追究
フリー編
新しいプロジェクトマネージャーの参画で徹夜続きのプロジェクトはいったん仕切り直しとなった。
一方、私の方は、今の営業に騙されていると言われ、その全貌に耳を貸すのであった。
【追究】
前職の先輩の奥様から紹介してもらった営業の上田さん。
飯田専務は、私がその上田さんに騙されていると言うのだ。
たしかに、契約の金額が、ちょっと不満を言っただけで、30万から35万円にすぐあがった。
ひとことで、そんなに単価があがるなんて、それはそれで不審感はあったのだが、いったい、騙すってどうやって騙すんだろう?と疑問に思いながら、飯田専務の話に耳を傾けたのだ。
飯田:「佐藤さんは、あれだろ?上田はどこの会社の人だって聞いてる?」
私:『はい。前職の知り合いに紹介いただきまして、株式会社Zの方だと聞いています。』
飯田:「だよな?俺も上田はZの会社の営業だって知っているよ。Z社の社長とは仲がいいから。Zの社員にうちの案件入ってもらったり、うちの案件にZの社員に入ってもらったりしてるんだよ。」
私:『あ、そうなんですね。』
飯田:「Zの川原社長にあったことある?」
私:『いえ。ないです。』
飯田:「だよな?」
質問ばかりでなかなか核心に近づかない。
飯田:「上田も悪だから。川原さんに会わせることができないんだよ。」
【契約の流れ】
飯田:「いいか?今回の仕事は、お客さんがいるだろ。K社っていう企業情報管理のお客さん。それで、そのK社から、F社が仕事を請けてるんだよ。」
飯田専務は、今回の仕事の契約の流れの説明をし始めた。
飯田:「でな?F社が営業でとってきた仕事を、子会社のFシステムが請けてるんだよな。な?大川?」
大川:「は、はい。その下で、さらにTシステムですね。」
飯田:「そうそうそう。Tシステムの社長が元Fシステムの人間だから。」
なるほど。そこまでは私自身も現場で分かる流れだ。
しかし、まだ続くらしい。
飯田:「いいか?そこからな、Sソフトっていう元H社の部長をやっていた大本さんの会社があって、それでうちなんだよ。で、うちの下にZ社」
そうだ。それは初めて飯田専務、上田さんのあったときに、そのようなことを言っていた。Sソフトという会社の人には会ったことないが、月末に勤務表をSソフトにも送るようにと上田さんに言われていたから知っていたのだ。
私:『私はZ社の上田さんが営業なので、Z社と契約するのだと思っていました。』
飯田:「そう思うだろ?だから騙されてるんだって!カッカッカッ!」
騙されてると言われて笑われても・・・。と思うのだが、ハゲ頭を光らせながら、楽しそうに話す飯田専務、ちょっと憎めない。
【営業のうそ】
飯田:「でもな?上田から契約書こないだろ?しかも現金手渡しなんて、おかしいだろうよ?」
たしかにそうだ。
いまどき現金手渡しなんて、と思っていたが転職活動もままならない中、紹介されたのが営業の上田さんだった。
そして、すぐ今の仕事を紹介してくれたから、ある意味、無職の私を救ってくれた人に近い。
更に前職の先輩の奥様の紹介、ということも、私を騙そうとしてるなんて、全然思いもしなかった。
しかし、よく考えるとおかしいだらけのこの状況。
初めての個人事業主に浮かれ、少し甘かったのかもしれない。
飯田専務が続けた。
飯田:「いいか?Z社があって、D社っていうのが入るんだよ。もう一社。で、その下に上田本人が入ってんだよ。」
私:『?』
飯田:「難しいだろ?上田は、自分の小遣い稼ぐために、自分が所属している会社と、自分の間に知り合いの会社を1社かませて、それで上田本人から佐藤さんに支払うような流れを作ったんだよ。」
私:『え?そうなんですか?』
大川:「え?それはすごいな。だから安いのか。」
大川さんも、ここまでは聞いてなかったようで驚いていた。
【多重構造】
お客様であるK社から ①F社→②Fシステム社→③Tシステム社→④Sソフト →⑤飯田専務のI社→⑥Z社。私はこのZ社の営業である上田さんからお仕事をいただいたので、Z社と契約すると思っていた。
それが、さらに→⑦D社→⑧上田さん → 私 となるとのことだった。
お客様から私までの間に8社入ることになっているのだ。仮にお客様が1人のエンジニアに100万円で仕事を依頼したことにしても、15%づつ間の会社が抜いていくと100万→75万→81万→63万→64万→54万→46万→39万となる。
それで私にはちょうど35万円になるのだ。
スタートのお客様がいくらで依頼しているかは分からない。途中で15%しかとらない、ってこともないだろう。
単純に上田さんが自分自身の小遣い稼ぎに、1社入れていることもおかしいし、本人が間に入ることもおかしいし、おかしなことだらけだ。
きっと、初めて個人事業主として携わる私だったから、できたことだろう。
この話を聞いて、上田さんもおかしいと思ったが、お客様から現場で働いているエンジニアまでの間にこんなに会社が入って、各社が手数料として費用を少しずつ抜いているということにはもっと驚いた。
つい昨日、実際にお客様がすぐそこにいて、JCLを実行していたのに、会ったことのない、聞いたこともない会社が、私が働いた労働力から利益を得ることができているのだ。
【大丈夫だから?】
飯田:「な?全部調べてるだろ?これが全容!」
たしかに飯田専務、よく調べてくれた。
飯田:「それでさ、Z社の川原さんには俺から言っておいたから。上田は多分クビだよクビ。」
私:『え?そうなんですか?』
飯田:「そうだよ。こんな掟破りをやられてはこっちがたまらんよ。だから、とりあえずお前はあれな、Z社との契約になるから大丈夫だから。」
私:「あ、は、はい。ありがとうございます。」
飯田:「とりあえず契約が3ヶ月くらいだから。その後はまたうちに相談してよ。大川から、お前の働き聞いてるから。あ、Z社でも良いけど。うちのほうが上だからな。こっちのほうがいいぞ?」
ニカーっと頭を光らせながら笑う飯田専務。
たしかに今回のことは飯田専務が調べてくれなければ分からなかったに違いない。
一仕事終えた飯田専務は「じゃ!」と言っておしゃれなカフェから1人出て行った。
プロジェクトの話はなかったに等しい。。。
しかし、今回の件は勉強になった。
大川さんに聞いたが、こんなに間が入っているパターンはそれほど聞いたことがないらしい。
無職の私に仕事を紹介してくれた上田さんとはもう会うことはないだろう。
そして、契約という面では不安が少し消えつつも、まだ会ったことがない人たちがたくさんいる商流の深さに憤りを感じたのだった。
つづく
※この物語は経験をベースにしたセミフィクションです。
最後までお読みいただきありがとうございました!
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