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8 end

 

 本人の言い分は幼稚な物であった。


 本人曰く、ネット上で金がないと呟いていたそうだ。

 それ自体俺にとっては訳がわからないが……何でネットで呟く必要があるんだ?


 まぁ。それはさておき、それに目をつけた黒幕がDMで映画撮影のバイトと銘打ち、木田悠馬に近づいてきた。


 最初に送られて来たメールは『初めてまして 突然の連絡失礼します、私は貴方の呟きを見てDMを送りました、お金がないという事でしたら良いバイトを紹介出来ます。映画のスタントマン役です、報酬は前払い30万 撮影終了後30万追加で支払います もしこの話をお受けする気があるのであれ返信してください。その時詳細は話します』


 少し日本語がおかしいような書き方だが木田本人は30万言う額面に気を取られ、日本語の違和感は無視したそうだ。

 取調室で松本の聴取を受けていた木田悠馬はDMであるアプリをインストールして、金と出演についてのメールが送られてきたとそう供述をしたが……


「信じてくれ!」


 自らの手で親を殺したとはまだ信じきれてない、木田はテーブルに拳を叩きつけた。その反動で、調書用に置かれたポールペンが床に落下した。俺はそのまま木田の目を見続けると木下がペンを取る。


「にらめっこでもしてるんですか?」

「お前からも調書になるぞ」


 俺は筆記している捜査員を指差しながら言うとその捜査員ははいと言いたげに首を縦に振る。


「なぁ、実際問題その携帯のメールの履歴が残ってねぇんだよ、」



 木田は先ほどからこの事で激昂している。


 鑑識曰く、秘匿性の高い通信アプリ『hide』が使われたとのこと。

 このアプリは投稿が1時間で完全削除され、復元不可能になる品物である。ついでに言うと、メールのスクリーンショットを撮ろうとすると画面が一面黒くなり、写真にも残せないようにされている。

 このアプリを開発したのは指定テロ団体 アップズと言われ、何らかの理由で外部に漏れ、色々な犯罪に使用されている。


 木田はこの殺人をマジで映画の撮影か何かだと思っていたようだ。


 木田が殺した人物は高性能な人形

 アスファルトに流れ出たのはその人形のオイル

 周りを歩く人たちは全てエキストラ

 建物の撮影許可も取ってある。


 DMにはそう書いてあったそうだ。

 ついでに言うと実在する某有名監督監督の名前を出してきてことにより木田はそのDMを信じたようだ。


 そんな大層な監督がネット上でDM送って、出演依頼なんてしてくるか? と思うが。それを信じたらしい。


「なぁ、映画のエキストラの出演料なんて日当1万程度だぞ、主演級なら20万って言う数字はありえるかもしれないがエキストラに50万近く払うと思うか?」

「それが相場だってその監督は言ってたんだよ……」


 そのDMを本当に信じていた様子で呟いた。


「それともう一つ、契約書って貰ってるのか?」

「契約書?」

「その様子だともらってないんだな、本当の映画会社ならエキストラ一人一人に契約書渡すぞ」


 木田の反応はあまりよろしくなかった。

 だろうと思った。契約書もない、木田に送られたDMも消されてる。

 つまり、木田が言っている黒幕は姿形するなく、そもそもこの証言自体嘘って可能性も視野に入れないといけないが、ここまでの反応を見るとその線はない。

 だが黒幕が全く見えない。


 今現在の証拠で捕まえられるのは木田悠馬1人だけ

 たとえ黒幕が居てもそいつを捕まえることはできない。


「DMには『hide』ってアプリインストールするようにって書いてあったんだろ」

「はい」


 DMが残されてない今、信用されてないと感じた木田の言葉は弱い。今にでも消え去りそうなものである。


「それで、その通りインストールした」


 その問いかけに木田は力無く頷いた。


「そのアプリどんなアプリか知ってるか?」

「知りません」

「完全秘匿通信アプリだ。投稿は約1時間で完全削除され、警察の力を持ってしても今現在復元不可能ってアプリだ。

 投稿者の身元もわからない、閲覧した事も双方わからない

 そのアプリは指定テロ団体アップズが制作したもので、何らかの理由で世の中にばら撒かれた、今では少し頭が回る犯罪グループならほとんどが使用している、そう言うアプリだ。」


 俺の言葉に木田は内容を理解したのかわからない頷きを見せた。


「手っ取り早く言うぞ、何度も言ってるがお前が殺したのはエキストラの偽物人形じゃない、本物の人だ、それも木田健人、お前の父親だ。」


 まだ。自分が父親を殺したと思えないのか。木田は俯いたまま反応を見せない。


「じゃあ少し、この事件経緯をまとめるか、


 お前が、ネット上で金がないと呟いた、そうしたら誰なのかわからないが、謎の人物、黒幕と呼ぼう、そいつからDMが届いた。」


 松本は木田の様子を見るために少し間を開けるがやはり俯いたまま微動だにしない。


「その内容として映画のスタントン役として、映画に出演してくれと言うものであった。


 前金として30万、それは貰ったんだよな」


「もらいました……」

「どこで?」

「うちのポストにコインロッカーの鍵が置かれてて、そこに紙があって『大江駅のロッカーの鍵だ』って書かれてて、人を殺した後にそのコインロッカーの鍵を開けたらちゃんと30万が置かれてました」


 ボソボソと供述をしている木田は今にでも精神がおかしくなりそうな雰囲気があった。松本はその供述を聞いて、マジックミラーに頷いた。

 そうすると足音は聞こえないが、見てみた捜査員が動き出した。大江駅の防犯カメラの映像を見に行くのだろう。


「後払いの30万は?」

「貰ってません」

「もらう約束と貰う場所話してた?」

「終わった後にメールで送ると書かれてて、その後本当に明日西大江駅で渡すとメールが来て」


「つまり、俺たちがお前の家に家宅捜索に行った日だな」

「ええ、そのメールには捕まるシーンも撮影すると書かれてました」

「俺たちが行った日か?」


 木田は頷く。

 つまり、俺たちが木田の家に行くってことがわかってたって事か、どこから漏れた? 零士か? 木下か? どっちもそんな風には見えない、それは零士の部下達も同じだ。

 別にあれか、その日俺たちが行かなくても、何らかの都合で撮影延期って言えばいいだけか。


「そのは実際俺たちが来て、お前はそれを映画の撮影だと思い、演技していた」

「はい、そうです」

「映画の撮影か」


 松本は何かを考えながら同じことを二度呟く。


「あぁそうださっき、優里さんが来た」


 木田は優里という名前に初めて顔を上げた。


「かぁさんが?」

「そうだ。」

「な、何か言ってましたか」

「お前の罪をできるだけ軽くしてくれって言われたよ、それだけだ」

「そう、ですか……」


 まだ自分が誰を殺したのか信じられないのか木田の目は困惑の色で染まる。


「それと、木田健人の葬式の日程が決まったそうだ、来週の土曜日曜でやるそうだ、弁護士付けて保釈請求はできるそうすれば葬式には間に合うだろう。」


「俺が行っていいんですか?」

「知らん。そんな事自分で考えろ」


 松本の突き放すような一言に、木田は涙を堪える様な声が漏れる。


「まだ、泣けるじゃないか。本当の人殺しってやつは涙すら流さない、殺されて当然。殺して清々したって逆にふんぞり返る奴もいる、それに比べたらまだお前はマシだよ、幸いなことに殺したのは自分の親だ。他人じゃない。これがもし他人だったら俺たちは全力でお前を罪に問おうとしただろうな、だがお前が殺したのは自分の親だ、たとえお前を捕まえて有期刑か無期か知らんが、牢屋にぶち込んだところで誰も喜ばない、誰の救済にもならない、ついでに言うと、優里さんから減刑を求められた、断る理由もない。だが一つ。お前は一生親殺しの罪を背負って生きることにはなる。優里さんの減刑の話があっても実刑は免れない。それが人を殺した、重さって奴だ。」


 松本は最後にそう言うと、ゆっくりと席を立ち上がり、取調室を後にした。その背中には木田の泣き声がのしかかった。



 外に出てきた松本は木下と合流し、捜査一課の本部に戻って

 きた。


「黒幕って見つかるんですか?」

「無理だろうな、あのアプリを使わらたら、今の警察じゃ、もう二度と犯人には辿り着けない。」

「そう、ですか」

「だが俺たちは追うしかない。人2人の人生を滅茶苦茶にした黒幕を必ず牢屋にぶち込む。」


 グイッといつもは飲まないブラックコーヒーを一飲みで飲み込み、松本は歩き出しその背中を木下は何も言わずについて行った。


「別にお前はついてこなくてもいいぞ」

「見て見ぬ振りはできません。俺もついて行きます」

「せっかくなら可愛い女の子に言われたかった」

「先輩!」

「冗談だよ」


これはフィクションです。実在の捜査手法とは異なる点がありますがご了承ください。


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