空から妹が!?
自信満々というより、なぜそんな些細な話で喚いているのか分からないといったクール。
もしかしたら、とリヒトも思い始める。
「……できるのか? 社長の悲しむ顔は見たくねェんだ」
「オマエ、良いヤツだな~。おっちゃんも嬉しいよ。オマエらごときがおれにその口をきけて、そのボスの妹となりゃ大したものだろ? ひと肌脱いでやろう。おれがなんかするわけじゃないけど」
クールが退室した。おそらくルーシを追いかけに行ったのであろう。
「こっちのほうが常識破りしてると思ってたけど、やっぱ社長の仲間だよな~……。意味分かんねェヒトだ」
*
高層ビルの屋上にて、風を浴びながら、銀色の髪をなびかせてタバコを咥える幼女がいた。
その近寄りがたい場所に、クール・レイノルズは平然と割り込む。
「姉弟。妹がいたことくらい話してくれよ」
「……ああ、悪かったな」
「天界には1回行ったことがあるんだよ。特段思い出はないんだが、あそこに住む連中にはひとつ共通点がある」
「……なんだ」
「別次元の世界をつなげられる力さ。姉弟、おれに隠し事し過ぎだよ。あのピンク髪のアバズレビッチ、天使なんだろ? 魔力の流れが逆だし」
「……そうだな。オマエを信用しなかった私の失態だ」
「暗い顔するなよ。ED患者じゃあるめェ。その天使を呼べるか? 面白い現象見せてやる」
ルーシは思わせぶりなクールの態度にも「ああ……」と鳴き声をあげるだけだった。
携帯を取り出し、通話をし始めたら、そのピンク髪の天使は現れた。
「なんですか? まだ私悪いことしてないですよ?」
ルーシは黙り込む。代わりにクールが彼女に口を聞く。
「天使をひとり呼び出せ。名前はタイペイ。階級は守護天使だ」
女優並みの美貌を誇るピンク髪のヘーラーは、「……は?」と口をあんぐり開ける。
面倒くさそうにクールが最前のセリフを繰り返すと、ヘーラーは顔を歪めた。
「え? 上司の上司呼ぶんですか? ルーシさんに殴られたくらいじゃ死なないですけれど、天使は天使も殺せるんですよ? 私、殺されたくないんですけれど」
「知らねェよ、オマエの事情なんざ。オマエのお付きの姉弟ルーシが困ってるんだ。なんとかしてやるのが、天使の筋ってものだろうが」
1日15時間眠らないと気が済まない、生き物として失格品なふたりは、なぜかルーシも知り得ない情報を握っているようだった。
そのため、遠くを見ていたルーシはようやくふたりの方向に目線をあわせる。
「……おめェら、なんの話している?」
「ああ。天使は非常事態のとき、自らの世界からヘルプを呼べる。このピンクが喚けば、一定時間好きな天界人を召喚できるわけだ。酒飲み潰れで脳も壊されてるだろうから、一瞬で通るさ。だろ?」
クールはヘーラーを睨む。口調とは裏腹にまったく笑っていない。
そもそも種族として違う位置にいる者に睨まれ、恐怖と尿意を覚えたヘーラーは、情けないことに人間の命令に従ってしまった。
「うぅ……。私は天使なのに──、ひゃ!? 拳銃向けないで!! 呼びますから!! タイペイさーん!!」
ルーシ・スターリングは、空から死んだはずの妹が降ってくる奇妙な体験を果たした。




