伊豆の踊り子号
フリー編
会議室に呼ばれた町田遊軍に告げられたのは、なんと町田さんからの伊豆旅行へのお誘いだった。
宿泊費がタダという不安もありつつ、みんなで参加することにした。そして、Z社の川原社長からの電話。
プロジェクトの立て直しとともに私の仕事への関わり方を立て直す時期がきたのかもしれない。。。
【伊豆の踊り子号】
土曜日となり、品川駅に集合して伊豆へ向かうことに。
先週、先々週と毎日のように徹夜し、土日もなかった日々が嘘のようだ。
前職を退職する前後から転職活動がうまくいかず、先行きが見えない状態が続いていたから久しぶりの開放感を味わっている。
そして、伊豆といえばもちろん踊り子号!
実は私も初めて乗る。これから約2時間かけて、伊豆稲取まで向かうということだった。
既に薩田さんが、切符を買ってあって、みんなへお金と引き換えに配布している。
薩田さん、とても動きがいいのには感心するのだが、Tシステムのほうは大丈夫なのだろうか?と、余計な心配をしながら電車に乗車した。
大川さんが、薩田さんから聞いたところ、町田さんの知り合いが旅館をやっている・・・みたいな話だったんだけど、一体、町田さんは何者なのだろう。
今回の旅行で町田さんがどんな人なのか、少しでも分かるといいな、と思いながら同行していた。
11月の土曜日、伊豆観光にはいい時期であろう。
電車にはそれなりに多くの人たちが観光で乗車していた。
総勢7名のエンジニアが車両の一角で朝からビールを飲みながら、少し場違いな感じで伊豆に向かう。
実は、昨日の帰り間際に、町田さんの人員管理プロジェクトのサブの井川さんが、明日、つまり土曜日にJCLを通しで実行したい、と言っていたのだ。
町田さんは、気にしなくて良いから、と、言っていたが、気にはなってしまう。
町田さんに「大丈夫ですかね?井川さん」と聞いたら
町田:「きっと、あいつ、今日誰も出てきてなくてビックリしてるぞ。クックックッ。」
歯のない口から笑いが漏れ出てきた。
町田:「あいつとはね、同期だからさ、腐れ縁だな。俺がちゃんと言っておくから大丈夫だよ。あー、あいつのびっくりした顔みたかったなぁ」
【裸の付き合い】
伊豆稲取駅について、20分ほど歩いて旅館へ。
町田さんの知り合いが経営している、って聞いていたから、小さな家族経営の旅館をイメージしていた。
しかし、そんなもんではない。普通に大勢の人を受け入れられる有名旅館であった。
大川:「おお、すごい!」
小森:「おお、こんなところとは。」
後ろの方で香取さんが村井さんと結構高いんじゃないか?と心配している。
町田:「みんな、今日は楽しもうよ。お金のことはいいからさ。」
全員:「ありがとうございます!」
想像していた以上の立派な旅館にみんな素直に驚いた。
男ばかり7人、特に観光はしなかったが、旅館ついてまずやることは温泉に入ること!電車で飲みすぎた感もあったが、ほろ酔いのいい気分で、全員で温泉に向かった。
ゆっくり露店風呂につかりながら、この1ヶ月の厳しい状況を振り返った。
他のメンバーもどうやら、あとから参画し、引き継いてきたシステムだったようだ。
スタート直後のことは誰も分からず、起こる問題にひとつひとつ対処してきたらしい。
町田:「俺さ、まぁ、もともとFシステムにいたはいたけどさ、今はフリーみたいなもんだから。みんな、個人でやってるでしょ?」
全員:「はい。」
そうである。ここにいる薩田さんを除く全員が個人事業主であった。
町田:「そうだよね。だから、みんなで頑張っていこうよ!個人事業主仲間で。プロジェクトも俺たち中心にやっていかないと。」
町田:「薩田くんもね。個人でやったほうがいいよ!立花、ダメだから。」
薩田さんは、苦笑いでその言葉を受け流した。
【プロジェクトの行方】
正確にいうと、町田さんはプロジェクトのメンバーではない。
しかし、FシステムのOBということもあり、また、新インターフェースプロジェクトの主要会議に出席していたことから、町田さんがプロジェクトの中心にいる、ということは誰からみてもそうであった。
温泉からあがると、あとは、もう町田さんの思いのままに、旅館の中のお店をハシゴし飲みまくり、そして、その後も部屋に戻ってからも夜中まで飲み尽くした。
お互いの苦労話が中心だったが、中でも私の多重請負の話はみんながビックリしていた。
「こんな多重請負は、聞いたことない。」とみんなが言っていたが、私はと言うと、みんなの話を聞きながら、そう問題にならないように気をつけてやっているんだな、と気づき、ひとり、自分の甘さに恥ずかしくなった。そして、その気持ちをアルコールで誤魔化したのだった。
町田さんは、Fシステムに所属していただけあって、山崎さんのことも、林田さんのこともよく知っていた。
あいつは昔はああだったんだ、こうだったんだと、懐かしむようにプロジェクトのメンバーの話をしてくれた。
気がつけば、1人、また、1人と、その場で寝てしまっていた。
町田さんが楽しそうだったのがなによりだった。
我々も、こんな旅館に連れていってもらえる機会なんて普通ではない。
最初は怪しい感じもしたが(笑)、最終的に町田さんには感謝しかなかった。
次の日の朝、町田さんが厚めの財布から、フロントで全員分の支払いを涼しい顔でしていたのを、みんなで「すげぇなぁ」と遠巻きにみていた。町田さん、前歯はないが札束は持っていた。
そして、楽しい伊豆旅行が終わった。
【月曜日】
次の日、会社に行ったら、井川さんが町田さんへ「またかよー、たのむよー」なんて、声が聞こえてきたが、それは怒りというよりも、仕方ないなぁという、町田さんと井川さんの仲の良さを物語る愛情ある訴えだったように感じた。
そして、プロジェクトの立て直しが本格的にスタートするのであった。
つづく
※この物語は経験をベースにしたセミフィクションです。
最後までお読みいただきありがとうございました!
TwitterやFacebookなどのSNSでのシェアも大歓迎です!




