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8.ルゼレオ海岸へ


「……よぉし、これで全て回収です!」

「うん? 全ての属性鉱石じゃなくていいんですか?」


 アグリッピナはカニャンの助けを借りて、水と土の属性鉱石を袋に入れた。しかし二年も洞窟にいたのに全て回収はしないらしい。


「はい。あくまで調査が目的なので。持ち帰って、まずはギルドで調べてからまたここに来ることがあるかもしれませーん」


 王都の錬金術ギルドと言ってたが、それがどういう風になるのか興味はあるな。


「よっこいしょ……」


 アグリッピナは属性鉱石を限界まで入れたかばんを背負って、フラフラしている。


「……重そう。持つ? 持てる?」

「カニャンちゃんより力はありますから、大丈夫ですよー! それにカンヘルさんのかばんは頑丈ですから破れることはありません」

「カンヘル? でもピナ、それは駄目。魔物、来たら何も出来ない」

「ぎくぅっ」


 アグリッピナは調査で洞窟に二年いた。その間に獣人が邪魔しに来たかもしれないが、怪我をすることは無かった。


 だがそれはいたずらされただけの話。しかし外に出れば、危険なことが起きても不思議じゃない。


「二年前にここに来た時、魔物の遭遇は?」

「無かったですよ。途中の村の獣人たちはみんないい人たちでしたし、食料なんかもくれたりして助かりましたからね! ですので外も安全です!」


 二年か。ク・ベルハは廃村になってから長いと聞く。

 カニャンやアルミドの故郷がそこなのだとしたら――行って確かめる必要がある。


「本来ならここで見送るだけなのですが、俺たちもついて行きますよ。カニャンが言ったように、鉱石を重そうに背負っている格好では防ぎ切れませんからね」

「カンヘルさんのかばんは防御力も高いのでちょっとやそっとでは……って、信用してくださいよー」

「すみません、そのカンヘルさんというのは?」


 さっきから話が噛み合っていないが、アグリッピナは聞いてほしそうな顔を見せている。


「カンヘルさんはギルドマスターをしている半竜さんのことなんですよ。私の装備のほとんどをこしらえてくれましてー」


 ギルドマスターの半竜か。

 獣人と共生しているのは珍しくないから、深くは聞かないでおくとして。


「分かりました。それでは外に出ましょうか」


 話が長くなりそうだし、さっさと外に出てしまおう。


「あれ? でもリナスさんとカニャンちゃんはク・ベルハ側から来ましたよね? そっちへは戻らなくていいんですか?」

「いつでも戻れますから心配いりませんよ」

「今は先に進む。ピナ、危険」

「えええー!?」


 カニャンはすっかり懐いたようだ。愛称も自然に呼んでいるし嫌がられてもいない。俺も神官としての言葉遣いだけでも使い分けておくか。


「俺とこの子が一緒なら、アグリッピナ……ピナさんは何も心配いらないかと」

「おほっ!」


 呼び名を変えたことを気付かれたのか、アグリッピナは興奮しているようだ。


「……とにかく、行きますよ」

「リナスさん。この先はルゼレオ海岸があります。まずはそこを通過目指して、よろしくお願いしますねー!」

「カニャンも行く」

「うんうん、カニャンちゃんも行くよー」


 辺境ク・ベルハに赴任して日も経たないうちに、新たな土地に進む。これは神殿に留まっていたとしたら出来なかったことだ。


 もちろん、カニャンと出会うことも無かった。


 辺境左遷、それも帝国じゃないところに赴くことになったのは納得出来なかったが、今はこれで良かったのだと思えるから不思議だ。


「リナス。剣、いつ教える?」

「あー……そうだね、カニャンの場合は身振り手振りで教えるよりも動きながらの方が覚えが早い気がするから、外に魔物がいたら試してみるかい?」


 きちんとした教典で教えるべきかもしれない。しかしカニャンの戦い方は、すでに誰かが与えた教典でどう動けばいいのかが出来ている。


 そうなると、後は神聖剣を実際に振ってもらって覚えてもらうしかない。

 

「そういえばリナスさん。カニャンちゃんって剣を持ってますけど、剣士さんですか?」

「まだ見習いですが聖女ですよ」


 隠すことでも無いし正直に言ってしまおう。


「ええぇ!? そ、そうだったんですか? 神官さまに聖女さま……ひええ」

「……いや、そんなかしこまらなくてもいいので」

「ピナ、おかしい。カニャン、剣を持ってるだけ。怖くない」

「ひえええぇ……」


 こんな調子で大丈夫なのか、本当に。


お読みいただきありがとうございます。


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