7.属性鉱石の行方
地下洞で襲撃してきた時はどうなるかと思っていた。しかし調査で来ているだけで、戦う力のない人間なことが分かった。
手にしていた斧もハッタリのようなもので、彼女自身も通じるかどうか不安だったらしい。
アグリッピナに案内され、俺とカニャンは奥に続く地下洞を進んでいる。カニャンが怯えを見せていたのは地下洞側だったが。
「今は怖く、ない」
「そうなんだ? それじゃあ平気かな」
しばらく進むと食事や寝泊まりをする場所に着いた。所々の土や岩の壁が削れていて、岩の壁には日数を示す印が刻まれている。
生活空間が感じられるが、洞窟は奥の方まで続いているようだ。
地下洞自体に魔物の気配は無く、危険性は無いようにも思える。
「どうぞどうぞ! 何も無いですけど、段差に座ることは出来ますよ」
彼女が言うようにただ座るだけの段差くらいしかなく、お世辞にも快適な空間とは言えない。
地面を見るとあちこちに石が転がっていて、散らばっている印象を受けた。
「無理。リナスだけ座っていい」
「じゃあ、俺だけ座るからね」
「……ん」
カニャンはそこに座りたくないのか、立ったままでいるようだ。
片や呑気そうなアグリッピナは、話したそうにして俺の反応を待っている。
「ところでアグリッピナさんは調査隊と言ってましたが、他の人は?」
さすがにいきなり愛称で呼ぶのはまずいと思って呼ばなかったが、彼女は少し残念そうな顔をしている。カニャンに対するのはともかく、今は神官として対応しておく。
「はい! それがですね、私だけなんですよ!」
「……」
「リナス……この人、大丈夫?」
「そ、そうだね」
誰かが隠れているでも無く、妙にひっそりとしているとは思っていたが。
「そうすると単独の調査隊ですか?」
「そうなんですよー!」
何で嬉しそうにしてるのか。単独でこんな暗闇の地下洞になんて。今は光を灯しているから明るいとはいえ、心細くなりそうなものなのに。
「ちなみに何を調査しに?」
転がっている石や削られている壁を見れば予想はつくが。
「属性鉱石を掘り……探しに来ました! 貴重な鉱石がこの地下洞内に埋まっているみたいですので、ミケルーア王都の錬金術ギルドを代表して来たというわけなんです」
「錬金術?」
「はいー。ご存じありませんか?」
神殿と周辺の村や町しか知らないうえ、帝国以外のことはほとんど知識として入ってこなかった。それだけに聞くもの全てが初耳だ。
しかも王都からとなればなおさらのこと。
「アグリッピナさんは、そのミケルーアからここに?」
「ですです! 今日で二年目になりまして、あぁっ! しかも多分今日が十九歳の誕生日ですよ!」
二年前からここにいたのか。
獣人がどうとか言ってたし、長くいたのは間違いないけど。
「ええと、おめでとうございます。ということは、ここへはこの奥の洞窟からここに来たってことですよね?」
「ありがとうございます! この奥から来たってこと、よく分かりましたね!!」
「まぁ……」
彼女は少し抜けている部分があるな。
カニャンが彼女のことを心配するのも無理は無いか。
それにしても王国代表ということは、実は優秀な錬金術師だったりして。
「リナス、この石、変」
世間話をしていると、カニャンが近くの石を拾って首をかしげている。
カニャンには何らかを察知する能力があるが、石に触れただけで何かを感じ取ったのだろうか。
「変って、どういう感じで?」
「よく、分からない。でもリナスがくれた剣が教えてくれた……土、水、風……近くからたくさん感じるって」
地下洞という性質上、湿気があるし行き止まりじゃないから風の流れもある。土はすぐ目の前の壁にあるし、それらを肌で感じてもおかしくない。
しかしカニャンは神聖剣からそれらを感じている。
神聖剣が意思を疎通させるなんて思ってもみないことだが、剣はカニャンをあるじと認めた。俺には一切聞こえて来ないが、剣を手にした効果が表れ始めたということかもしれない。
それに属性は攻撃魔法の時、敵次第で脅威的な威力となる。もし神聖剣に属性を付与することが叶えば――と言っても、まずは戦い方を教えるのが先だけど。
「アグリッピナさん。属性鉱石というのは、属性が含まれた鉱石のことですよね? この子が分かるみたいなんですが、あなたはそれを探していたのでは?」
「おほおぉ……!」
アグリッピナは、俺はもちろんカニャンを見ながら何やら興奮している。
この辺りの壁を削ってかなりの石を転がしているところを見れば、見つけるのに相当苦労していたっぽいが。
「こ、これで帰れますよ!! カニャンちゃんのおかげで私の二年間が報われましたよ~。はぁぁ、どこに属性鉱石が埋まっているか分かるなんて。私なんて二年もここにいて何も見つけられずにいたというのに~……はぁぁ」
アグリッピナは何やらショックを受けている。
「リナス。カニャンちゃんってカニャンのこと?」
「そうだね」
属性鉱石が埋まってるのはいいとして、属性鉱石を掘るのを手伝うことになりそうだな。
「石、拾っていい?」
「それは……とりあえず彼女に聞いてからにしようか」
「ん、分かった」
錬金術師らしき彼女をこのまま一人で帰すのは心配になる。この先のことが気になるし、王都まで付き添うことになるだろうか。
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