気づいたら出戻り
恋愛って、なんぞやって、俺は思う。
日々生きてる中で、そんなことだけを思ってたりする。
そりゃ、学業に追われたりもするし、部活でミスして落ち込んだりもするし。
委員会活動やら、生徒会活動やらで熱くなる人もいるんだろうて、俺は違うけども。
でも、根本的には、誰かを好きになって、その人にどんな風に思われてるのかってのを思ってモヤモヤし、頑張って踏ん張って思いを伝え、うまくいかなくて落ち込んだり、うまくいって有頂天になったり。
意外な人に想いを告げられて動揺したり。
そんな繰り返しを経験して、そんな日々を繰り返して。
人は大人になっていくんだろうなって、そんな風に思う。
思ってたりするんだよ。
「ってことを思ったりするんだけど、どう思う、ともさんや」
「一体君が何を言いたいのか、全くわからないよ、きみさんや」
若干冷たい目でこっちを見ながら、俺の妄想ダダ漏れの言葉に対して、そりゃそうですよねの返答をしてくるともさん・・・藤原智美さん26歳。
お肌の曲がり角とかいいつつ、ぷりんぷりんのほっぺの質感を誇る、クールビューティーだ。
この俺、きみさんこと村瀬君弘の恋人でもある。恋人…いい響きだよね、恋人。
この美人さんを自分の彼女にするために、ほんとに、どれだけ苦労したかって話ですよ。
元々は高校の同級生だったのだが、当時、ほんとに人気が高かった彼女のことを、数々のイケメンたちが狙ってた。もう、ほんとに狙ってた。
でも、なんだかよくわからない経緯を経て、俺の彼女さんの地位へと。
いまは、彼女から奥様へランクアップしてもらうためにはどうすればいいのかってのがすごく悩みの種だったりしてるわけで。
当時から考えると、本当に贅沢な悩みだよなぁって思いますけどね、げふぇふぇ。
「君弘、顔が気持ち悪くなってるぞ」
おっと、これはいかん。平常心だ、平常心だ…って。
「顔が気持ち悪いは、言い過ぎじゃないかな、智美」
自分のほっぺを引っ張ったり戻したりしながら、声をかける。
そりゃ、智美と違って俺はイケメンでも何でもないし、さらに変な妄想のせいで気持ち悪い笑顔になってしまっていたかもしれないけど。
「そんな気持ち悪い顔の持ち主を我がパートナーにしたのだ、好意しかないってのは、わかってもらえないかね?」
ちょっとニヒルに笑い、耳元に口を寄せて「大好きだよ」って小声でささやいてくるなんて…やだ、何このイケメン。
恋する乙女のようにキュンキュンしながら、目を閉じて、再び開けると、そこは見慣れた自分の部屋だった。
そう、二人で暮らすアパートではなく、実家の自分の部屋。
「…え?」
戸惑う俺の目の前には、机の上に置かれた鏡が自分を写していた。
少しブカブカの高校の時の制服に身を包み、呆けた顔でこっちを見返す自分が、そこにはいたんだ。