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一節目 白髪の少女 アカネ・ヴェルナール

「…知らない天井だの」

 半ば追い出されるような形で謎の部屋を後にした朱音は再び見知らぬ部屋で目を覚ました。部屋の内装は先程とは打って代わりきらびやかな装飾や家具が整頓され、ガラスや金属などがふんだんに使われている。

「これは…私かの?」

 部屋に置かれている大きな姿見に目をやると、雪のような白い髪の、華奢な体をした碧眼の少女がこちらを覗き込んでいる。

「なるほど…あの者の言っておったことはこういうことか」

 姿見を使い体の様子を確認していると、ノックとともに扉が開かれメイド服姿の女性が現れる。

「アカネ様、おはようございます。朝食の準備が整っております、こちらへ。」

 機械的に、そして事務的に挨拶を済ませ、手馴れた手つきで朱音の身支度を済ませた後、スタスタとメイドは歩いていく。

「この子が…私の世話係か」

 廊下をぬけ、食卓へ着くと、家族と思わしき人達が席に着いている。

「おはようございます」

 朱音が見た目相応の口調に合わせ挨拶をすると、父親と母親は笑顔になり、

「アカネ、12歳の誕生日おめでとう!」

「今日からお前も立派な大人だな!」

 姉と思われる少し年上の女性は、朗らかに朱音へと笑いかける。

「アカネ、おはよう」

「ええ、姉様おはようございます」

(初めてあった者たちだが、なんともホントの家族のような心暖かさがある…12歳までの記憶も私の記憶のようだの)

 朱音の頭の中にどう接すれば良いのかが浮かんでくる。

 家族で歓談しながら、朝食を済ませると、父は真剣な顔で朱音に声をかける。

「アカネ…先程も言ったが、お前ももう成人だ、誕生日に決断を迫ることになって心苦しいが…」

 言い渋る父を見兼ねたように母が口を挟む。

「アカネ、あなたも知ってるように、あなたは貴族の娘よ、でもあなたは次女だからおうちを継がせることは出来ないの。だからあなたには他の貴族のところに嫁ぐか、市井に出て街の住民たちと暮らすかを決めてもらわなければならないわ」

「あ、では、市井に出ます」

「「「え?」」」

 早すぎる朱音の選択に3人は驚いた顔で気の抜けた声を出す。

「はい、市井に出て暮らします。幸い家庭教師をつけて頂いたおかげで、勉学や剣技、魔術等は同年代以上には能力がありますから」

「そ、そうかわかった…すまん、決断ができていなかったのはこちらだったようだ、あぁ、そういえばアカネ、12歳にもなったし、もうステータスを見れるだろう、どうだった?」

 父が取り繕うように話を振る。

「えぇと、お父様たちの前で見ようかと、まだ自分では見ていませんでした」

「なら、アプライズと言ってみなさい、そうすれば周りにも見えるわ」

「はい、アプライズ」

(英語…いや、似た形に発展した言語か、原語はゲルマン系か、それとももっと近いか遠いかわからんな)

【ステータス:アカネ・ヴェルナール】

<注>この画面は峰入朱音が見やすいように、主神 マーシアスの元、編集されています。アプライズ時は他者と見え方が異なる部分が存在します。

(error:一部他者からは見えない部分が存在します。)

『能力』

 Lv1

 STR 40

 DEF 20

 INT 50

 AGI 35

 MAG 100 (環境値に依存します)

『称号』

 貴族令嬢・魔法師見習い・剣士見習い・探求者

(転生者・史実を解する者・神との契約者・魔術師)

『スキル』

 火魔法Lv1 水魔法Lv1 風魔法Lv1

 光魔法Lv1 鑑定Lv1 (軌跡の叙述Lv1)

 斬撃Lv1 シールドバッシュLv1 居合Lv1

 ブーストLv1 聞き耳Lv1 隠密Lv1


「おお…この能力値ならば冒険者なんかでも暮らしていけそうだな、それにスキルが11個もある。伸ばし方次第では、将来名を残すものになるやもしれぬな」

「はい、やはりこれまでの学びが生きています。」

(なるほど、軌跡の叙述と言うやつが神の言っておった追加の要素か、魔法のスキルは潤沢じゃし、接近戦でも全然動けそうだの…そして鑑定スキルでわかったが父はホムラ、母はナウス、姉はアオイか…あとあの世話役はナディアと言うようじゃな)

「それではお父様、お母様、お姉様、私は自室で勉学に励んでまいります。12歳になりましたので、明後日までに冒険者登録を済ませて、家を出立します」

「そ、そんなに急いででてってしまうの?もう少しゆっくりと過ごしてからでもいいのよ?」

 姉のアオイが寂しそうに日程の再調整を示唆する。

「いえ、恥ずかしながらこのままズルズルと甘えて言ってしまいそうで」

(このまま傍系親族化するよりはどうせ1度死んだ身だの、遊べるだけ遊びたいの、それに、あまり引き止められては恋しくなってしまうではないか)

 朱音は少し演技混じりに、こちらもまた寂しそうにお辞儀をして、部屋を後にする。

「ナディア、冒険者のギルドに行くならいつごろがいい?」

「あら、アカネ様、いつもみたいにナディって呼んで下さらないんですか?大人になって恥ずかしくなって遠慮してるんですか?」

「ちょっとね…いや、これからもナディって呼ぶことにするよ」

 朱音は少しぎこちない笑顔でナディに返答する。

「わかりました、えぇと、今日が17日ですので、今日か明日のお昼頃であれば空いてるかと」

(どうやらナディは仕事は完全に割り切ってやるタイプのようだの、世話係もあって私的な会話では普通に接するようだが)

「なるほど、じゃあ明日のこのくらいの時間には家を出てそれから、1人で頑張るよ」

「はい、かしこまりました。ホムラ様には私からお伝えしておきます」

「お願い、私は取り敢えず一般的な知識の最後の復習に取り掛かるね、何かあったらノックをお願い」

 ナディアが外へ出た後、ナディアが昼食を運んだりなどの諸用で何度か出入りがあったが、朱音は夕食までの約10時間の間、世界のことや一般常識、マナー、歴史(神学書)などを読み漁った。

(少しの間勉強してみてわかったことは、この世界は時代区分で言えば中世、地域や文化的には西欧が近いようだの、詰まるところ、人類の起源のタイミングから魔法という第三要素によって進化の形と人民の歴史や成長の変遷が分岐したような世界みたいだの。それに、冒険者になるために対人テストもあるようじゃ、少しだけ策でも弄して置いた方がいいかの?)

「アカネ様、アオイ様がいらっしゃっております」

 夜も更け、ロウソクに火をともしながら本を読んでいると、廊下からノック音とナディアの声が聞こえる。

「ふむ?んんっ、大丈夫だよ」

 ガチャリと戸を開けると、寝巻き姿の姉が枕を持って恥ずかしそうに立っていた。

「あのね、その…明日家を出るって聞いたから…今日くらい一緒に寝よ?」

「えっとお姉様?別に家を出るからって家名を名乗らなくなるくらいで何かしらの折では帰省しますし、お別れって訳では無いですよ?」

「えっ!あ、そ、そうね、じゃ、じゃあやっぱり私一人で寝ることにするわね、ま、またあした!」

 慌てたように取り繕う姉に我慢ができず、朱音は裾を引っ張る。

「で、でも今日くらいは一緒に寝ましょうか、お姉様」

(前世では姉妹関係などなかったからなんともこう、クるものがあるの)

「そ、そうね!12歳になってもあなたは私の妹よ、も、もっと甘えてもいいのよ」

「はい、お姉様」

 その晩は結局、遠慮するナディアも入れて3人で寝ることとなった。

「ふぁ…にゃむ」

「おはようございます。アカネ様、アオイ様は先に身支度を整え朝食へと行かれました。アカネ様もお向かいになりますか?」

「うん、あ、でも今日は1人で着替えていくよ。いつもの格好じゃなくて昨日揃えてくれた服に着替えて」

「はい、分かりましたでは、また」

 朱音は自身の服に着替え、前日のように食事を済ませ、出立の準備を終え、家の玄関に立つ。

「では、お母様、お父様、お姉様、そして身の回りの事をしてくれた皆、今までありがとうございました。これからは頑張って冒険者として生きて生きます。何かの折には手紙を出したり、帰省するでしょうからその時はまた」

「ふむ、元気でな、国の法上仕方ないとはいえ、12歳で家を出さねばならぬのは心悔やまれる、だが、お前はもう成人だ、ある程度のことは自分の責任で頑張りなさい」

「もし何か困ったことがあればいつでも頼って来ること」

「はい、分かりました。」

「私は政務を、あなたは市井で、あなたの方がとても大変だとは思うけど、私も私で領地をもっともっと良くして、過ごしやすくなるように頑張るわ、お互いに頑張りましょ」

「はい、お姉様、ヴェルナール領の興隆を願っております」

 そう最後に告げ、朱音は涙ぐむ家族と別れを告げた。

「さてと、宿も事前に取ってあったし、荷物も整理した、これからどうするかの…とりあえず職探しでもするかの」

 城下へ降り、事前にナディアに相談し決めた宿で休息をとると、朱音は何を見るでもなく“ギルド”の看板の示す道をたどった。

「ここがギルドかの、聞いてたとおりに随分とアウトローというか、一昔前の酒場みたいだの」

 ボソッと呟きこぼしながらギルドの建物内に入ると、朱音の想像を裏切り、ギルド内部は小綺麗に整っていた。2階からは騒ぎ声や食器の鳴る音が聞こえるため、酒場や食事場などのスペースは2階に存在しているようだった。

「登録する窓口は…これか、五番」

(この文字が何故か読めるのは微妙に記憶の曖昧な12歳までの識字力が反映されておるのかの?脳内で翻訳できるものと出来ないものがたまにあるのは多分そういうことなんじゃろうな)

「あら、小さなお客さんね、今日はどうしたの?」

「えっと、見た目は幼いけどこれでも一応12歳だの」

「あら、ごめんなさいね。私てっきり8歳くらいだと」

 朱音もといアカネの見た目は受付嬢の言う通り、見知らぬ人からすれば8~10歳程度の幼子の見た目をしている。

「いや、私の容姿のせいだの、お主は悪くない」

「不思議な喋り方ね、おばあちゃんの喋り方かしら。あっといけな行けない、それで今日はどう言ったご要件で?」

「登録にきたのじゃよ」

「冒険者の?」

「うむ」

 受付嬢は少し驚いたような顔をした後、真剣な顔で、低い声で朱音に言い放った。

「貴方、悪いことは言わないわ、もう少し大きくなってから…少なくとも肉体的に15歳くらいになったらにしなさい。あなたが亡くなったら悲しむ人だっているのよ」

「ふむ…家族は確かに悲しむだろうが、家族からは一応両手を振って送り出されたからの」

(両手は少し話を盛ったがの)

「なるほど…あなたにもただならぬ事情があるのね。あなたの目を見てわかったわ、本気なのね…わかったわ」

 受付嬢はそう言って、裏へと歩いていくと、なにやらチップのようなものと、数枚の書類束を持って戻ってきた。

「登録に際して、まずは自己紹介から始めますね、私の名前はカディアここ、ヴェルナール領支部で副マスターをしているわ」

「私の名前は、アカネ、先日成人し家を出たばっかりじゃの。ところで、副マスターのようなものがが受付嬢のような職務をしているのかの?」

「あー、いや今日ちょうど受付嬢の子達が揃って風邪をひいちゃって…手の空いている人があんまりいなかったのよね」

「ん、なるほどの」

 ため息をつきながら話すカディアを横目に朱音は渡された書類に記入事項を書き入れていく。

「そういえばアカネって珍しい名前よね、私の姉の知り合いに1人だけいるわ、良家のご令嬢なんだけど、いい名前よね」

「私もいい名前だと思うの、それにしてもお主…私の知り合いによく似ておるんじゃよな…つかぬ事を聞くが、お主の親戚にナディアというものはおらぬか?」

「え、えぇ…それがさっき言った私の姉よ…待って、てことはあなたってもしかして…ヴェルナール侯しゃむぐっ」

「わー!わー!しーじゃしー!」

 朱音は大慌てでカディアの口に手を当て、人差し指を立てる。

「あぁ、ごめんなさいね、個人の私的情報は秘密にするわ、それにしても奇妙な縁ね、確かに、この前の誕生日で成人したって話だったわね…っとまぁいいわ記入は終わったわねじゃあ、これから説明に入るわね」

「うむ、頼む」

 朱音はそれから数十分の間、カディアからギルドについての説明を受けた。

【説明内容】

 ・ギルドの階級については鉄から順に銅、銀、金までが通常階級、その後功績や信頼が一定まで登れば、その人一人に、鉱物名での階級が付けられる。

 現在の現役は3人で、ルビー、エメラルド、ダイアモンド

 退役は2人で黒曜、パール

 ・階級ごとに受けることの出来る依頼は異なり、上に行けば行くほど、ハイリスクハイリターンのものとなる。

 ・定められた期間依頼の達成がなかった場合、階級が下がる。

 ・冒険者資格は各領地の関所を通るなどの身分証明書としても使うことが出来る。

 ・冒険者同士の私闘や殺害、素材の強奪、一般市民に対して危害を加える行為が見受けられた場合、冒険者資格は失効し、犯罪者として憲兵に手配する。

 ・階級が上がれば個人指名依頼などもあるが、ギルドからの依頼は依頼が詰まっていない場合を除き、受理義務が生じる。

 ・ギルド側の過失により生じた怪我や病気に関してはギルド側が医療費や失業中の金銭面について、一定期間補償する。

 ・依頼主の情報に対しては口外を禁じる。


「とまぁ、こんな感じね?なにか質問したいことは?」

「ん、無いの丁寧な質問ありがとうの」

「じゃあ、次は試験についてね、まずこの水晶に手をかざしてくれる?」

 カディアは先程持ってきた水晶玉を朱音の前に差し出す。

「あい」

 言われるがままに手を置くと、水晶玉は光出し、数秒後、光は収まり元の水晶玉に戻る。

「なんじゃ、これは」

「前科の判別機と、記入事項に不備や偽証がないか、あとアカネ個人を今から渡すカードに設定したの、これで他の人の手に渡ったとしても使うことは出来ないわよ」

「なるほどの、というか不備や偽証までもわかるのか、便利じゃの」

(ん?先程スキルや称号を書いたがあれで良かったのか?)

「不備って言っても誤字や脱字くらいね、冒険者にだって他の人に知られたくない称号だったり切り札的なスキルだったりがある訳で、全部書かせる訳では無いもの」

「そういうもんかの、そういえば試験ってなんぞや?」

「あぁ、ええと、これねあなたの試験は…なるほど結構辛いはね…」

 カディアは水晶に映し出された文字を素早く紙に書き写す。

「まぁ、これをクリア出来たら鉄級の第3階位からスタートするだけで、別に達成できなくても問題なく資格は出るわよ」

 そう言いながら書き終えた羊皮紙を朱音側に見えるように渡してくる。

【資格取得依頼】

 森林部に生息する魔物の討伐・素材を各店舗に売却。

 魔物:ゴブリン、ウルフ、スライム、スパイダー

 店舗:防具屋、武器商、薬師、服屋、ギルド

 討伐数:種類のいかん問わず15体

 注)この依頼は10日達成されなかった場合無条件に失敗となります。

  ギルドからポーション3瓶、松明、地図、ナイフ、マジックパックが支給されます。


「初めてじゃからわからんが、なかなかにヘヴィな予感がするの」

「本当は初心者にしかもまだ12歳の子にこんな依頼は出ないわよ、水晶の魔法機構がステータスから考慮して問題なしと判断したのでしょうから多分達成出来る以来なんだろうけど」

 カディアは心配そうに何度か水晶に映し出されている文字を確認したり、アカネの出した書類を確認したりを繰り返している。

「ま、なら大丈夫だの、10日とあるし、往復で余裕とって2日かかるとしても8日もある、雑に計算して1日あたり2体以下じゃ、野宿したり、宿に戻ったり気長にやるとするの」

「お姉ちゃんの仕事場の令嬢の訃報とか絶対に聞きたくないから、安全第一よあそこは一応初心者でも戦えるレベル帯だからそこまで危険はないだろうけど、もし何かあったら周りの人達に頼るのよ、命だけは大事にね」

 心配そうに、朱音に言い聞かせるカディアに対し、姉との血の繋がりを感じながら、朱音は早速依頼を受理して行く。

「じゃあ、行ってくるの」

 そう言い残し、朱音はギルドを後にした。

「さて、神の言っておった追加の特典も含めて今の自分がどのくらいなのか力試しじゃの」

(ん?…私ってこんなに好戦的だったかの?…まぁ、環境が環境じゃし、適応したとでも考えておくか)

 ピロン

「ん?携帯の音?いや、気のせいか…そういえば私、食料もそのほか雑貨もも持ってなかったのその辺で買ってから森林部に行くかの」

 朱音はブラブラと城下を徘徊しながら、買い揃え、街の東門を抜け森林部へと歩いていった。


『環境値が変化します。“軌跡の叙述”の発動可能条件が変化します。識別名:峰入 朱音および、アカネ・ヴェルナールと世界名:アルディードとの紐付けが完了致しました。』    


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