耗戦という意味合いが強うございます。敵兵もそれが分かっているため、士気もそれほど高くありません。そのため、本陣さえ叩いてしまえばお終いの戦です」

 その場にレンゼストも居合わせたので承知しているはずだが、ファトストは王に進言した戦の概要を再び口にした後に言葉を続ける。

「新規の兵はこの地にゆかりがない者も多く、レンゼスト隊のように戦い辛いという事もありません。そして、野戦経験の少ない者にとっては経験を積むのにも適した戦。第一に貴方の名はこの地にも根付いています。貴方にやられたならば本望という者より、貴方と共に戦いたいと思う者の方が多いでしょう。きっと王の優しさです」

 頭を下げたファトストに向かって、レンゼストは笑いかける。

「お主が探していることを王が聞くと顔を歪めるというが、それが分かるというものよ。軍師様は王だけでなく、我にも理を説いてくる」

「失礼致しました。他意はなく」

「よいよい、分かっておる」

 レンゼストが戦場に顔を向けると、ファトストも連れてそちらに体を向ける。

「王の事が気になると申していたな。それならば我らはいつでも動けるぞ」

「お気遣いなく。兜を脱いだままでご覧に頂けます」

 西側にはすでに遊軍であるリーゼン隊が到着し、十分な兵が確保されている。

「そろそろお声が聞きたくなった頃合いですか?」

 ファトストは尋ねる。

「何を言っておる」レンゼストは笑う。「この状況から考えるにここから戦況がひっくり返るとは思わんが、万に一つがあってはならぬからな。先程のお主の顔が気になり、話を聞きに来たまでよ」

「申されますように、このまま押し切れば終わりとなりましょう。西側が抜かれて回り込まれるとこちら側が不利になってしまいますが、それを王もご存知のため、あのようにしていらっしゃる」

 遊軍の到着により余剰戦力となったリュゼー隊は、位置をさらに西側にずらす。その位置からならば隙間をついて敵が抜けたとしても横から擦り潰す事も容易く、押し返したとなれば挟撃もしやすくなる。

 敵側からすると、戦況を覆そうと戦力を厚くした西側が崩壊してしまうと本陣が危うくなる。その対応に追われるなかで、攻撃を強められたら防ぐのは至難の技である。特に東側は地元兵が多く、劣勢となった場合に敗走となる可能性が高い。

 その東側では、ファトストが放った伝令が戦場を駆ける。

 西側が押され始めた時に押さず引かずの命を受けていたリュートは戦線を上手く膠着させ、両軍の被害を最小限に抑えるとともに、相手の指揮官を狙った楔を打ち込む準備をすでに整えている。そのリュート隊にとっては待ちに待った伝令である。

 戦はもはや時間の問題となった。

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