プロジェクトの責任
フリー編
プロジェクトの行き先を決定づける結合試験は、予想通りうまくいかなかった。
お客様と交渉ができない、そこにプロジェクトが停滞している原因を感じることとなった。
このプロジェクトはどうなるんだろう?自身の仕事はなくなるのか?そんな不安の夜を過ごしていた。
【プロジェクトの責任】
町田:「お前の進め方がおかしいだろ!」
立花:「いや。JCLチームが大丈夫って言ってたから。」
町田:「大丈夫かどうか確認するのが仕事だろ!」
立花:「・・・」
開発室の奥の打ち合わせ室から、怒鳴り声が響いてくる。
さっき、あんな軽快にやってきた町田さんの声だ。
町田さんは、FシステムのOB。
事業部長クラスまでやっていた人。
Tシステムの立花さんもFシステムのOB。
独立してTシステムを立ち上げ、Fシステムの仕事をもらっているとのことだ。
立花さんは、町田さんの元部下。
もちろん、山崎さん、石山さんもFシステム。
ここにいる人たちは、結局はF社、Fシステムの人たちばかりで、町田さんとも関連が深い人ばかりなのだ。
プロジェクトの立て付け上、お客様との交渉はFシステムがしており、プロジェクトマネージャーは山崎さん。
石山さんは仕様検討の要だ。立花さんは、開発部分の責任者ということだ。
情報通の大川さんから、こんなプロジェクトの体制を教えてもらった。
そういえば、そんなことも考える余裕もなく、必要なことをやっていたな。と少し反省したが、その中で立花さんとあまり絡んだことがない。
開発の責任者であれば、ここまでもっと、会話する場面があってもよかったはずだ。
大川さん曰く、立花さんは、元上司の町田さんの目の届くところ、つまり、大川さんや私のような、町田遊軍というチームにいれられるような人とは、うまくコミュニケーションがとれていないらしい。
それほど、立花さんにとってみると、町田さんが目の上のタンコブということだった。
【リーダーの気持ち】
結合試験の失敗の責任を誰がとるのか?プロジェクトの責任は誰がとるのか?そんな話が、一つ向こうの部屋で行われている。
プロジェクトが終了したら、俺の仕事はなくなる。
この忙しい炎上プロジェクトを抜けられる方がいいのか。。。
そんな甘い考えも頭の中をめぐりながら、しかし次の仕事がすぐ決まるのか?と不安だけが募るのであった。
席を外していた大川さんが戻ってきた。
大川:「明日、飯田専務がこっちまで来るって言ってるよ。プロジェクトの様子と、佐藤さんに話したいことがあるらしい。」
私:「あ、そうなんだ。例の件、ちょっと相談してみたいな。」
先週の営業の上田さんと話た契約金額の件だ。
大川さんによると、相場から比べても相当低いらしいということだった。
大川:「そうそう。飯田専務気にしてた。なんか興奮して早く話したいみたい(笑)」
私:『お、それはよかった。じゃぁ明日時間とれるいいけど。どうなんだろうね。プロジェクト。』
大川:「たしかに、なかなか、打ち合わせも終わらないね。小森JCLリーダー。落ち込むなよ?」
少し年上の小森JCLリーダー。
もうみんなからはリーダーらしくないリーダーとして認識され、リーダーと呼ばれている。
小森:「いや。落ち込んでないよ。全然。早く帰りたいね。」
小森JCLリーダー、少しは反省して落ち込んで欲しいものだ。
【そして帰宅】
しばらくして、会議室からFシステムの面々が出てきた。
山崎さんがみんなを集めた。話があるらしい。
山崎:「えー、今日はこれで終わりにして、皆さん、帰宅してください。明日の午前中、お客様と打ち合わせをしますので、午後からの出社で大丈夫です。プロジェクトもちゃんと続くので心配しないように。」
今日はこれで解散、ということだ。まだ22時前。やっと家に帰れる。
しかもこんな早い時間に。
プロジェクトが続くと言っているが、いったい、あの状況でお客様はプロジェクトを進めることを納得してくれるのだろうか?
とりあえず、終電も近づいてきた。
今日はいったん家に帰り、また明日、午後から来よう。
2日連チャンの徹夜だったが、それ以上、ここにいるような気がした。
いつも通り、大川さん、赤井さんと、下北沢の駅へ向かった。
赤井:「久しぶりだな。こんな時間。ちょっと飲んで行こうよ。」
赤井さんは家に帰っても一人らしい。
いつも寂しく一人で飲んでいるので、帰りに寄って飲みたいのだろう。
大川さん情報では、奢ってはくれない。
とはいえ、私も久しぶりにこの時間、22時前に帰ることができた。
いつもなら、終電だから次の日のことを考えて飲むことができなかった。
しかも明日は午後からだ。
赤井さんの誘いに、大川さんと3人で飲むことにした。
【ほろ酔い気分】
赤井:「いやー。こうやって飲めるのもいいね。」
大川:「ホント、よかったっす。リーダーのおかげだ(笑)」
赤井:「でも、リーダーすごいよね。あれだけやらかして、なんとも思っていないから。大物だ。」
たしかにその通り。肝が座っているというか、なんというか。
リーダーの責任ではないが、対応が全然進んでいなかったのは、ちょっと手抜きとしか思えない。
私:『リーダーも町田遊軍なんですけど、町田さんはどんななんですかね?遊軍と言えども、まだ、遊軍らしい仕事してないですけど。』
赤井:「あぁ、町田さんはさ、もともと、今のプロジェクトで対応していたんだけど、Tシステムの立花さんの元上司だからやりづらくて、立花さんがPMの渡辺さんにお願いして、別の小さなプロジェクトに回されたんだよね。」
私:『え?我々のプロジェクトはやってないんですか?』
赤井:「そうだよ。まぁFシステム社の事業部長とかくると、同期みたいだから?打ち合わせに毎回入って、立花さんを怒鳴ってるよ。まぁ人集めてきたり、そういったところでは貢献してると思うけど。」
大川:「まぁ、Tシステムの若手くんたちも、町田さんにうまく使われているからね。立花さんも大変だよね。」
そんな、町田さん話に盛り上がっていたが、スタートが22時すぎ。明日午後からとはいえ、終電の時間は近づいていた。
赤井:「じゃぁ、そろそろ帰ろうか。12,000円だから。4,000円ずつで。」
30歳は年上と思われる赤井さんと、ぴったり割り勘で支払いをすまして店を後にした。ほろ酔い気分で電車に揺られ、乗り過ごさないように1時間、無事に家に着いた。「今日はゆっくり寝ることができるな。」と徹夜疲れの身体を睡眠で労った。
【見知らぬ顔】
次の日の午後。
出社すると、いつもより人が多くいる雰囲気がした。
確かに見知らぬ顔の人が何人かいる。
さて誰だろう?と思いながら席についた。
大川:「飯田専務、今日、17時頃に来るらしいから。さっき、いちおう山崎さんに、1時間くらい抜けることは言っておいた。」
私:「ありがとう。助かるよ。で、あの見知らぬ顔の面々は誰なの?」
大川:「いや。俺も聞いてないよ。Fシステムの人たちは人たちみたいなんだけど・・・。なんだろうね。」
PMの山崎さん、サブの石山さんはもちろんいるのだが、新しく見る人たちと談笑している。
Fシステムの社員だからだろう。
でも、なんだろうか?心なしか石山さんの顔つきが軽くなったような気もする。
山崎:「みなさん。ほとんど出社されましたね。えー、これから全体の会議をしますので、会議室に移動してください。ちょっと狭いですが、すぐに終わりますので、よろしくお願いします。」
山崎さんの指示で会議室へ移動した。
そして、しばらくすると、黒縁メガネの目つきの厳しい方が、山崎さんの代わりに前に出て話し始めた。
林田:「えー、私は林田です。よろしくお願いします。」
何が始まるのだろう?
みんなが何も分からない状況で、キョトンとしている中、林田さんが話を続けた
つづく
※この物語は経験をベースにしたセミフィクションです。
最後までお読みいただきありがとうございました!
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