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仕切り直し

フリー編

プロジェクトの行方を決める結合試験がうまくいかず、プロジェクトの責任者はその責任のなすりつけ合いのような状態となっていた。

午後からの出社を命じられた翌日、見知らぬ顔のメンバーと、黒縁メガネの偉そうな男が会議を仕切るのであった。

【仕切り直し】

林田:「えー、私の名前は林田といいます。よろしくお願いします。」


年齢は40代だろうか?PMの山崎さんより年下で、サブの石山さんより年上のように感じた。

部屋の中を見渡し、重みのあるクールな声で続けた。


林田:「私のことを知っている人がいれば分かると思うが、私が参画するプロジェクトはいつもひどい状況であることが多いのです。そして、このプロジェクトも、私が今まで経験した以上に、そうですね、今までで一番と言っていいほど、ひどい状況ということを聞いています。」


ひどい状況。たしかにその通りだ。

しかし、今日初めて会って、おそらく初めてこの開発の場所にきた人に、ひどい状況と酷評されると、少し気持ちは落ち込む。


林田:「ちょうど、先週まで、同じようにひどいプロジェクトに参画してたのですが、やっとのことで終わりましたので、これからは、このプロジェクトを私が責任をもって立て直します。」


「え?」と一瞬、会議室の中がどよめいた。その、どよめきが残るまま、林田チームのメンバーが一人ずつ挨拶をした。


林田:「静かに聞いてください。サブシステムごとに1人ずつ、うちのメンバーを責任者として起きます。そして、各サブシステムの担当者は、みなさんで言うと、SEの方になるのかな?その担当者から、今の状況をヒアリングするので、ご協力をお願いします。」


なるほど。確かにそうである。私もまだ入場して2週間ちょっと。ひとつのサブシステムだけでなく、全体を見ることのできるJCLを担当していたので、単にJCLが悪くてプロジェクトが進んでいない、ということではないことは気づいていた。


今まで走りっぱなしだったが、ここで一旦、全体を見直すのにはいいタイミングなのかもしれない。。。

嫌な言い方はされたけど、期待もできそうだと、思ってきた。


【軋轢】

会議が終わると林田チームは早速開発室へ戻り、PMの山崎さん、サブの石山さんを交えて会議を始めた。

Tシステムの立花さんは会議には入っていない。


我々、もともといたメンバー、旧チームの面々はタバコ部屋・・・と言っても、廊下の広いスペースに灰皿があるだけのところだが、で、タバコを吸いながら重い空気でため息をついていた。


角川:「いやー、気にくわんっす。」


武闘家の角川さんは不満な気持ちを隠さず、怒りが体からあふれていた。

当然、JCLリーダーの小森さんは、そんな、角川さんの重い雰囲気もおかまいなしに、ヘラヘラしてる。


角川:「あとからきて、何言ってんすかね。」


赤井:「なんか、あれらしいよ。あの人たちは、毎回、炎上しているプロジェクトを立て直す、炎上プロジェクト対応チームらしいよ。Fシステムの中では、とても有名で、林田さんはとてもできる人って言ってたよ。」


「なるほど」と思いながら、炎上対策チームがいる会社って、どんなもんだ?と思いながら赤井さんの話に耳を傾けた。

いちおう、このチームでは年長なので、PMの山崎さんからも、いろんな話を聞いてくる。


30歳も歳上なのに奢ってはくれないが、精度は低いが情報は持っている。


赤井:「あと、きっと、予定よりプロジェクトに負担がかかっているから、我々は残業が減っていく方向らしい。」


小森:「いいねー。早く帰れて!でも、あの林田って人、メガネ格好いいし。仕事できそうじゃないですか。」


角川:「小森さん、ちょっと黙っててください。うるさいっす。」


と、角川さんが小森さんを足蹴にした。


【立て直し】

大川:「残業本当に減るんですかね?なかなか厳しい感じもするですけど。」


赤井:「まぁ、でも、納期通りに進んでいないのは確かだからね。予算はとっくにオーバーしてるんじゃないか?」


そこに、会議が終わったPMの山崎さんと、林田さん、そして、林田チームの数名が、タバコを吸いにやってきた。


入れ違いに、角川さんと数名が開発室へ戻っていく。


山崎:「全員いないけど共有で。今日から1週間ほどは、調査しながら方向性を決めることになると思うので、みなさんは残業なしで帰ってください。ちょっと、今まで忙し過ぎたから。来週から、また、仕切り直しでスタートします。」


赤井:「あ、山崎さん、来週からはまた徹夜続きですか???」


赤井さんが、驚きとともに、山崎さんに食い気味に聞いた。


林田:「いや、社員の方で重いところはフォローしていきますので、皆さんの稼働は下げて行きたいと思っています。もちろん、忙しい時はご協力いただくことにはなりますが、平均的には下げて行きますよ。」


やはり、赤井さんが言っていたとおり、稼働は抑えられるようだ。本当に稼働が下がって、プロジェクトもうまくいけばいいんだけど。なんて思いながら、席に戻って行った。


【おしゃれカフェでの会合】

結局、その日は、17時から飯田専務との打ち合わせということもあり、大川さんと早退することにした。

本来なら1時間程度打ち合わせして、また、仕事に戻る予定だったのだが、今週は残業もしてはいけないと言うことだったから、ちょうど良かったのだ。


赤井さんたちSEの方々は、林田チームの担当者からヒアリングをされていて、少し残ることになったらしい。


飯田:「よっ!」


あのハゲ頭のオヤジが、下北沢のおしゃれなカフェで待っていた。


飯田:「いやー、どう?ふたりとも?状況は。とっても忙しいでしょ?」


大川さんが今日あったことを飯田専務に説明した。

新しいPMがきたこと。今週はヒアリングで残業できないこと。炎上プロジェクト専門チームだということ。


飯田:「あぁ、それは良いんだか悪いんだか。建て直しで新しいPMが来たってことは、プロジェクト仕切り直しだからな。いったんはスケジュール見直し入るからよかったんじゃないの?」


頭をおしぼりで拭きながら話す。


飯田:「でも、そんな、炎上専門チームって、そんなのがFシステムから出てきたら、とおーってもヤバいプロジェクトだろ、それ。カッカッカッ(笑)」


自分で我々をプロジェクトに入れたにも関わらず、本当に心から笑って楽しんでる。すごい人だ。


飯田:「それよりも、佐藤くん。君の方が大変だよ。調べた。」


【詐欺?】

プロジェクトの話もまだ触りだけなのに、私のほうが大変って、どういうことだ?

そして、とても楽しそうに話そうとする飯田専務、ヤバいはずなのにどうして。


飯田:「あの、上田。いるだろ営業の」


私:『は、はい。』


飯田:「あいつ、お前のこと騙してるぞ」


私:『え???』


隣の大川さんは少し知っている様子で聞いていた。


私:『騙してるってどういうことですか?』


飯田:「上田と契約書、交わしてる?」


私:『いえ、まだです。先週、お話したときに早くお願いしますとは言ったのですが。』


飯田:「やばいよー、それ。な、大川。やばいよな。」


大川:「まぁ、そうですね。契約書ないのは。」


大川さんも少し困った様子で簡単に返事をしている。


飯田:「な?ヤバいんだよ。あいつ、契約書作れないんだよ。」


私:『???』


飯田:「いや、あいつ会ったとき、会社の名刺だしただろ?でも、その会社でやってないから。だから契約書発行できないんだよ。」


私:『え?名刺頂いたんですが、それは嘘なんですか?』


飯田専務は、まるで歌舞伎の舞台の真ん中で見得を切るように、顔をキメて言った。


飯田:「俺が全部調べたから。全部教えてやる。」


飯田専務、きっとプロジェクトのことはどうでもいいに違いない。


しかし、騙されているというその言葉に、私は飯田専務の調査結果に耳を傾けるしかなかった。


つづく


※この物語は経験をベースにしたセミフィクションです。


最後までお読みいただきありがとうございました!

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