面接? その1
前職の先輩の奥様に紹介してくれた営業の方に言われるままに来た青山。
そこにいたのは、お洒落カフェに似合わぬハゲおやじ2人。
初めての個人事業主ということで、不安だらけのまま面接に挑んだ私だった。
上田さんがニヤニヤしてる横で、飯田専務が口をひらいた。
飯田専務:「スキルシートみたけど、H社の汎用機やってるんだって?ちょうどね、H社の汎用機をやってた人を探してる案件あるから。大丈夫。」
私:『あ、ありがとうございます。』
その怪しさに押され、お礼をいうことしかできない。
飯田専務:「JCLはできるんだっけ?」
私:『は、はい。JCLは得意な方です』
飯田専務:「おお!完璧完璧!もうバッチリだよ」
私:『ありがとうございます。本当はWEB系のシステムをやりたいのですが、なかなか経験がなくて、まずは汎用機の仕事からはじめて、その先でWEB系のシステムの開発ができればと希望しています。』
飯田専務:「あー、大丈夫、大丈夫!とりあず、ここやって、しばらくしたらウチのプロジェクトやればいいよ。たくさんあるから。WEB系の開発」
飯田専務:「な?」
とUさんのほうにニヤつきながら投げかける。
上田さん:「はい」
もちろん、上田さんもニヤついて答える。
飯田専務:「じゃぁ、そろそろ時間だから。移動しよう。」
私:「え?移動」
と、10分足らずの面接?で、上田さんを置いて飯田専務と移動することになった。
『どこに連れて行かれるんだろう』と内心不安で一杯だったが、とりあえず、個人事業主として仕事をいただけるならば・・・と期待もしつつ、そのときの私は付いていくしかなかった。
【完璧完璧!】
飯田専務:「下北沢に行くから。切符を買ってね」
下北沢に行くらしい。でも何しに行くんだろう?
飯田専務:「今回の案件の責任者が待ってるから。大丈夫。H社の汎用機やってたら全然問題ないよ。バッチリ、完璧完璧!」
私:『あ・・・、はい。』
何が完璧なのか分からなかったが、この怪しいハゲおやじに今の私の仕事の行方は握られているらしい。とはいえ、何も知らず、このままプロジェクトの責任者に会うのものな。。。
私:『すみません。今回のプロジェクトってどんな内容なんでしょうか?』
I専務:「あれ?言ってなかったっけ?H社の汎用機のプロジェクトなんだよ。で、試験工程に入ってJCLを作れるやついないからっていうんで、探してたんだよね。」
私:『はい』
これは必要なスキルの問題であって、プロジェクトの内容ではない。と思いつつ
私:『あ、あの。プロジェクトは何人くらいで、どのような業務なんでしょうか?』
飯田専務:「え?あ、それはね今から会う人に聞いたほうがね。詳しいから。大丈夫大丈夫。」
と、ニヤけたまま返された。
内容を知らないのか、答えたくないのか、あいまいな答えでかわされたような気がした。
【面接? その2】
飯田専務:「あ、あそこの喫茶店だよ。」
下北沢で電車を降り、5分ほど歩いたところの喫茶店に入っていく。
「また、喫茶店なんだ」と思いながら、学生時代に何度も遊びに来た、懐かしい街並みの中を通り過ぎ、喫茶店に入って行った。
飯田専務:「お、きたきた」
喫茶店の中に、不健康そうな色黒のおじさんが入ってきた。
飯田専務:「お、どうもどうも。町田さん。」
町田さん:「うんうん。」
どうやら、町田さんというらしい。
ニヤッと笑うその口元。前歯がない。
町田さんと飯田専務のやりとりを聞いていると、ここからさらに5分くらい先のところにプロジェクトの作業場所があるらしい。そして、プロジェクトの納期前で忙しいのは当然だが、新たに他のシステムを追加で開発する必要があるとのことだった。
町田さんが元々いたメーカーFが受注したプロジェクト。町田さんは独立して、今でいうところの、フリーのプロジェクトマネージャーをやっているようだ。そして、その人脈から、エンジニアを探す窓口もやっているとのことだった。
町田さん:「僕のチームは精鋭チームだから。」
と、目の奥の鋭さを忍ばせながら、ニヤけつつ、前歯のないその口で、私に向かって言った。
飯田専務:「町田さん、彼はね。H社の汎用機のプロですからJCLもできるし、もう大丈夫です。町田さんの精鋭チームにバッチリです。完璧です。」
30分くらいしか話してないのに、俺のことを分かってる・・・、いや、売り込みがすごい。JCLできたって、特に凄いことはないのに、ここまでプロって言えるのはある意味すごいな。。。と感心しつつ、そんな適当な話で、プロジェクトに入れるわけないじゃん。と、また、職探しをしなければいけないかも?と落ち込みそうになった。
【いつからこれる?】
町田さん:「飯田専務がそこまで言うなら。大丈夫だね。ちょっと忙しい時期だけど大丈夫かな?」
私:『え?あ、はい。大丈夫です。よろしくお願いします。』
面接は合格したらしい。
この2、3ヶ月、転職活動で落とされ続けてきた私は、合格?ということ自体が正直嬉しかった。
もちろん、転職活動で会社に入ることと、個人事業主としてプロジェクトに参画することは、単純に比較できるものではない。
しかし、書類選考も落ち、面接も通らず、という状況が続いていた中で、うちのプロジェクトに来てよ。という言葉は、うれしかったのは確かだ。
町田さん:「じゃあ、いつから来れそう?」
いつでも大丈夫な状況であった。来月からでも、もっと言えば来週からでも問題ない。『いつからでも大丈夫です。』と答えると
町田さん:「明日来れる?」
私がびっくりし、ドギマギしていると、それを察したのか
町田さん:「そうだよね。もう今日も遅いし、明日は急か。明後日がねぼくが、打ち合わせで1日いないから、明々後日の金曜日から来てくれるかな?」
いつ?からって、まさか明日からと言う意味だったとは・・・
それにしても、こんなにすぐに人が必要なプロジェクトって大丈夫なのか?と一抹の不安を抱きつつ、仕事をもらえた嬉しさに心躍らせ、複雑な心境の中、飯田専務と一緒にプロジェクトの現場に歩いて向かうのであった。
【いくらでしょうか・・・?】
飯田専務:「よかったね。」
と、ニヤケつつも、優しい言葉を投げかけてくっる飯田専務。見た目、ちょっと怖いけど、いい人だな?と5分ほど歩き、プロジェクトの現場らしき場所についた。見た目一見、普通のマンションだ。しかし、中はちゃんとしたオフィスになっているらしい。
飯田専務:「うちの社員がいるから。呼ぶよ。」
と、既に参画している大川さんを電話で呼び出してくれた。
大川さんも1ヶ月前から参画しているとのこと。少々ふくよかな体系ではあるが、年齢も同じで、人の良さそうな大川さん。このプロジェクトではこの後、一緒に苦楽を共にすることになる。
飯田専務:「じゃぁ、行こうか。単金とかはあれだよね。上田さんだよね。聞いてるの?」
あ、お金のことは上田さんだ。まだ話せてない、一番大事な話ができてなかった。と、一気に不安が押し寄せてきた。「まぁ、田宮先輩の奥様のご紹介だから、変な人ではないだろう」と根拠のない安直な信頼感を持ちつつ、Uさんに電話するのだった。
フリー編 へ つづく
※この物語は経験をベースにしたセミフィクションです。