5.神聖剣の目覚め
カニャンとともに少し焦げた魚を食べた後、俺はカニャンを連れて川が流れる通路を探索することに。
彼女は怖い所には行きたくないと言っていた。だが、置いて行かれる方がもっと嫌だといって黙って俺についてきている。
ギルド食堂を調べるのはいつでも出来るので後回しにして、今はカニャンが怯えを見せる原因を取り除いておくことにした。
通路を進むと、両面は石の壁に覆われていてほとんど崩れていない。
ただ灯りは無くそのまま進むのは厳しいので、光を照らして進むことにした。
「リナスの魔法、明るい」
「光の魔法で《ライト》だよ。聖女を目指すカニャンなら、そのうち使えるようになると思うよ」
「……んん、使えない」
「えっ、教典には魔法のことも書いてたはずだけど、読んでない?」
カニャンは耳をへたらせ、何も言わずに首を左右に振った。
読んだうえで使えないのか、それとも読んでないのか今は何とも言えそうにない。
「奥、何かいる……」
光魔法で照らしながら通路を進んでいると、暗闇が続く奥の方で物音が聞こえる。
カニャンが真っ先に気づいたのをみれば、察知能力は俺より高いみたいだ。
しばらく石壁伝いに歩いていると、いくつかの部屋が続いているのが見える。
扉は無いものの、通路からは中が見えない。
カニャンを後ろにつかせ、ゆっくりとした動きで部屋の中を覗く。
そこにいたのは低級アンデッドのスケルトンだった。部屋の中の土壁を複数で掘っているようで、土が床に散らばっている。
「スケルトンか。強さは無いが……」
「リナス、戦う?」
「……うーん」
俺がやれば一瞬で消せるが、カニャンに戦わせて素質を見ておきたい。
もし俺の見立てが正しければ、彼女は戦闘が得意な聖女になるはず。怖がっている様子も無いし、スケルトンは手頃な相手だし丁度いい。
「えっと、カニャンは自分の爪で敵を転がすことが出来るんだよね?」
「……ん」
「向こうにいるスケルトンを転がしてくれるかい?」
「んーん、無理。カニャンの爪、生きてる相手だけ簡単。それ以外、倒せない」
スケルトンは不死生物だ。骨とはいえ足はあるし、転ばせることは簡単なはず。
とはいえ、獣人たちは傷を負うことも無く単純にしりもちをついていただけだった。少なくとも"攻撃"といった感じじゃなかったが、そういう意味だろうか。
「カニャンが今まで転ばせた相手は、もしかして獣人たちだけなのかな?」
「ん、あのひとたちだけ」
獣人たちは遊び相手と言っていた。そうだとすれば本当の敵には通用しないか。
「それじゃあ、カニャン。手で目を隠して待っててくれるかな?」
「――?」
「ちょっと眩しくなるからね」
「分かった、待ってる」
今は時間をかけてられないな。
「……不浄なる不死に照らせ!」
神聖魔法を使うのが一番手っ取り早い。
土壁を削り掘っていた数体のスケルトンは、光の中に消えた。
カニャンは俺の言うことを素直に聞いて目を隠したままで立っているようで、声をかけるよりも軽く頭を撫でて気づかせてあげた。
「ンニ!? ……リナス、終わった?」
「驚かせちゃったね、ごめん。見てのとおり、部屋はもぬけの殻だよ」
「土壁、見ていい?」
「もちろん」
うっかりなでなでしてしまったが、そういうことはやめといた方がよさそうだ。
スケルトンがいなくなった部屋には物が一切無く、ボロボロに崩れた土壁だけが露わになっている。
あいつらは一体何を掘っていたのか。
ギルド遺構とはいえ、そもそも地下深くに魔物が残っていたのも妙なことだ。
「何か出て来た。リナス、これ」
「うん? それは……泥だらけの棒かな?」
「それ、何か感じる。どうすればいい?」
見た目だけで判断すれば、単なる泥だらけの棒にしか見えない。しかしカニャンは、この棒から何かを感じ取っている。
聖女見習いの彼女が感じるということは、それ自体に何かがあるということだ。
「それを渡してくれるかい?」
「……ん」
お互いに手が泥だらけになったが、カニャンから棒を受け取るとそれはすぐに反応を示した。
カニャンは軽く手にしていたが、俺が手にした途端にずしりと重くなった。
「――呪印が施されている……か」
泥だらけで不明だったが、これはおそらく遺物の類に違いない。
カニャンに反応したということは彼女が使えるもののようだが、呪印が阻んでいるのか何も起きなかった。
そうなると、まずは俺が解呪してやらなければならない。
俺は解呪効果のある呪文をつぶやき、そのままカニャンに棒を手渡した。
「……持ってていい?」
「そのまま手にしてていいからね。そうすればおそらく――」
解呪を施しすぐにカニャンに持たせると、棒が変化を見せる。
そして――彼女の手元で光を放ちながら真の姿を現した。
「――? これ、何?」
「それはカニャンの武器、神聖剣……かな。たぶん」
「神聖……剣? 目覚め、た?」
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