土曜日の出社
フリー編
入場初日に突然言い渡された土曜日の出社。
2日目というのに、JCLの引き継ぎと、その結合試験と、なかなかやることも多い。
とりあえず、知らないことが多過ぎるから、一通り目を通したいな、という願いは叶えられるのだろうか?
不安な土曜日のスタートだった。
【土曜日の出社】
土曜日に出社すると、もちろん人は少ない。
ただ、町田さんが既に出社していた。
町田:「佐藤さん。よかったよかった。昨日からだね。とりあえず、今はそっちのシステムだけど、ひと段落したら僕のチームだから。」
と右手を差し出してきた。
私:『はい!よろしくお願いします。』
「ん?僕のチームってなんだろう?」と思ったが、大川さんが来たら聞いてみよう、ということで、笑顔で握手をして席に戻った。
しばらくすると、前任のJCL担当の方がきて、課金システムの設計書を見ながら処理を説明してくれるとのことだった。JCLリーダーの小森さんも一緒に引き継ぎを受ける。JCLの中身までは見ることができなかったが、全体的な流れは確認できて、JOBとしては揃っているようだった。
私:『じゃぁ、これらのJCLを一つ一つ見直して、処理が実行できるように修正すれば良さそうですね?」
と、投げかけたら
「うん、そうだね。これでも課金システムはJCLは進んでたほうだから。」
と元気のない返事だけ残して帰っていった。
数はそれなりにあるから、修正も大変そうだなぁと思いながら、自分の仕事に戻ることにした。
【おかしなJCL】
小森さんは自分のプログラムの修正があるらしいので、私が引き継いだJCLを、設計書と見比べ眺めていると。『???』すぐにおかしな部分に気づいた。
他のサブシステムのJCLも見比べたがほぼほぼ同じである。
私:『リーダー。これって、JCL動いてるんでしたっけ?』
リーダー:「うん。動いているはずだよ。」
私:『でもこれって、後続のJOBってどうやって動いてるんですか?』
リーダー:「?いや。動いてると思うんだけど。おかしい?」
私:「あ、はい。多分なんですけど。。。」
元となるJCLを作った人はいないので、ミスなのか作り途中なのか?それとも単によくわかっていないのか?いずれにしても答えは分からない。
しかし、知っている人はこんな書き方はしないはずだ。私が知らないテクニックがあるのか?と思うくらい、全てのJCLが同じように終了している。
私:『あの。JCLなんですけど、ほとんどのJOBで、最後のファイルがテンポラリーファイルになっていて・・・』
リーダー:「?」
私:『あれ?なんかテンポラリーファイルでも次のJOBにファイル渡せる方法って、何かあるんでしたっけ?』
リーダー:「いや、よく分からないなぁ。今まであったやつを見て、真似てやっただけだから。おかしかったら直してちょ。」
「ちょ」ってなんだ?と思ったが・・・
もしかして、全てこんな感じにJCLが作られているのか?
テンポラリーファイルとは、そのJOBの中だけでしか存在できないメモリ上のフィアルのことだ。
JOBが終了してしまえば消えてしまうし、次のJOBでそのファイルを使用しようとしても使うことができない。
Excelファイルを保存しないで閉じているようなものだ。
つまり、後続のジョブは入力ファイルが存在しない状態で、プログラムが実行されるようにJCLが書かれているということなのだ。
「こんなの、動くわけないじゃん。」と心の中で呟き、修正ポイントとして記録した。
【マニュアルは?どこにいる?】
他にもパッと見て、ファイルのレコードサイズ、ブロックサイズが合わなかったり、ライブラリが足りてなかったり、ソートプログラムのキーの指定がおかしかったり、JCLを眺めているだけでおかしいと分かる部分をいくつも確認することができた。
『とりあえず、これらを直せば動くようになるのかも。』と思いながら、いくつかJCLを直しながら、実行してみることにした。ただ、実行してもすぐにABENDする。
正直、入った二日目に、開発環境も把握できていない状況で、こんなにJCLを直すことになるとは思わなかった。
一方で久しぶりに仕事にちゃんと取り組み、仕事をもらえて良かったという思いと、この先続くだろうプロジェクトの行き先が見えない状況に重い気持も重なり、複雑な心境でJCLを修正することになった。
私:『リーダー、マニュアルってどこにあります?エラーコード調べたいのですが。』
リーダー:「え?マニュアル?見たことないな。Tシステムの誰かに聞いてみてくれる?僕はいま自分のサブシステムのプログラムやらなきゃいけなくて。」
リーダー・・・。
JCLチームのリーダーなのに・・・。
でもまぁ、マニュアルを見たことないって、エラーコードも見てないな。きっと、
インターネットで調べることができないこの時代、JCLのエラーコードなんてメーカーのマニュアルを見るしか意味は分からない。つまり、マニュアルの場所を知らないってことは、JCLがABENDしても誰もエラーの理由を調べず、とりあえず直したつもりになって、また実行してABENDする。を繰り返してるだけと推測できた。
ヤバイな。これ。
と、知れば知るほど、不安が積もり積もっていくのであった。
【プロジェクトの秘密?】
Tシステムの薩田さんに、マニュアルがどこにあるか聞いたのだが、要領を得ない。他の人にも確認して欲しい旨をつたえると、やっとひとり、お客様の部屋の脇にそれらしき、H社の汎用機関連の資料が大量にあるというこを知っている人がいた。
今日は土曜日だからお客様は出社していない。薩田さんにFシステムのプロマネである山崎さんに確認してもらうことにした。
土曜日でもあるが、ほとんどの人が出社している。
課金サブシステムの大川さんに朝の町田さんの僕のチーム発言について聞いてみた。
大川:「あ、町田さんね。もともとFシステムの偉い人で、Tシステムの社長の黒田さんの上司らしいだよね。だから、開発のとりまとめは黒田さんなんだけど、主導権を握りたいのかなんなのか、町田チームってチームを作って、自分の別のプロジェクトにかり出したりするんだよね。」
私:『え?町田さんって別のプロジェクト持ってるの?』
大川:「もちろん、こっちのシステムもみてるけどね。この次のプロジェクトらしいよ。だから調査とかが中心なんだけど。」
なるほど。
町田さんはこっちのプロジェクトの中心というよりも、他にもいろいろやってるんだな。でも、こんなに工程遅れているのに、次のプロジェクトの手伝いなんて、できるのかな?と素直な感想をいだいた。
大川:「ところで。課金システムのJCLって大丈夫なの?今日動かすって言ってるけど。やばいでしょ?実は。」
私:『え?よく分かってるじゃないですか(笑)大川さんもなんとなく知ってたでしょ?』
大川:「いやー。どうだろうね?(笑)」
【進捗の確認に来る人】
大川さんにとぼけられてしまったが、皆、なんとなく、というよりも、JCLが動かないのは分かっていたに違いない。でも、H社の汎用機のことを知ってる人、直せる人がいなかったのだろう。仕方ない。。。
私:『とりあえず、うちの分だけ、課金システムのところだけでも動かしたいですけどね。JCLはマニュアルがくれば、直せると思いますよ。』
大川:「そう。それはよかった。なんか、Fシステムの事業部長と部長、そして、その親会社のF社の営業部長が来るらしいよ。工程の確認っていってたから、きっと、どこまでジョブが進むか確認したいんじゃないかな?』
私:『いやー。それはなかなかハードな状況ですね。大川さん逃げないでくださいよ。』
と、大川さんの話だと、今夜、プロマネの山崎さんよりも偉い人たちが確認しにくるらしい。もう夕方に近い。いまから修正して、一体、いつから試験できるのだろうか。
修正は時間があればできるけど、JCLを直したところで、実際にプログラムを通して動かせてない状況で、結合試験が最後までできるのだろうか?課金サブシステムだけって言ってもそれなりにあるぞ。
焦りしかない状況で、薩田さんがやっとマニュアルを持ってきてくれた。
私:『あ、ありがとう。』
薩田:「どういたしまして。」
私:『あ!?』 薩田:「え?」
私:『これ、エラーコード乗ってないやつだね。分かりづらいから一緒に探しに行こう。』
薩田さん、この忙しいときに、一体。。。
ちょっと、抜けてる感じのある薩田さん。でもフットワークは軽く、頼むとすぐに動いてくれる。プログラムは未経験らしいけど、その分を出来ることで補おうと明るく対応してくるのは、忙しいときにはありがたい。
そして、試験の開始時間が徐々に迫ってくるのであった。
つづく
※この物語は経験をベースにしたセミフィクションです。
最後までお読みいただきありがとうございました!
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