悲しき手戻り
フリー編
新しい体制でプロジェクトは着々と進んでいた。
Fシステムの面々も忙しかったが、少しずつ我々も稼働が高くなってきていた。
人員管理プロジェクトは、やっと出社してきた町田さんと井川さんの2人でリリースに向けて進んでいるようだった。
【悲しき手戻り】
仕様の見直しにより問題点が少しずつ明らかになり、対応が進んでいた。
課金サブシステムは服部さんが見直しをして、赤井さんが設計をし直していた。
どのサブシステムでも同じなのだが、他のサブシステムとの連携が多い課金サブシステムは、その影響を大きく受け、修正が多くなっていたのだった。
「大川さん。ごめんねー。これ直して。」
というときもあれば
「いや、これさ、おかしいよね。大川さんどう思う?」
というときもあり、ここのところ赤井さんの感情の起伏が激しい。
これは赤井さんだけの話ではないが、やはり体制が変わり、新しい人がきて問題点を指摘されるのは、最初から携わってきた人からすると、精神的に辛い部分もあるだろう。
もちろん、指摘は正しいし、良くなってるからプロジェクトとしては良いことなのだが、そこまでの経緯があるから、指摘を受ける方は感情的に受け入れにくいこともある。
服部さんたち、Fシステムの方々はそう言う面も考慮しながら、しっかり進めてくれていた。
赤井さんも、それを素直に受けつつ、ときどき感情に出てくるのは、自分が対応しきれてなかった部分への後ろめたさがあったからだと思うのだ。
【忘年会での出会い】
大川:「町田さん、こっちです。」
町田:「ああ、ありがとう。」
I社の飯田専務主催の町田さんを招いての忘年会。
新橋のある居酒屋に、町田さんを連れて、大川さんと一緒に向かっていた。
店に着くと飯田専務ともう1人、愛想のいい人がいた。
飯田:「お待ちしておりました。町田さん。」
町田:「あぁ、飯田さん。今日はありがとう。」
相原:「町田さん、こちらこそわざわざお越しいただき、ありがとうございます。」
町田:「いえいえ。ありがとう。」
店に入って、個室に移動する通路を歩きながら大川さんに聞いた。
私:「あの人どなた?知ってる?」
大川:「うん。営業の相原さん。I社の。」
私:「あ、そうなんだ。」
大川:「今日来るとは知らなかったけど。」
I社の営業の相原さん。まさに営業という感じの、一見爽やかだが、話すとクセのありそうな人だった。
【乾杯】
飯田:「とりあえず。乾杯しよう!」
席につき、ビールが注がれたコップを持って飯田専務が言った。
飯田:「本日は、町田さんをお迎えしまして・・・」
相原:「専務、長くなりますから、乾杯しましょう。町田さん今日はありがとうございます。乾杯!」
飯田:「え?おい。乾杯・・・。」
相原さんが長くなりそうな飯田専務の話を遮り、乾杯をしてしまった。
まぁある意味ナイスジャッジである。
相原:「町田さん。始めまして。うちの2人がいつもお世話になっています。」
町田:「いえいえ。こちらこそ。2人には随分と活躍してもらって助っていますよ。」
しばらく、これまでのプロジェクトの状況や今の状況、そして、伊豆にいった話など、たわいのない話をしていた。
相原:「いいな。2人ともそんないいところ連れてもらって行って。」
大川・私:「いえ、ホントに。町田さんにはお世話になりっぱなしで。」
町田:「いやいや。僕たちはね、個人事業主で同じ仲間だから。」
相原:「あ、そうなんですね。でも町田さんは昔はすごかったんですよね?」
さすが営業である。
町田さんはそこから過去の実績を次から次へと上機嫌で話し始めた。
飯田専務も営業らしく持ち上げ上手だったのはフォローとして書いておこう。
【それ僕作ったの】
町田:「だからね。今のメンバーはほとんど僕の部下だったし、事業部長とかとは同期だし、だいたい僕を通せば何でもできるんだよ。」
飯田:「さすが町田さん。うちのメンバーももっと増やしていきたいんで、是非、お願いしますよ。」
町田:「うんうん。でね、事業部長とはね、ゲームも一緒につくったんだよ。あの知ってる?『XYZ』というゲーム?」
大川・私:「え!『XYZ』ですか?知らないわけないじゃないですか!」
町田さんのトークと、飯田専務、相原さんの調子のいい合いの手に口を挟めなかった我々だったが、『XYZ』を作ったと聞いて驚き声をあげた。
※ファミコン初期のアーケードにもあった当時誰でもやったことあるゲームです
私:「あのゲームは幼い頃、本当にやり尽くしましたよ。そんなゲームを作ったなんて。町田さん握手してください。」
興奮のあまり、私は握手をお願いしていた。
そして大川さんも町田さんと握手をしていた。
そのあとも、町田さんは上機嫌のまま、楽しそうに飲みながら語り尽くしていた。
私も大川さんも今月末で町田さんの人員管理プロジェクトが終わってしまうことが寂しかったが、それでも町田さんのこれまでの実績を聞けたり、今まで知らなかった町田さんを知ることができ、楽しい飲み会になったと感じていた。
飯田:「じゃぁ、町田さん。これからもお願いしますね。」
約3時間の忘年会はお開きになった。
【2人の企み】
4人で町田さんを見送り、そのまま2次会へ向かった。
飯田:「よかったな。町田さん。楽しそうで。」
大川:「あ、でも、町田さんのプロジェクトは今月で終わってしまうそうで・・・」
飯田:「いいの、いいの。そんなのは。また、繋がるからああいう人とは。な、相原。」
相原:「そうですね。2人とも町田さんもそうだけど、いまのプロジェクトヘマするなよ。」
さっきの忘年会とは打って変わって、相原さんの厳しい口調が我々に向かった。
大川・私:「分かりました。」
飯田:「まぁまぁ。大丈夫だよ。2人は。」
そんな相原さんを飯田専務はなだめつつ
飯田:「でもあれだよな。相原。町田さん言ってたけど、奥さんのためにパイプカットしたって、あれ、相当、女好きだろ?」
相原:「専務、何言ってるんっすか?でも、きっとそうですよ。次はそっちから接待しましょう。」
そんな、今ではコンプライアンスで書けないことばかり言っていた飯田専務らしい発言で2次会はお開きになった。
【これからもよろしくね】
次の日、飲み過ぎな身体で出社すると、大川さんと薩田さんが談笑していた。
もちろん、町田さんはいない。
私:「おはよう」
大川・薩田:「あ、おはよう」
私:『昨日はお疲れ様だったね。』
大川:「うん。飲み過ぎたね。でも町田さんの話は聞けてよかったね。」
私:『そうそう。『XYZ』はビックリだったよ。』
薩田:「あ、それさっき聞いたよ。」
3人で昨日の町田さんの話、とくに『XYZ』のゲームで盛り上がった。
しばらくして、薩田さんが、席に戻ろうとして
薩田:「あ、そういえば、来月からよろしくね。」
私:『?』
薩田:「来月からI社でお世話になることにしたから。同じ会社だね。」
私:『え?』
予想外な薩田さんの転職先に驚くしかなかった。
つづく
※この物語は経験をベースにしたセミフィクションです。
最後までお読みいただきありがとうございました!
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