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入学式とカサカサと

入学式


 午前七時。設定していた携帯のアラームが鳴る。音が一番大きいからと選んだメロディーは、黒電話だ。春の優しい光を浴びて、アクツはふわふわと優しい色をした夢を見ている最中だった。


「ジリリリリリリリリ! ジリリリリリリリリ!」

「………」

「ジリリリリリリリリ! ジリリリリリリリリ!」


 …あぁ、なんて腹ただしい音色だ。誰だ、こんな音色がこんな時間に叫ぶように設定したのは。…そうだな。オレだな。ふぅ、起きるか~。いや、待てよ。確か目覚ましを設定したのは午前七時だったはずだ。今日は大学の入学式で、確か九時までに学校に行けばいいんだよな。ここからバイクに乗って学校まで…


「ジリリリリリリリリ! ジリリリリリリリリ!」


 十分。念のため少し早く学校に着きたいから、八時半ぐらいに家を出れば間に合うな。ってことは最悪八時に起きても間に合うんじゃないか?


「ジリリリリリリリリ! ジリリリリリリリリ!」


 そうだ。なんでオレはこんな時間に目覚ましをセットしたんだ?あと一時間寝ていても平気じゃないか…zzz。


「ジリリリリリリリリ! ジリリリリリリリリ!」

「ジリリリリリリリリ! ジリリリリリリリリ!」


 …分かったよ!分かった分かった。長い付き合いじゃないか。ちょっと二度寝しようとしただけじゃないか。そんな何回も怒鳴るなよ。起きるから。さて、携帯はどこにあるんだろうな。目を開けるのが非常に辛い。まぶたが重くて開かない。誰か押さえているんじゃないか?と思うぐらい重い。コンセントから伸びる携帯の充電器のコンセントを手繰り、携帯を手に取ってアラームを消した。


………zzz。


「ジリリリリリリリリ! ジリリリリリリリリ!」


 あっ、ごめんごめん。そうか、そうだよね。スヌーズ機能っていうものがついているんだよね。一回消しても五分後にまたアラームが鳴るんだよね。もうお前からは逃げられないんだな。起きるよ。

 アラームを消し、上半身を起こす。一週間前に引っ越してきたアパートを見渡した。栃木の田舎から出てきたアクツは、この春から一人暮らしを始めたのだ。家賃五万五千円。フローリングの1Kだ。二階建ての一階、103号室。壁際にベッドとテレビ。逆側には入学時代に手作りしたブックシェルフと型の古いコンポ。部屋の中央にはカーペットをひいてコタツが置いてある。思い出の品や、インテリア雑貨がいたるところに設置してある。ゴチャゴチャしてはいるが、整理はされているつもりだ。コンビニが隣という立地の良さも気に入っている。

 この部屋での一人暮らしもだいぶ慣れてきたな。家族との仲はいいほうだったが、やはり一人で暮らす自由感はたまらないものだった。

 アクツは朝起きると、必ずシャワーに入るようにしていた。そうしないと体が起きないのだ。髪だってボサボサだ。

 準備を終えるとスーツを着て学校に向かった。大通りを真っ直ぐ海へ向かう途中に、アクツが通うことになる大学がある。この大学の周りには塀がなく、一般の人たちも散歩がてら敷地内を横切っている。地方から出てきて友達がいないアクツは、一人寂しく入学式会場に向かった。とりあえず、まず始めにすることは一つ。友達を作らなくては!

会場に入るともう七割方席は埋まっていた。新生活が始まるということで、うかれていそうな輩達がたくさんいた。茶髪のライオンヘアー。真っ黒に焼いた肌。白のスーツでサングラスをかけた新入生を見たときは、さすがに笑ってしまった。

 サングラスっておい。眩しいのか? 室内がそんなに眩しいのか? ネタ? 笑いを誘ってるの? 突っ込んだほうがいいのかな? いや~そうですね~やっぱり入学式ともなると室内は眩しいね~っておい!みたいなのを望んでるのかな? と一通り頭の中で突っ込んで、会場内を見渡し、自分の座るべき席を探した。始めは派手な人たちばかりが視界に入っていたが、ちゃんと真面目そうな人たちもたくさんいるようだ。アクツの席は一番左側の列の、後ろから三つ目になった。隣に座っている男の顔を横目で確認してみる。髪が長くて目は見えなかったが、少なくともまともな人間に見えた。さっそく声をかけてみよう。オレの大学での初の友達はこいつで決まりだ。何気ない感じで声をかけてみる。

「こん中暑いね」

アクツの声を聴くと、そいつは勢いよく振り向いてきた。ストレートな髪は目元をすっかり隠し、毛先が妙に整っているので、被り物でも被っているようだ。唇がカサカサなのがやたら目に付いた。目が合うと、そいつは少し口をパクパクしてからこう言った。いや、カサカサさせてからこう言った。

「そ、そう、そうですね」

 声が小さくてボソボソした喋り方だ。いや、カサカサした喋り方だ。お宅の匂いがカサカサしてくる。オレは目をそらして前を向くと、次の大学での初の友達を、再度探し始めた。

「ど、どっから、来た、んですか?」

 カサカサが声をかけてきた。やばい。どうやらオレの大学での初の友達になろうとしているようだ。止めてくれ~。もうカサカサしか聞こえない。

「僕さ、地方から、出て、来たんです。今はこのあたりの、北苗って、とこで、一人暮らし」

 一生懸命会話を続けようとしているのが痛いほど伝わってきた。痛い、痛い。しかしここであることに気づく。

「ん? 北苗? マジで? オレも北苗で一人暮らししてんだけど。何丁目?」

「あ、えっと、二丁目です」

「一緒だ~。コンビニ近い?」

「えっと、となり? です」

 …なんてこった。なんて運命的な出会い。このカサカサは、なんと同じアパートに住んでいるというじゃないか。しかも、丁度オレの上の部屋のようだ。こいつは困った。これでは大学初の友達はこのカサカサで決まりじゃないか。しかし、お互い地方出身で、同じアパートで一人暮らしをしているということで、話は意外と盛り上がってしまった。式が始まっても、話は止まらなくなってしまった。というかオレが話かけていた。カサカサは山梨出身らしく、山梨について色々質問していたのだ。

「家から富士山見える? 年に何回ぐらい富士急ハイランド行くの? ほうとう好き? 今度信玄餅買ってきて」

 まぁ、話しかけた内容の半分は返ってこなかったけどね。きっと根暗だろうけど、悪いやつではなさそうだ。パソコンで悪いことならしてそうだけど。これも面白い出会いだな。このあとはクラスに分かれ学校説明があるらしい。出会う人全てが初対面なのだ。緊張とわくわく感がたまらない。どんな人と出会えるのだろう。大学で出会った友達は一生物。誰かがそんなことを言っていたので、大学での出会いはすごく大切にしようと決めていた。

こんな本があったらいいなと思って書いてみました。

愉快な生活を送っている人の毎日を覗くような。

その人になれるような。

毎日ストレスを溜めている方。

最近なんだかつまらないと感じている方。

ちょっとでも楽しい気持ちになってもらいたいです。

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