ララちゃんの運命
「日替わりランチ大盛りー」
「俺はそこのおすすめ定食で」
「いつものやつー」
「注文承りました!いつもありがとうございます。」
昼時になると一気に人が押し寄せてくる。そのせいなのか熱気が凄い。わいわいがやがや。
ここは、騎士団専用のカフェテリアだ。カフェテリアといってももちろん騎士様専用なのでかわいらしいカフェな雰囲気が微塵もない。そう、微塵も無いのだ。悲しいことに。残念なことにかわいらしい雰囲気はないがこのカフェテリア改めて食堂と呼ばれるところで働く人の中にかわいらしい子がいる。彼女達こそが騎士達にとってのいやしである。
なかなか士気があがらない騎士達のために今年度から若い人を食堂で採用しようということになった。その結果、期待通り。いや、期待以上の成果があった。もちろん採用倍率は例年の3倍以上だったとか。
そんなことを知らないのがここで働くララである。ララはメルリーナ子爵家の三女だ。だが実家が貧乏だったので彼女は働くことにした。もともと料理が得意だったので王都の食堂で働く予定だったが、この騎士団専用の食堂の給金が想像以上に高額だったので応募してみたらしい。それで見事採用。
ララ以外にももう1人採用された人がいた。商家の娘であるアリー・ルルメイファである。ララが小動物のようなかわいさを誇るなら、彼女の顔立ちはさっぱり美人であり羨ましいプロモーションをしている。髪が長いので余計に美人が際立っている。アリーの方がララより1歳年下だからなのかよくわからないが、アリーはララのことを先輩として慕っている。
この2人こそがあの倍率をくぐり抜けて見事採用された人達である。
ちなみに食堂で料理を作ったり注文を承ったりする割には制服が何故かかわいい。この2人の制服は他の人達と違ってかわいいのだ。膝まであるワンピース丈だが、首回りに襟がありリボンをしている。
「ララ先輩ー、今日もカフェテリアすごいですね!」
「そうだねー!お、アリーちゃん今日はポニテなんだね!かわいい」
「えへへ!ありがとうございます。あ、先輩!あの人です。わたしの運命の人がやってきます!」
「あの人なの?!意外だわ…アリーちゃんかわいいからもっとかっこいい人だと思ってたよー」
「そうですかー?!わたしの中ではとってもかっこいいですよ!わたし逆に外面かっこいい人ってあんまり信用できないんですよね、元婚約者があれだったんで特に…」
アリーの元婚約者はアリーと同じく商家の子息。ただし、内面クソ野郎である。何を隠そう、本当に内面がクソ野郎なのだ。容姿はかっこいいのに、だ。1度ララは写真を見せてもらったことがある。かっこよかった。
しかし、内面はクソ野郎なので、新しい商品を他国に開拓にいくとアリーに言って実際には義理の妹とお泊まりデート兼休暇に行っていたような人である。ありえない。もちろん察しが良いアリーは証拠を確保して見事婚約解消。手腕がすごいと感心した出来事だった。実はもともと婚約解消したかったらしい。浮気する人とは付き合えないとアリーは言っていた。その通りである。
そして今、アリーが熱視線を送っているのはリュカ・アーソン。地味な顔立ちだが、剣の腕はすごいとか。歳も20代前半らしいので18歳のアリーとお似合いである。ぜひ頑張ってほしいところだ。
「リュカ様ー、ご注文は何にします?ところで今日もかっこいいですね!」
「日替わりランチ。」
「冷たいなーリュカは。あいかわらずだな!照れちゃって、このむっつりめ!アリーちゃんかわいいのにその返しはないだろう。ごめんな、こいつがいつもこんな感じで」
「いいえ、大丈夫ですよー。わたしリュカ様ラブなので!そんなところもかっこいいリュカ様」
アリー愛するリュカと一緒にやってきたのはルイ・ゴーデン。彼は伯爵令息の次男である。誰にでもフレンドリーなところが良いらしい。(byララの友達談)
「ララちゃん元気ー?俺も日替わりランチにしようかな」
「はい、承りました。」
「ララちゃん小さくてかわいいなあ。癒しだ。(誰かに気付く)お!久しぶりじゃねーか。2週間の長期任務からやっと戻ってきたな、おつかれい。てか、あいかわらずキラキラしてるなお前。」
「まぁね。それが取り柄だからさ。俺も日替わりランチお願いね」
「了解です」
このキラキラしている人はシモン・サンドリーム。ルイ様と同じく伯爵令息の次男。キラキラ笑顔をよく振りまいているがシモンに対してちょっと身の危険を感じるララちゃん。
(こうゆう人こそが実は腹黒なんじゃないかなって思っているけど…)
「ララちゃん、何か俺の顔についてるー?」
(ドキッ)
「いいえ、いつも通りですよ」
「わぁ、シモン様いつにもましてキラキラしてますねー」
リュカとの会話が終わって登場するアリーちゃん。
「それはどうも」
「あ、先輩!盛り付けできたらしいですよ」
「おっけー!知らせてくれてありがとう」
その日の夜。ララとアリーは専用の寮があるのでありがたくそこを使わせてもらっている。1人部屋だが、こうしてたまに一緒に集まってプチ女子会兼パジャマパーティーをしている。
「はぁ、今日もリュカ様尊かった。もう幸せ〜」
(かわいいなぁ、乙女の表情してるアリーちゃんは)なんてことを考えて微笑ましく見守っていたララ。
「そういえば、ララ先輩は好きな人いないんですかー?ずっと気になっていたんですけど!」
「うーん、よくわかんないだよねえ。ずっと忙しくて恋とは無縁の生活してたからなぁ」
「えー!そうなんですかぁ?!わたしのおすすめはルイ様かシモン様です。彼らも20歳前半ですし。絶対にララ先輩とお似合いだと思うんですよね。でもわたしが見た感じ、ララ先輩はシモン先輩のこと少なからずかっこいいと思ったことあるんじゃないですか?」
「…それはあるかも?無意識に。でもあの人いつもキラキラ笑顔で何考えているのかわからないじゃない。」
「そうですかー?(いや、見た感じあの人はララ先輩のことしか考えていないですよ。いつも気付かれないように熱視線送ってるのがすごいって感心してます。何気に周りを牽制してるし。もちろんララ先輩には言わないけど。)」
「そうだよ!(よく分かんなくなってきた。恋ってなんだろう…)」
「ずっと思っていたんですけど、ララ先輩の癖毛ふわふわしててかわいいですよね!わたしストレートなので憧れます」
ララはたしかに癖毛である。肩くらいの長さだが毛先が癖毛で色もミルクティーベージュなのでより小動物っぽく見える。身長も同年代の女性に比べると低い。逆にアリーは身長が高くすらっとしている。髪はストレートで茶色なので、それがより美人を醸しだしている。
「わたしはアリーちゃんのストレートロングの方が憧れだよ」
こんな会話をしながら更けていく夜だった。
休日。光が差し込む朝。
(今日は確かアリーちゃんはリュカ様とデートって言ってたっけ?うーん、何しようかな。私もぶらぶらしに行こうかな)
王都の城下町にお出かけすることにしたララ。しばらく歩いていると、
(わ!あれおいしそう!あ、あっちもいいなあ。)
おいしそうな香りがするお店が並ぶところを香りにつられてふらふらしながら歩く。本人は気づいてないがわりと危ない蛇行をしている。もちろん他の人の迷惑になっているが、ララには食べ物しか見えていない。すると、当然こうなる。誰かに押されて転けたひょうしに髪が引っ張られた。はっきり言って痛い。とても痛い。髪が誰かのボタンに絡まったらしい。
「ごめんなさい」とりあえず謝って、顔を上げてびっくりしたララちゃん。ポカンとするしかない。それもそのはず、髪がボタンに絡まった相手はキラキラ笑顔のシモン様だったからだ。
お互いにびっくりする彼ら。びっくりしすぎて声もでない。
やっと現実に戻ってきたらしいシモンが、
「休日に会うなんてすごいね、俺ら。大丈夫?!ちょっと絡まった髪取れるまで待ってね」
「ごめんなさい、前方不注意で!」
通行人の邪魔にならないように移動したララ達。痛くないように優しく髪に触れてとってくれるシモンに思わずドキッっとしたララ。
(やばい、ときめいてしまった。こうゆう親切なところがかっこいいなあ。)シモンへの好感度がアップした。
「それで、どうなったらこうなるの?逆に疑問なんだけど」
「それは…」
事の事態を説明。呆れるシモン様。呆れた顔すらかっこいい。
「スリとかもいるから気を付けようね。なんかこのまま1人で返すの心配になってきた。どこに行く予定だったの?」
「食べ歩きしようと思ってて…」
そして結局なぜかシモンと一緒に行動することになった。あまりにもララがふらふらするので迷子にならないように手も繋ぐことになった。
恥ずかしい。周りから見たらラブラブカップルである。2人で楽しく食べ歩き。
(私服もかっこいいとかさすがシモン様だなぁ…ん?かっこいいとは…)
心の中でナゾの葛藤をし始めるララ。
「ねー、俺のこと、この前腹黒じゃないかって思ったでしょ」
(バレてる…)視線を一瞬逸らしたララちゃん。
「そんなことないですよー」
「今視線逸らしたよね?みてたよ。」
(やばい…なんか身の危険を感じてきた…逃げたい)
「今逃げたいって思ったでしょ」
(ドキッ…エスパーか、なにかなのか?なんでわかるの?怖…)
「いや顔に出てるよ」
「えっ!!顔に出てました?!」
「うん。まぁ、でもかわいいララちゃんに免じて許すよ。じゃあ今日の記念に、はい!これ。」
「えっ?」
何かプレゼントらしきものをもらったララ。そしていつのまにか寮の前。
「あ、送ってくださってありがとうございました。今日楽しかったです。これもありがとうございました。」
「いいえー、ララちゃんが楽しんでくれてよかったよ。それ付けてね。じゃあねー」
去っていく姿さえも絵になるほどかっこいい。
「ララ先輩これ何ですかー?もしかしてもらったんですか?きゃ!!もしかしてシモン様??!!絶対に付けるべきですよー!このイヤリングのセンスいいですね、しかもこれ今流行りの超有名店…」
プレゼントはイヤリングだった。付けようか迷っていたけれど、アリーちゃんの後押しもあってつけることにした。それはシモン様の瞳のアイスブルーみたく透き通った色をした宝石がついたイヤリングだった。
「裏定食ー」
「俺は日替わり!!」
「特盛のおすすめでー」
「日替わりよろしくなー」
今日も繁盛する食堂。
「ララちゃん今日もかわいいねー」
「あ!ルイ様、ご注文は…」
「ん?そのイヤリングってもしかして…」
「付けてくれたんだね。似合ってるよ、かわいい」
横からいきなり現れるシモン様。
「あ!シモン様、ありがとうございます」
「やっぱりシモンお前か!何やってんだよ、お前のせいか。お前のせいなのか。今日はいつにもまして騒がしいと思ってたけどこうゆうことなのか。(は!もしかして)気持ち伝えたのか?くっそう、先越されたよ〜俺も狙ってたのにー」
「(本人には伝えてないけど)外堀は埋めたよ。ルイは諦めろよ」
「この腹黒が〜!お前ってそういう奴だよな」
くっそう〜っ!!と言って走っていったルイ様。
どうしたんだろう。
「ララちゃん、これから覚悟しててね!」
良い笑顔でバッチンとウインクしてくるシモン様。
(ドキッ……なんか身の危険をさらに感じる…?)
「きゃあ、やっぱりそうなんですねえ!がんばってくださいシモン様!!応援してます」
何やらアリーちゃんが楽しそうな雰囲気を醸し出してきた。
(なんかここに居てはいけない気がしてきた…身の危険が迫ってる…?)
これからどうなるのか。それは誰にもわからない。
でもきっと楽しくなるでしょうとアリーちゃんは密かに思っていた。以上。楽しいこと大好きなアリーちゃんからお送りしました。
ーーーおまけーーー
ルイと彼の同僚の話。
「おい、聞いてくれよ!」
「あれだろ?!ララちゃんのイヤリングの話だろ。諦めろ」
「ひでぇ」
「だってシモンに殺されたくないし。ララちゃんと仲良くしただけで殺すような視線送ってくるからまじで恐怖なんだよ。と、いうことでお前のとばっちりには合いたくないからこっち来んなよ。勝手にやれ」
「ひどい、お前は俺の同僚だろー?!」
彼の叫び声が、こだました。
ーーーおまけーーー
ララとアリーを採用した面接官達のお話。
「どう思います?面接官」
「うーむ。いかにも玉の輿狙いな令嬢と庶民は除外だ。あと面接で色仕掛けをしてこなくて、裏表が無さそうで威圧的な態度じゃなかった人を厳選しろ」
「了解です。あと癒し要素はいりますか?」
「いるなぁ、いたら良いよなあ」
「了解しました。美人要素はどうですか?」
「それもいいなあ。」
「おい、そこ!あんまり顔を重視しすぎるなよ」
「「はい」」
「長官!厳選したら2人になりました」
「何?あれだけ人がいたのにか」
「はい。1人はララ・メルリーナ子爵令嬢です。彼女は三女であり彼女の実家は貧乏。しかし優しくて真面目な性格と料理上手なところがよく思いやりがある印象でした。しかもいやし要素もばっちりあります。
もう1人はアリー・ルルメイファ嬢。彼女は商家の次女です。美人な顔立ちでしたが、明るくさっぱりした性格でした。美人要素もばっちりなので適任です。この2人が最終候補です。」
「なんと!!2人しかマシな人がいなかったのは残念だが、合格だろう。採用だ!そうと決まれば、かわいい制服を用意しろ」
「了解です。ところで制服のリボンとネクタイどっちがいいですか」
「リボンだな」
こんな感じて2人に決まったのだった。
ーーーおまけーーー
シモンの独り言。
「今日もララはかわいかったなぁ。まさに俺の天使!!はぁ、俺の運命の相手はララだけだ。早く結婚したいなあ。そうだ!外堀から埋めてララを手に入れようかな。そうと決まれば、良い実績と両親へのあいさつだ。」
そうしていつのまにか外堀が埋まっていくララの周辺。
がんばれララ!!
ありがとうございました。