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声の持ち主

フリー編

プロジェクトの運命を決める結合試験まで残り1時間を切った。

しかも、経費サブシステムはしっかり動くかどうか分からない状況で、スタートをせざるをえなかった。

結合試験はうまくいくのか?運命の時間が迫ってきた。

【声の持ち主】

結局、リーダーとともに、プログラムの結果を確認したが時間切れ。

満足な確認はできないまま、結合試験のスタート時間を迎えた。


PMの山崎さんから、私と大川さんで、JCLの実行をするように指示があった。

1階のお客様の部屋にある専用端末で実施するということだ。

結合試験ではあるが、お客様も実行状態を確認したい、ということで、立ち会うということになったのだ。


入場した直後に、F社の営業部長、Fシステム社の事業部長たちに囲まれながらJCLを実行したことが思い出される。

しかし、お客様となると、それ以上の緊張感の中で作業をすることになるだろう。


山崎さんに連れられ、1階に向かった。

メガネをかけたスラっと背の高い方がいらっしゃった。


山崎:「平塚さん、よろしくお願いします。」


お客様 情報システム部 部長 平塚さま

平塚:「どうぞ。よろしくお願いします。今日は期待していますよ。」


少し冷たいトーンのその声は、以前、深夜に帰宅するときに会議室から「あなた達のことは、もう信用していないんですよ!」と聞こえた、その声の持ち主だった。


大川さんと2人顔を見合わせ、無言でそのことを確認した。

今日の結合試験は本当に気が重い。

ここまで試験ができていない状態で、本番に近いお客様確認を迎えるなんてことは、今まで経験したことがない。


【異常系データ】

平塚:「それでは、今日は私が用意した実際のデータを、見てはいけない部分を加工してるものを使って、実行してもいます。その結果を確認して、今後のスケジュールを検討させてもらいます。」


山崎:「わかりました。」


平塚:「もちろん、異常系のデータもありますので。大丈夫ですよね?」


山崎:「もちろんです。」


「え?」と、またもや大川さんと顔を合わせた。

そもそも今回は正常系の処理の確認と聞いていたからだ。

平塚さまと山崎さんで話をしている横で、大川さんと2人には聞こえないように確認した。


私:「異常系ってどう?大丈夫?」


大川:「たぶん、うちは大丈夫。けど、香川さんのところの請求サブシステムはどうだろうね。」


私:「帳票自体は大丈夫だと思うけど、途中の処理は微妙かもね。そこまで確認できてないはず。」


大川:「それ以上に経費の方だな。結局あんまり見れなかったし。正常系もヤバイから異常系どころではないけど。」


なんとか正常系だけでも、と、頑張ってきた。

それを異常系のデータも流すなんて・・・。

無謀だし、うまくいくかどうかは賭けでしかない状況に思えた。


結合試験スタート

平塚さまと山崎さんの話も終わり、結合試験をスタートした。


正常系5パターンと異常系3パターンを実行するだけだ。

ゆっくりやっても3時間かかるかどうか。

もちろん、処理が止まらずに最後まで実行されれば、だが。


まずは最初のデータの投入。

経費サブシステムから。

ジョブをひとつずつ実行する。

一回一回のデータ量は多くないから、そこまで時間はかからない。

全然動かないのではないか?と心配していたが、とりあえず最初のデータは問題なく処理が終了した。


次に課金サブシステムだ。

我々のところは、よっぽどの想定外データでなければおかしくなることはないだろう。

経費サブシステムより処理が長いので、少し時間がかかったが無事に終了。

請求サブシステムも続けて処理が完了した。


とりあえず、処理が通ったことはよかった。

内容は正直みてみないと問題ないと言えないが、最終的な出力される帳票へ渡るデータ数が想定通りであるから、大きな問題は発生していないだろう、ということは想定できた。


引き続き、2本目、3本目と処理が正常に進み、なんとかうまく動いている雰囲気に、我々もこのまま最後まで問題なく終わってくれるのではないか?という期待で自然と笑みが浮かぶようになっていた。


ただ、少し離れたところで、平塚さんだけが、厳しい顔で立っていた。


そして、4本目のジョブをスタートしたとき、今日初めての異変が発生した。


経費サブシステムを実行し終わったとき。

処理が止まることはなかったが、課金サブシステムに引き渡す出力データがおかしかった。


出力されたデータ件数が0件だったのだ。


私:「山崎さん。ちょっといいですか?」


山崎さんが、緊張感を持って画面を覗き込む。


私:「いま、経費サブシステムのデータが0件で終わったんですが、0件が正しいってことはないですよね?お客様に確認していただいた方が良いとおもうのですが。」


山崎:「そうだね。平塚さんに聞いてみる。」


【増幅する緊張】

山崎さんが平塚さまに確認しに行ったが、やはり、0件データとなることはおかしいらしい。

いったん、4回目のデータは経費サブシステム、つまり、角川さん、小森さんが開発の環境で確認することになった。


我々は5回目のデータの試験を進めることとなった。


そこからは、ひとつひとつ動かすことに恐る恐る。

もう、いつジョブが止まるか分からない状況。

5回目のデータは経費サブシステムは完了した。

しかし、課金サブシステムの最初のジョブを実行した段階で、データ件数が大幅に減り、異常が発生していることは明白だった。


大川さんがさっとデータを見たところ、これも経費サブシステムから渡されたデータがおかしいように見える。とのことだった。

連携されたデータ件数は間違っていないが、データのキーの項目がおかしい。

そのため、課金サブシステムの処理でデータが除外されてしまうものがあったのだ。


背中に汗が流れるのを感じた。


次は異常系のデータだ。


今まで出力結果がおかしかったものの、処理が止まったことはない。

ただ異常系となると、どんな動きをするのか想像がつかない状況だった。


【終焉に向かって】

異常系のデータの投入する。


キーを打つのが怖い。


後ろでは、平塚様が緊張感を保ったまま、我々を見守っている。


そして、すぐに処理がABENDした。


あたりは緊張感だけで一杯になった。


山崎:「次のデータを投入しよう。」


大川・私:「はい。」


もう、汗でワイシャツもビッショりな状態である。

しかし、処理を実行し続けるしかない。

異常系2本目もABEND。

3本目はなんとか処理は終わったが、どうみても、帳票に表示されているデータがおかしい。


日本語ではない。


16時過ぎにスタートして約2時間。

途中で処理が終わったものが多かった分、試験は早く終わった。


平塚:「山崎さん。異常系も問題ないと言ってたじゃないですか。処理結果が少しおかしいくらいだったらいいんですよ。ただ、処理を実行してABENDするっていうのはちょっとおかしいんじゃないですか?」


山崎:「は、はい。」


平塚:「はいって・・・。しっかりしてくださいよ!こんなことばかり続くんで、あなた達の言っていることは信用できないんですよ!」


【そしてこれから・・・】

お客様が言うことも、もっともだった。

我々も異常系を実施することは知らなかった。

知っていたら、少しは違う結果になっていたかもしれない。

経費サブシステムは、あの小森リーダーじゃ大して変わらないだろうけど。


大川:「山崎さんも優しいからな。こんなひどい状況で、異常系まで、対応させるのは酷だと思ったのかもよ?PMとしては全然よくないけど。」


「たしかに・・・」と思いつつ、2日の徹夜あけにサウナに行ってこいというのは、優しさだったのだろうかと、徹夜続きの疲れた頭の中で思いながら、もう少しお客様とスケジュールの調整ができなかったのだろうか?と不思議に思った。


試験が終わり、お客様はいちおう結合試験の結果を確認することになった。

山崎さんはFシステムのお偉いさん方と結合試験の結果を受けて緊急会議。

それが終わるまで、我々は今日の結果の修正の対応となった。


開発室のある2階に戻るため片付けをしていると、平塚様が近づいてきた。


平塚:「君たち、大きな声出して悪かったね。技術者の方々が一生懸命やってくれているのは分かってるんだよ。ありがとう。引き続きお願いしますね。」


一瞬緊張したものの、思いがけない優しい声がけに、少し心が軽くなった。


ただ、そうは言うものの、こんな状況で、プロジェクトは続くのだろうか?と、すぐに不安のほうが打ち勝ってしまう。

だって、プロジェクトがなくなると、また、無職になってしまう。


重苦しい空気の中、やっと町田さんが「おはよー!」と、今の状況に似合わない声で軽快に出社してきた。


つづく


※この物語は経験をベースにしたセミフィクションです。


最後までお読みいただきありがとうございました!

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