24.猫耳騎士の熱血指導
王都ミケルーアに来て数日が経った。
俺たちと行動を別にしたサリルとは再会出来ていなく、特に変わったことは起きていない。ゾルゲン神官長の動向についても、はっきりとつかめずにいる。
そんな中、俺たちについて来ることを決めた神殿騎士アルミドは騎士鎧を脱ぎ、堂々とした猫耳姿でカニャンに指導している。
神殿騎士を抜けることは容易では無いと聞いていた。だが、ゾルゲンに獣人と明かした時点で神殿騎士には戻れないということらしい。
「はい、次は上段に構えて!」
「それ、さっきもやった」
「繰り返しが大事なの! わがまま言わずにやって」
聖女見習いとしてまだ成長しきれていないカニャンに対し、アルミドは妹を成長させたい気持ちが芽生え、武器攻撃の指導をかって出た。
神殿騎士だけあって、俺の教義のことを気遣ってのことだったが、
「……リナスがいいのに」
「リナスさんは神官様だから武器を使っての指導は向いてないの。だからリナスさんにはそれ以外の、魔法とか神聖力のことを教わってね!」
そんなはっきり言わなくても……。
妹に直接指導出来るだけあって、かなりの力の入れようだ。
「アルミドさん。教義のことはともかく、俺も少しは教えられま――」
「いいえ、リナスさん! 聞けばワーム族相手に攻撃ではなく、剣の振り方を教えただけというではありませんか! そんな生易しい教えでこの子が強くなるとお思いですか?」
地面ばかり削っていたカニャンには、低級ワーム族で練習するのがいいと思った。
今まで剣を手にしたことも無かった子にはそれが最善だとも。
「ええと、それは……徐々に覚えていけば」
時間をかけて成長させていくことでカニャンの負担にはならない。
そう思っていたのに、
「リナスさんは甘いです!! この子が見つけたとするこの神聖剣は、持ち主の成長をいつまでも待つわけじゃありません。それに戦闘育成に長けた王都にいる今だからこその厳しさなんですよ? これはこの子の……」
――などなど、相当な熱血指導で俺が口出しできずにいる。
姉だからこその想いもありそうだが、アルミドは神殿騎士として長かったからそのせいもあるかもしれない。
「……参ったな」
今いる場所は、アグリッピナのお店である雑貨屋の地下室。ここでなら、変な邪魔が入らずにこっそりと特訓が出来るわけだが。
「リナスさん、リナスさん。カニャンちゃんが心配なのは分かりますよ!」
アグリッピナは特に何をするでもなく、散らばっている物を片付けていた。
それなのに、
「え?」
「だってリナスさん、過保護すぎますもん! いい加減子離れしてくれないと成長出来ない! って思ってるはずです」
「ええ? 俺の方が心配なの?」
「心配になりますよ! リナスさんが不安そうにしてますからね!」
なぜかアグリッピナに変な心配をかけられている。
「そんなこと言われても……」
「それは置いといて、リナスさん」
説教したのに置いとくんだ。
「うん?」
「そろそろ夜になりますので、その黒いローブを脱いでください!」
「えっ!? 夜?」
アグリッピナは地下室を綺麗に整えていた。
もしかしてここを居住空間にするつもりなのでは?
朝から地下室にこもることが当たり前になってから、食事以外で外に出てもいない。そのせいか、今が昼なのか夜なのかよく分からないでいる。
「早く脱いでください!! その格好では攻撃されちゃいますよ」
「攻撃?」
というか、漆黒ローブにしたのはアグリッピナのせいなんだが。
「カンヘルさんですよ! ギルドマスターの」
「あぁ、半竜の?」
「はい。カンヘルさんだけじゃなくて、他のマスターさんもこの部屋に来るんですよ。だからちゃんとした格好でお迎えしないと~」
もしかしてアグリッピナって本当に、そういう人間なのか。




