表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/23

0.5 貧民窟

夜空を背に疾駆ける男女の二人組…


女は短躯で、腰まで伸びた銀髪は月明かりを透かし波打つように風を切っている。


男は長身痩躯で翠緑の三角帽を被っていた。目深にかぶった帽子からは銀縁のメガネが覗いている。


二人は民家の屋根上を音もなく駆けながら器用にも口論を始める。


口火を切ったのは男の方だった。


「上手くいったとはいえBB騎士団から蜜鍵を盗むなんて二度とごめんだからな!」


「はぁ!?相棒としてやっていくって話しだったでしょ!?最後まで付き合って!役目でしょ!?」


「王宮からものを盗むなんてイカレてるぜ、この瘋癲ふうてん女がよ!」


「あっそ、じゃ契約は終わりね。 欲しいものも手に入ったし…じゃあね」


「ん?…欲しいもの、忘れてるけど…」男は懐から真紅の宝石を取り出しながら呟いた。


――――――――――――――――――


一方、ディーンは仕事を転々としていた。


「おい、ディーン!テメェ何度言ったらわかるんだ!!!」


「す、すすすいません!」


「あのぉ、悪いんだけど今日でもう…」


「はィ、わかりました…」


「さっき説明したばかりでしょ!聞いてなかったの!?」


「ごめんなさい」


フゥ、今日もダメだった。


僕は手の甲に押された烙印をさすりながらあの日、捨てられた橋の下へと向かう。


橋の下は孤児や浮浪者、放浪者といった所謂《《はぐれ者》》達で構成された貧民窟であった。


ディーンがうつむきがちに歩いていると後ろから子供の声が聞こえる。


「お仕事どうだった?」


目をキラキラさせて聞いてきたのは小さな女の子だった。


歳の頃は六〜七になるだろうか。


少女の名前はアンナと言い、ここで仲良くなった子供だ。


「いやぁ…ダメだったよ」


引きつった笑みを浮かべてディーンは答えた。


「ダメでも次探せばいいじゃん!」


横から男の子の声がする。


歳はアンナと同じぐらいで名前をライと言う。


二人はディーンが楽器を弾いているのを聞いたことをきっかけに仲良くなった。


「暗い話はこれぐらいにしてさ、聞かせてよまたあの曲!」


ライの明るい物言いにアンナも賛同する。


「そうだよ!聞かせて!聞かせて!」


少し泣きそうになりながらディーンは嬉しそうに「うん」と短く答えた。


ディーンは故郷の好きな曲を演奏した。


演奏している自分を羨望の眼差しで見る子供たちを見ていると、少しだけ気持ちが前向きになったような気がしてくる。


明日も頑張ろう。と密かに心に誓った。


演奏が終わるとパチパチと拍手が聞こえた。


しかし、その拍手が二人でなく三人からなるものであることに気づく。


「上手だね、演奏。」


翠緑の三角帽を被った男がディーンの横からそう言った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ