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徹夜明けの作業

フリー編

土曜日の徹夜を終え帰ろうとしたそのタイミングで、PMの山崎さんから夕方に再度試験を実施するという言葉。

課金サブシステムチームのメンバーは、試験に備え、再び作業に入るのであった。

【徹夜明けの作業】

大川さんと私は仮眠から目が覚め、黙々と作業を進めてる。

赤井さんは歳が我々より二回りも上とみえ疲れが簡単には抜けないようだ。

自分の席で小さなイビキをかきながら寝ている。


もうすぐお昼になろうかというタイミングで町田さんが出社してきた。


町田:「佐藤さん。おはよう。今日も出社なんだね。ちょっとね僕のプロジェクトのほう手伝って欲しいんだけど・・・」


町田さんは、今のプロジェクトの状況を知っているのか知らないのか、私にそう話しかけてきた。


私:『あ、実は昨日から徹夜で、今日、このJCL直さないといけないんです。手伝う時間があればいいんですが、山崎さんは大丈夫なんでしょうか?』


町田:「そうなんだ。でも、僕が山崎に言っておくから。ちょっと、またあとで声かけるね。」


私:『は、はい』


こんな状況で、他の仕事をしていいものか?と思いながら、あいまいな返事しかできなかった。


大川:「あれさ、町田さんの権力見せつけたいだけだよね。きっと、山崎さんにダメって言われるから、大丈夫だと思うよ。」


大川さんも、以前、同じようなことがあったらしい。プロジェクトの状況にかかわらず、町田さんがメンバーを自身のプロジェクトを手伝わさせようとすることがあるのだとういう。そうやって、自分が連れてきたメンバーを自由に使えるということで、影響力を誇示していたいということのようだ。


【進まぬ試験】

我々としては、そんなことよりも、今、目の前にあるプログラム、JCLを修正し、今日中にジョブを実行させなければならない、そのプレッシャーのほうが強かった。できるだけ、手戻りがないように、JCLを私が修正し、プログラムを大川さんが修正し、と、分担しながら、修正を進めていたのだった。


正直、プログラムの実行結果関係なしに、JCLだけを実行できるようにするだけであれば簡単だ。

しかし、それは進捗があったことにはならない。プログラムの結果が伴うようにJCLも直っていなければ、結局、もう一回プログラムを修正する必要がある。

我々は今日JCLが動いたからといって、それで終わることはないのだ。


しばらくして、町田さんから声をかけられた。


町田:「山崎に聞いたら、今日はダメって言われちゃったよ。また来週お願いするね。」


私:『わかりました。また、お願いします。』


山崎さんに確認して、町田さんも「いちおう」は今の状況を分かったらしい。


大川:「ほら?よかったね。町田さんいい人なんだけどなぁ。」


午後になると、赤井さんも起きてきた。

再度、全体の流れを見直し、JCLの修正内容の意識合わせをした。プログラムもできる範囲で修正をしたが、出力される項目のひとつひとつを見ていては今日の実行に間に合わない、ということで、可能な範囲で確認し、残りの試験の結果の検証は来週行うことになった。


【再試験の始まり】

今日、やるべきJCLの修正も18時までに完了し、あとは実行するのを待つだけになった。


大川:「今日はお偉いさんは来ないらしいぜ?」


私:『あ、そうなんだ。よかった。あれは緊張するよね。』


と、昨晩、我々の後ろで事業部ら重鎮が覗き込むように実行結果を確認していたことを思い出した。親会社の営業部長や、Fシステム社の事業部長が来るくらいの大切な試験だったはずだが、こんな場当たり的な対応で大丈夫なのだろうか?


状況から察するに「とりあえず動けば」ということでもないような気がしていた。

雰囲気、この結果を持って、全体のスケジュール感をお客様が把握でき、そして、これからの工程の計画の認識合わせをするための材料になるものではないか?と感じていたからだ。


大川:「あー、ねみー」


私:『大川さんが入場したときから、こんな感じなんですか?』


大川:「そうだね。俺が入場したのは今月の頭からだから、割と最近だけどね。でも、H社の汎用機を使える人がそのときは他にいなかったから、すげー忙しかったよ。」


私:『そうですよね。』


使い方のわからない人たちだけで、よくここまで進んできたな、と感心するとともに、そんな計画で進めてきたことがよく問題にならなかったな、と、ある意味、この先の計画自体が心配になった。


そして、18時を少しまわったところで、再度JCLの実行がスタートした。


【これからの計画?】

今回はひとつひとつ、実行するJOBの完了確認をすることになった。

これを結果をもって、お客様に状況を説明するとのことだった。


徹夜明けの眠たい頭のままで修正したため、自信はあまりなかったが、ひとつひとつ、JOBが進んでいった。

大川さんの修正したプログラムもABENDすることなく、最後まで実行することができた。


約2時間。想定よりも早くJOB実行は完了した。

時計をみると20時をまわっていた。


大川:「ふー。よかったよ。無事に実行が完了して。」


私:『そうですね。なんとか最後まで。動いてよかったです。』


大川:「どうせ、プログラムはまた直すだろうけど。」


仕様が変わったから仕方ない。来週、といっても月曜日の明日から、大川さんはプログラムの実行結果の確認をする必要があるのだ。


赤井:「よかったよー。動いて。こんどの設計は大丈夫だから。大川くん、明日直してね。」


大川:「はい。分かってますよ」


入出力ファイルの指定がおかしかったから設計不良・・・。

大川さんは設計書どおりに作ったから、はっきりいって、この修正自体が手戻りなのだ。不満な気持ちを少し表に出しながら、大川さんは赤井さんに笑顔で返した。


【お客様との調整】

プロジェクトマネージャーの山崎さんから、お客様へ今回のJCL実行結果の報告をするので、それが終わるまでは待機していて欲しいと言われた。

赤井さん、大川さんと私の3人は、徹夜明けのまぶたが閉じそうな目を無理やりこじ開け、プログラムの修正に取り組んだ。


しかし、こんな眠たい状況で修正したプログラム。通常よりバグを埋め込みやすい状況であることは誰も否定できないだろう。気休め程度かもしれないが、それでも我々は空いた時間を無駄にしないように作業を進めた。


町田さんは既に帰宅していた。

もちろんJCLリーダーの小森さんは今日は出社していない。


FシステムのPMの山崎さんと、サブプロジェクトマネージャーの石山さん、Tシステムの社長の立花さんがお客様へ、今日までの試験の状況を報告しているらしい。もう2時間以上会議が続いていて、3人はなかなか帰ってこない。22時半を回っていた。


私:『今日もまた徹夜ですかね?』


大川:「いや。それはないよ。我々は土曜日出勤のつもりだったから私服で来ていると思うけど、お客様は平日スーツ着用でないといけないから、少なくとも帰れはすると思うよ。」


私:『たしかにそうですね・・・』


不安が和らいだと思ったその脇で


赤井:「でも、始発で帰って着替えて戻ってきたら、それでいいんじゃないか?いや、もちろん私も帰りたいですよ?今日の日付のうちに」


赤井さんがタイミングの悪い発言をし、その場の空気が凍っていた。


【一時の帰宅】

23時になろうか、というタイミングで、石山さんが1人もどってきた。


石山:「課金サブシステムの3名はいったん帰って、明日の朝からまた出社してくれるかな?」


赤井:「あ、はい。わかりました。打ち合わせはまだ長そうなんですか?」


石山:「ちょっとね、スケジュールが遅れてるから、お客様と調整しているよ。」


赤井:「そうなんですね。」


石山:「明日から、とても忙しくなりそうだね。」


休日出勤のうえに、徹夜までしている我々に、いまよりも忙しくなるような発言には耳を疑ったが、ただ、状況を考えると、それはそうだな。と納得せざるを得なかった。おそらく、今時点のJCLやプログラムの修正範囲を把握している人は誰一人いないのではないだろうか?


帰宅の許可が出たので、終電に間に合うように机を片付け、下北沢駅に向かうべく、お客様が作業をしているフロアから外にでようと廊下を歩いていた。


「あなた達のことは、もう信用していないんですよ!」


大きな声が廊下まで響いてきた。

お客様のフロアで唯一明るい部屋があり、どうやらこの部屋で山崎さん、石山さん、立花さんとお客様の打ち合わせをしているようだった。

中から廊下へ響いたその声はもちろん山崎さん、石山さん、立花さんのものではなかった。


私:『すごいことになってそうだよね?でも、打ち合わせはまだまだ続きそうだし、3人はまた徹夜になっちゃうのかな?』


大川:「いや、彼らは夜中でもタクシーで帰ってるよ。プロジェクトは大丈夫なのかは怪しくなってきてるけど、彼らは大丈夫。ちゃんと家に帰れるよ。それよりも俺たちが終電に間に合うか?ダッシュしないとマズいよ!」


私:「そうだな。急いで帰ろう」


我々3人は、下北沢の駅へ向かって、ダッシュで帰路についた。

膝が痛いと言いながら赤井さんも走ってついてくる。もう歳だからな。


でも、あんなお客様に言われていて、明日からプロジェクトはどうなるんだろうか?と心配だけが積もりに積もっていくのであった。


つづく


※この物語は経験をベースにしたセミフィクションです。


最後までお読みいただきありがとうございました!

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